第2話 落ち込んだことなんて、一度もない?
「はい! 先生。その答えは、はっきり言って……全然わかりません!!」
……きっぱりと、きっぱりとそう言い切った女の子。
右手をまっすぐに高く上げて、椅子から……これも綺麗にまっすぐに起立して。
……そのせいで、女の子がさっきまで座っていた椅子は、勢いよく後ろへ……ズガーン!!
とね……まるで月曜日の朝礼で、全校生徒がグラウンドに出席番号順に整列して、校長先生か理事長の聞きたくもない御話(ありがた~い御話)を聞いている時に、前列の女子高生が低血圧のために、貧血で倒れてしまったように――
教室の中にいた生徒達は一斉に、その女の子――彼女の方へと振り向き見入り、み~んな視線を向けている。
み~んなね……唖然としてる。
(なに? あの人……)っていう感じで、みんなが見ていた。
おどおどしている生徒達も数人いる。
そりゃそーだ。
しーんと静まっていた授業中、いきなり彼女が大声をあげて、
「はい! 先生。その答えは、はっきり言って……全然わかりません!!」
なんて言うものだから。そりゃ、ビックリして当然である。
中には――
また、あの人だ……。
ああ、あの人ね。
っていう感じで、後ろの生徒が机に前のめりになって、自分の前にいる友達へ、肩をツンツンと……ねえねえ? というように。
そしたら、前の生徒も後ろに振り向いて、ひそひそ……ひそひそと、小声で何かを話している。
また、あの人だ……というひそひそ話なのだから、あの人はね……。という言い方からして、要するにクラスの中の変わり者のような人を井戸端会議のように、彼女って困ったちゃんなのよ的な。
クラスメイトに困ったちゃんなのよ~なんて、言っちゃいけないと作者は思うのだけれど――
いやいや! そのまま本当に困ったちゃんなんだって!!
「…………あの。
――ホワイトボードを背にして、左手に教科書。右手にペンを持って。
その右手のペンを新子友花に向けたまま、RPGで敵のモンスターから呪文攻撃されて、半分石化状態のようになっている先生が教壇に立っている。
(あっ、このホワイトボードとペンは、すべてデジタル使用ですから。アナログのやつじゃないです)
――その先生。
学校の教育実習でやって来た、少し小綺麗なファッションでして(いい意味で書いていますからね)。
でも、どこか地味さを演出していて。
私は今日が皆さんのような本物の生徒に授業を教えるのは、はじめてなんです……よろしくお願いします。のような感じで、緊張した姿を見せて生徒達に“緊張感”をさりげなく演出している先生。
女性です。
キ~ン コ~ン カ~ン……
先生や新子友花以外の生徒にとっては、グッドタイミングの授業終了のチャイムだった。
「……はい、今日の授業はここまでにしますね……。皆さん! しっかりと復習しておいてください。……あと、さっき指摘した教科書の問題。宿題もしっかりとやっておきましょうね~」
緊張した姿からチャイムの音で『ハッ』と我に返った先生。
口調を聞いていると、本当は明るくて、真面目で優しいんだろうな……という、フッと肩の力が抜けた様子で、先生は生徒達に笑顔で言った。
「ええ!!!」
一方の生徒達。
青天の霹靂、いや違う。生徒達は辟易……
最近、先生って宿題多いよ! 本当にほんと!! と言った具合に教室中から一斉に、生徒達の先生へのブーイングだ!!
対して先生はというと、
ふふっ
先生はそれを笑顔でかわして、『それじゃ~ね~』と、生徒達へバイバ~イと手を振って――すたすたと教室の扉から出て行っちゃった。
――授業が終わって。休み時間である。
ねね! 早く次の教室に行こうよ?
うん! あの教室前の方のいい席を取らないとね。
あの教室の後ろの席って先生の声聞こえにくいし……。
照明の当たり具合で、ホワイトボードも見えにくいよね。
いそいそと、二人一緒に扉へと走っていく女子生徒――
あ! あんた何? 弁当食べてんのよ?
うるせー! 俺は腹減ってるんだ。
いーけないんだ! いーけないんだ!
男子生徒が早弁しているのを注意している女子生徒もいて――
ここ聖ジャンヌ・ブレアル学園の、よくあるあるな、日常的情景である。
ただ、1人をのぞいてはね――
――休み時間に入って、約4分くらい経過して。
新子友花は、実はまだ直立で起立して、右手をまっすぐにあげていた……のを、ゆっくりと下した。
「…………だってさ、全然わからないものはさ……わからないんだもん……」
授業の時のハイテンション状態とは一転、新子友花はそうブツブツと小声で言いながら、倒れている自分の椅子を戻している。
クラスの席替えで、誰もがあこがれる窓際の席。日当たり良好で、見上げれば青空という優良物件。
クラスの人数は20人。窓際の席は5席。
確率は4分の1。その4分の1の中から、更に一番後ろのベストオブベストの席は5分の1。――要するに20分の1の確率である。
そのラッキーな席に新子友花は座ってい……いなくて。
――その1つ前の席が、新子友花の席なのだ。
紹介しておこう!
彼女の名前は
別に脱色していません! 地毛です!! という金色の髪の毛が、ふわふわっとした感じで背中の腰の辺りまで伸びている。
前髪も、ゆらゆらっとした感じ。自然体で眉下まで伸びている。風が吹くと、全体的に神話に出てくるメデューサのあんな感じ(どんな感じだ?)と流れる。
ここ聖ジャンヌ・ブレアル学園は、府内有数の進学校として有名である。
……けれど、彼女の成績は先生からの問題に対して、全然わかりません。……とキッパリと言ったようにダメダメなのである。
スーパーで買ってきた握り寿司セットの中に、この菊の飾り付けいらないよね? とまでは言わないけれど。
ねえねえ? このネタの名前って? わかんな~い。という寿司ネタの部類に入っている……つまり、中トロやエビは有名だけど――彼女はそうじゃないってことを、読者様にわかってもらおうと…………
ちょい! ちょいな!! 作者! 私は腐った
(新子友花から作者への苦情である……そこは、さくらんぼと言って欲しかった)
「だって、わかんないんだもん……」
倒れた椅子を元に戻して、今度は教科書やノート、(これもデジタル仕様ですからね。スマホのでっかい版が教科書で、同じくデジタルで筆記できるメモアプリの有料版みたいな……)をカバンに詰め込みながら、新子友花は悲痛に、わかんないを連呼している。
(いい天気だな。快晴だ……)
一瞬、新子友花は顔を上げて窓の外に見える、雲からこぼれ指している太陽の光の筋を見つめた。
「……ああ。あたしって、なんでこの聖ジャンヌ・ブレアル学園に入ったんだろう」
表情は虚ろ。心中もどんよりどよどよ……と言ったところだろう。
「この学園って、こんなに授業がハイレベルだと思わなかったし……。毎日まいにち、授業についていけない感じがして……いや、そうだ!」
視線を教室に戻す。
教科書とノートを、ズンッとカバンに押し込めて、スッと立ち上がった。
そして、新子友花は授業で先生や生徒達へ見せた時のように、今度は右手を胸の前でギュッと握った。
――キッパリと、何かに対して納得して、
「こんなことだったら、滑り止めで受験した学校へ行っとくべきだったんだ!」
と独り言をボソボソ小声で呟いた。
「あっちのほうが授業レベルは低くて……今、あたしがこんなに苦労して、聖ジャンヌ・ブレアル学園の授業についていこうと……。でも、ついていけなくて……」
そのまま、ウンウンと頷き始めた。
「……まあ。1年の時はなんとか授業について行けてたけど。でも、それは聖ジャンヌ・ブレアル学園では1年では、基礎的な授業しかやっていなかったから。2年からこんなに授業がハードになるなんて……」
新子友花は聖ジャンヌ・ブレアル学園の2年生である。
「……無事に進級できたのは不幸中の幸いだった。赤点・赤点・赤点・補習、また赤点・補習・補習の連続で」
呟きは炎上モードに入りつつ。
……自分の成績不振をモールス信号のように言っても、誰も君の学力を味方することはできないのだけれど。
「でも! もう、ヤバいかもしれない」
思わず感情的な気持ちが露出してしまったのか? ここだけちょっと大きな声になった。
「だってさ! 2年になってから、どんなに授業を聞いても、勉強しても、全然理解できない……。まったく意味がわからないんだもん……」
胸の前でギュッと握り続けている新子友花の拳が、ブルブルと震えている。
「…………しょうがない。考えたらあかん」
なんで関西弁になった? ――新子友花の頷きが止まった。
「はっ! 休学して猛勉強? それとも転校? もしかして退学して専業主婦!!」
あんた、まだ結婚してないでしょ。
「確かできちゃったっていうやつで妊娠して……そしたら、学園の職員室か校長室に呼び出されて」
「そのまま、強制的に退学に追い込まれて……」
新子友花よ。落ち着けって――
「まあ……新子友花さんは、我が学園の校風よりも、新子友花さんの性格を活かすことのできる自由な環境で、そう伸び伸びと御子様を育てた方が……」
新子友花の独り言は、とうとう第三者――たぶん校長先生だろう。なんだか、演出掛かってきた。
「って言われて……そのまま退学。寿退学だ!!」
ギュッと新子友花の拳の力が入って、ブルブルとしていた震えが止まった。
(寿退学って、変な言葉を作りなさんな……)
「これ、行けるかも! いや行ける!!」
またも独り言から、今度はコーラス部の放課後の体育館倉庫裏の発声練習のごとく、……もう教師中に聞こえる勢いで…………
だから、落ち着けってば……
――その時。
「なあ、お前って……」
つんつん、つんつんと……。
後ろから、新子友花のブレザーの制服の腰辺りに、新子友花が『だって、わかんないんだもん……』と言いながら、自分の椅子を直そうとしている辺りから……ちょい、ちょいっとお前という具合に。
――新子友花が自己中心的な思考に陥って、妄想を肥大させ『寿退学だ!!』って宣言した時から……今度はちょっと力強めで。
新子友花の後ろから、つんつん、つんつん、と指で突いている人物がいた。
口調からして男性。
その男性は新子友花の後ろの席――つまり、ベストオブベストの席を見事獲得できた人物である。
「なあ新子友花、お前ってさ……」
「……その声は、いや、ずっと知ってたけど、
「お前って、頭わり~な。俺、お前に引くわ……」
「…………あ、あんたから見れば、そ、そうなのかもねぇ~?」
「……あ、あんた。さっきから……あたしのこと、……ず、ずっと見てたの?」
新子友花は後ろを振り返った――
恐るおそるな感じで、である。
(いやいや、授業が終わってからの休み時間で、客観的に考えて恐るおそるは……君の方だと思うよ)
振り返った視線の先、つまり真後ろ。そこに彼が勿論いた。
……ああ、そうだよ。的な感じで……。
彼は自分の机に『ああ~だり~、早くお昼休みにならないか? 授業めんどくせ~』の感丸出しで、授業そっちのけで爆睡している、あるある生徒のように。
彼は机に寝そべって……寝そべりながら、上目で新子友花を眺めていた。
紹介しておこう!
彼の名前は
これも、別に脱色していません。俺地毛です。という感じの茶色い髪の毛、センター分けで短髪である。
彼は聖ジャンヌ・ブレアル学園で、成績はトップクラスの実力の持ち主である。テストの度に張り出されるランキングで、常に上位に名前が書かれている優等生? である(成績だけはだけど……)。
だから、想像すればわかるけれど、彼に注目している女子生徒はもちろん多い。
『キャ~! キャ~!!』ってな感じで、パニック映画に出てくる若手女優じゃないけれど、学園中の話題の人物であることは事実で――
ねえねえ? いまがチャンスだってば!
ええ? そんなこと言われても?
はやく! 行っちゃいなって!
ええー! やだー!!
放課後、友達から背中を押されて、忍海勇太と『あっ、忍海君。偶然だね……』
と見せ掛け~ての告白タイム。
しかし
「俺、今部活で忙しいから、でも、気持ちは受け取っておくよ」
自分を好きになってくれた女子生徒に対して、そっけないそぶりをして……どこかへ行く。
(もったいないオバケだよ。うんじゅっさいの作者から見れば。自分で書いておいてだけど)
コンビニの棚に必ず置いてあるエスプレッソのコーヒー。
それが、たまに20円引きしているのを偶然発見して、『あっ! 今日の私ついてる!!』という感じの男子である(だから、どんな感じだ?)。
以下、ちょっとだけ後日談。
でも、でもでもね。私のこと、気にしてくれたよ。
ええ~! いいな~。
という具合に、冷たい応対をしても何故かポジティブに受け止められてしまう男子。作者から見ても羨ましい存在なのが忍海勇太という生徒なのである(ほんとに羨ましいよ……)。
「お前このままじゃさ。成績ヤバいんだろ?」
「……お前っていうな。勇太」
――新子友花と忍海勇太。
後ろを振り向いた状態のままの新子友花。対して、だり~ってな感じで、机に寝そべって彼女を見上げている忍海勇太。
「だからさ……お前、成績ヤバいんだろ?」
「…………ああ、ヤバいよ」
「お前、なんとかしてほしいか?」
「なんとかって? (だから、あたしのことお前って言うな……って)」
「俺が、なんとかしてやるよ」
「…………俺が? 勇太が??」
――教室の窓際。ベストオブベストの席と、その1つ前にある席。
相変わらず日当たりは良好である。窓も少し開いているから、爽やかな風、初夏の太陽の光が二人を爽快に照らしている。
だけれど、対照的に二人の会話は、てるてる坊主を窓の外に置いて『明日、晴れますように……』とお願い事をしないと……、レアカードをゲットするために、課金してまでガチャする気持ち。
つまり、期待と困惑――
新子友花、明日の自分に『どうか晴れて、明日、旅することができますように……』そして、その後に続く言葉はというと、『ああ聖人ジャンヌ・ダルクさま~』である。
「条件は、お前……俺の彼女になること。なってくれたら、勉強を教えてやる!」
「…………バカなの? まさか、あんた。それって告白のつもり?」
キ~ン コ~ン カ~ン……
聞いたあたしが、バカだった――?
二人にとってはグッドタイミングなのか、それとも、バッドタイミングなのか。授業開始のチャイムが鳴った。
「さ~て、授業を始めますよ。皆さん! 席に座ってくださいね」
……さっきの先生が教室に入って来た。
紹介しておこう!
この先生は、大美和さくら《おおみわさくら》先生である。
担当科目は現代文。
さっきの授業で担当していた科目は現代文。この授業は、選択科目の国語の授業である。
現代文では、教科書を読んだり小論文を書いたりして学ぶのだけれど、選択科目の国語で使用する教材は『問題集』である。
毎回、問題集を解いていうという、学習塾のような形式の授業である。
幸い、新子友花も忍海勇太も、次の科目は選択国語だった。だから別の教室に移動しなくてすんだ――
「……じゃあ、さっそくいきますね! 問題集の41ページからですね?」
大美和さくら先生、教壇に立つなり問題集が入っているノートパッドを指でちょちょいと探して、
「では問題です! この登場人物。いきなり彼女の家へ押し掛けて、『俺はずっと前から、お前のことが気になっていた。ずっと好きだった』と言いました。それに対して彼女は『嫌! 私困ります。そういうの嫌なんですって』と言い返しました。すると、『き、気持ちはわかるんだけどね。でもね。いきなり、そんなことを言われたら』と、二人はその後黙ってしまいました……」
先生は、とある小説の一節を声を出して読み上げた。
どんな国語の問題なんだろう?
「さあ、この時の彼女の気持ち、わかる人! 手をあげてください!!」
早速、登場人物のこの時の気持ち、国語の問題文に絶対にある問題を、大美和さくら先生は授業の初っ端に――
「はい! 大美和さくら先生!!」
きっぱりと、そう言った人物は新子友花――
右手を高く上げて、椅子からこれも綺麗にまっすぐと起立して。言っとくけれど、さっきから新子友花はずっと休み時間中、立っていました!
「……あはっ」
大美和さくら先生の表情が、刹那引きつる。
「……んじゃあ。新子友花さんに…………この問題の解答を、お、お願いしちゃいますか?」
先生は前の授業の時のように、やっぱり新子友花に対して緊張した感じでいた。
それでも、先生は教師としての責任感を優先。
教育者として、教え子に対しては平等に接しなければ……接することができなければ、私は教師失格である。という教師としての使命感で、新子友花に解答を問い掛けた。
(優しい先生って、良いですね……)
「新子友花さん、答えは?」
大美和さくら先生が問う!
そして、新子友花は、なんと答えたのでしょうか?
読者様、わかりますか? 難しいですか??
じゃあ、早速教えますね!!
新子友花は、こう解答したのです♡
「はい! 先生。その答えは、はっきり言って……全然わかりません!!」
続く
この物語は、ジャンヌ・ダルクのエピソードを参考にしたフィクションです。
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