第47話:今度はそちらからですか
◆◆◆◆
集落と呼んでいいのか分からないが、とにかく住民が増えたことで、俺は仕事を割り振ることにした。
さすがに全てを俺だけでやるわけにもいかず、彼らも何か仕事が欲しいと言ってくれたからだ。
とはいえ、やることといえば畑仕事くらいしかなかった。
「あの、俺はNですが、職業は農夫なんです。なので、お手伝いできると思います」
そう言ってくれたのは、大人では唯一の男性であるロットさんだった。
一応、俺は住民の職業を教えてもらっている。
ロットさんの奥さん、ミリーさんが針子。
姉妹の姉でレベッカさんが商人、妹のエミリーさんが細工師だ。
現状、商売もできないし布や金属もないので女性陣に仕事はないものの、ロットさんの畑仕事の手伝いをしてもらっている。
「うーん、どうにかしてみんなに仕事を与えられないものか」
話し合いから数日が経ち、そんなことを考えていると、リリルとルリエが同じタイミングでお互いの部屋から出てきた。
……それも、大荷物を抱えて。
「お前たち、どこに行くつもりだ?」
「魔界に行こうと思っています」
「困っているのは人族だけじゃないからね。魔族のRで、リリルさんを慕っている人がいたら連れてこようと思って!」
……だからさあ、お前さん方。
「そういう大事なことを勝手に決めるなって、前にも言っただろうが!」
「……ごめんなさい」
「本当に分かっているんだろうなぁ」
「わ、分かってるわよ。でも、スウェインだったら受け入れてくれるかなーって」
「今はもう、俺たちだけの場所じゃないんだぞ! ここにはロットさんたちもいるんだから、みんなの意見を聞く必要があるってことだよ!」
「「……あっ!」」
頼むから、勝手に変なことをしないでくれ。
「とりあえず、今日の出発はお預けだ。みんなで話し合いをして、それから決めることにしよう」
「「……はい」」
「クウウゥゥゥゥン」
「……一応聞くが、ツヴァイル。お前も行くつもりだったのか?」
「ガウガウッ!」
……もう、お前との獣魔契約をリリルかルリエに移したくなっていたぞ、俺は。
そして、その日の夜に全員が俺たちの家に集まった。
「今日はどうしたんですか?」
ロットさんはすっかり住民たちのまとめ役になったみたいだ。
まあ、唯一の男性だし、集落をまとめている俺も男だから、自然とそうなった感じだけどな。
「こちらの二人が、皆さんを連れてきた時のように、まーた勝手に動こうとしていたので意見を伺いたいと思ったんです」
「「……すみません」」
肩を落としている二人を左右に座らせて、俺は簡潔に内容を説明した。
「……魔族を移住させる、ですか?」
「はい。そんな大事なことをこいつらは勝手にやろうと!」
「もう、スウェイン! さっきから何度も謝っているじゃないのよ!」
「そ、そうだぞ! 説明もしたんだから、後はみんなの意見を聞こうじゃないか!」
ひ、開き直りやがったよ、こいつら!
「でも、どうなんだろうな」
「リリル様のようにお優しい方ならいいんですが、魔族というのは、その……怖いイメージがありますから」
ロットさんとミリーさんは難色を示しているか。
「……私たちも、その」
「……怖い、ですね」
うーん、レベッカさんとエミリーさんまでダメとなると、さすがに厳しいかも。
「どうしてまぞくはダメなの?」
「わたしたちみたいにこまってるんだよね?」
「……ロリィ君、ミレットちゃん」
難色を示す大人たちとは異なり、子供たちはどうして助けてあげないのかと首を傾げている。
だが、その反応を見た大人たちはハッとした顔をしていた。
「……そうだな。ロリィ、ミレット」
「うん。私たちに手が差し伸べられたように、魔族の方々にも差し伸べられていいと思うわ」
「人族も魔族も、関係ないものね」
「そうだわ! ありがとう、ロリィ君、ミレットちゃん!」
……どうやら、決まったみたいだな。
「それじゃあ、明日には出発してくれ。それまでに、また数軒の家を建てておくからさ」
俺が笑顔でそう告げると、下を向いていた二人は顔を上げてお互いに見合うと、突然抱きついてきた。
「どわあっ!?」
「ありがとう! スウェイン!」
「さすがスウェインね! 男がでかいわ!」
「と、とりあえず離れてくれ! いいか、何か、当たって……いいから、離れろおおおおっ!」
こうして、俺の集落には魔族が移住する予定が立ったのだった。
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