第23話:冒険者になりました
――カッ!
鑑定水晶は目を覆いたくなるくらいに眩しい光を放ち、リリルの職業ランクを鑑定して羊皮紙に記していく。
その羊皮紙を手にしたシェリカさんが内容を確認し、それを元にギルドカードが発行される。
「リリル様は職業ランクRの
そして、偽装スキルは鑑定水晶すらも欺きリリルの職業ランクUR、宵闇の魔法師を偽装して当たり障りないRに落ち着かせた。
「二重魔法師ですが、持っている属性が火と雷ですから攻撃特化の魔法師ですね」
「雷とは、珍しい属性を持っているのね」
「珍しいんですか?」
魔法師には使える魔法属性があるらしく、その属性以外の魔法は使えないのだとか。
一般的な属性でいえば火や水、土や木などが挙げられるが、その中でも雷というのは珍しく、威力の高い攻撃魔法を放てるということで人気の属性だという。
「どうして今まで冒険者にならなかったの?」
「スレイと同じで、自由気ままな生活に憧れていたからよ」
「へぇー、珍しいの」
絶対に疑っている、そんな気がする。
もしかして、疑っているからこうして部屋の中への同行を希望してきたのかもしれない。
「次はスレイ様です」
俺が偽装スキルを使ったのは昨日が初めてだ。
今のところは見た目も変えられているし、勝手にスキルが解けるなんてこともなかった。
リリルにできたのだから、俺にできないはずがない! ……たぶん。
「それではスレイ様も鑑定水晶に両手を置いてください」
「……はい」
ゴクリと唾を飲み込みながら、俺は意を決して鑑定水晶に両手を置いた。
――カッ!
ここでも同じように眩しい光が放たれ、俺は目を閉じながら成功してくれと心の中で何度も願う。
光が収まり、羊皮紙がシェリカさんの手の中へ。
「……えっ?」
……これは、まさか、何かマズったか?
「ど、どうしましたかー?」
「す、凄いですよ、スレイ様! SRの
「……そ、そうかな?」
「そうですよ! 魔獣も手なずけているしただ者ではないと思っていましたが、やはりランクの高い方だったのですね!」
素が出るほどに驚いているシェリカを見て、俺は一つ息を吐いた。
本当なら俺もリリルと同じRくらいで収めようと思っていたのだが、Bランクの冒険者であるスキッドを叩きのめしてしまったので、それでは疑われると思ったのだ。
その為、仕方なく一つ上のランクであるSRにしたのだが、これでも相当驚かれてしまったよ。
「SRならスキッドを叩きのめしたのも納得だわ」
「ちなみに、スキッドの職業ランクって何なんですか?」
「同じSRだけど、職業は
職業ランクで差があれば、職業でも差はある。
俺の荷物持ちなんて、Nの中ですら最底辺だったのだから、よくここまで来られたものだと自分でも驚いてしまうよ。
「ちなみに、魔剣士は?」
「SRの中でもトップクラスの職業ね。それにしてもスレイは不思議ね」
「そうか?」
「そうよ。自分の職業のことなのに、なんで知らないのかしら」
ドキッ!
「それじゃあ、早速ギルドカードを発行するわね!」
仕事モードをすっかり忘れてしまったのか、シェリカさんは獣魔契約をした時の気安い口調で話し始めた。
ここで追及されるとぼろが出そうなので、俺は話を終わらせてシェリカさんに付いていく。
「……ねえ、スウェイン。あの子、絶対に疑っているわよね?」
「……だろうな。まあ、家が見つからないようにするには同行するしかないだろう。それと、ここではスレイで頼むな」
いつどこで偽名を使っていることがバレないとも分からないので、ヴィリエルがいる間だけはスレイで通すしかない。
「こちらがお二人のギルドカードになります」
素早く仕事を終わらせてくれたシェリカさんから受け取ったのは、銅色に輝く細長いプレートだった。
表面には名前とランクが刻まれており、俺もリリルも当然ながらFランクとなっている。
「FランクとEランクは同じプレートを使用しますが、Dランクからはプレートの色も変わります」
どうやらランクが上がるたびに上等な金属を使ってギルドカードが更新されるらしい。
今使われているのが銅なのだが、Dランクでは銀、Cランクで金、Bランクでミスリル、Aランクからは統一で虹色鉱石という七色に輝くプレートになるんだとか。
「スレイ様ならAランク以上も夢ではありませんから、冒険者としてしっかり励んでくださいね!」
「私はどうなのかしら?」
「そうですねぇ。Rの二重魔法師、それでも雷属性持ちですから……Bランクまでは問題はないかと」
そこでおだてるのではなく、冷静に能力を分析して答えるあたり、さすがは副ギルマスといったところか。
「スレイ様とパーティを組まれるなら問題ないでしょうが、無理だけはなさらないでください。命の危険と隣り合わせの依頼も数多くありますからね」
「……そうね。ありがとう」
そして、リリルもシェリカさんが本気で心配してくれていることが分かっているからか、それ以上は何も言わなかった。
「よーし! それじゃあ二人とも、私の依頼に付き合ってちょうだいね!」
「あれ? そういえば、ヴィリエル様が受けた依頼というのはどんな依頼なのですか?」
「んっ? 人界と魔界の境の調査よ」
「……はい?」
あれ? なんだか、シェリカさんの表情が固まったんだけど、どうしたんだ?
「……ごめんなさい、もう一度教えてもらっていいかしら?」
「だから、境の調査だってば」
「…………はああぁぁぁぁっ!? ちょっと、そんな所にFランクを連れていくなんて、何を考えて――」
「ギルドからの依頼なんだから、同行者は私が決めるわ。それじゃあね、シェリカ」
「ちょっと、ヴィリエル様! スレイ様もリリル様も、絶対に断ってくださいね! いいですね!」
な、何やらものすごく怒られてしまったのだが、これは断った方がいいのだろうか。
……とにかく、ここから逃げる方が先決のようだ。
俺たちは怒鳴るシェリカさんの声を背中で聞きながら冒険者ギルドをそそくさと後にした。
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