第5話 んもー!! 新子友花はいつも元気ですって!!
「そうそう! 忘れておりました。勇太様、大美和さくら先生、……金髪山嵐」
ラノベ部の部活動――大美和さくら先生の小説の紹介と朗読も一区切りついて、ちょっと休憩。
すると、神殿愛が両手をパチンと合わせて、何か思い出した様子。
「ちょいな! あたしの名前は新子友花です!」
自分だけ名前で呼ばれなかったことに対して、すかさずのツッコミ。
「……………」
向かいの席に座っている新子友花を、しばらくじ~っと見つめる神殿愛。
「ごめんあそばせ……金髪ハリネズミさん」
神殿愛、謝罪と共に修正――
「……あ、ありがと。…………そうそう、あたしはこんなに金髪で、でも地毛なんだけど……ほんとこの髪の毛って、あたしがテンション上がっちゃったら、あたし『スーパー新子友花』に変わっちゃって……戦闘能力777に
新子友花が自分の自慢のロングヘアーを触りながら、そう言って――
「ちがーーーう!!! 誰が[スーパーサイヤ人]じゃい!」
新子友花、渾身のノリツッコミを披露。
「それはいいとして……」
「よくない!」
「――まあまあ。新子友花さん落ち着いてください。神殿愛さん、それで?」
大美和さくら先生が、髪の毛逆撫状態の新子友花の肩に……そっと手を添えた。
「先生……あたし、あたしって何も悪くないもん!」
涙目寸前の新子友花……。
「まあまあ、そうですね。新子友花さんは悪くありませんよ……」
肩をゆっくりと撫でて、ニコッと微笑みを見せて。
「……みんな、聞いてくださいね」
神殿愛、大美和さくら先生に控えめにペコリと頭を下げて、
「それでね! この私神殿愛は、今年の2学期の秋に行われる聖ジャンヌ・ブレアル学園の『生徒会選挙の生徒会長選』に立候補することにしましたのです!! どう? すごくない??」
神殿愛が両手を腰に当てての大胆発言。
「生徒会選挙の生徒会長選に立候補ですか。それは素晴らしいことですね。神殿愛さん」
大美和さくら先生、肩に添えていた手を放して両手を膝の上に乗せる。
今度は、神殿愛に向けて微笑んでくれた。
「生徒が学園のために、積極的に参加してくれるその姿勢! とても素晴らしいですよ」
「ありがとうございます。大美和さくら先生」
神殿愛は先生に褒められたことに、ちょっとテレて頬を少し赤らめ……腰に当てていた両手を放し、起立、礼の時の規律のように姿勢よく立ち直した。
立ち直し、そして大美和さくら先生に深々と一礼した。
「神殿……。生徒会長選に出て仮にトップ当選して、生徒会長になったとしてさ……」
隣の席に座っている忍海勇太が、両腕を組んで視線を天井に向けて、なにやら疑問が浮かんだみたいである。
「まあ! 勇太様!! 嬉しいですわっ」
グイっと神殿愛が彼に近付いて。
「近い! 近いって神殿。それに俺まだ何も言ってない!」
急展開の御嬢様大接近にビックリして、忍海勇太が思わず条件反射的に仰け反った!
「顔が近いから離れろって!」
「まあ? 勇太様、今更何を恥ずかしがって? 私と勇太様の仲じゃありませんか。阿吽のラブラブ呼吸ですわっ!」
「意味がわからん! ……それに胸が俺の腕に当たって…………って、う……わっ」
瞬間、着席していた椅子と自分の身体とのバランスが崩れた。
そしたら、忍海勇太――サーカスの綱渡りの上の演者のごとく、身体をクネクネと椅子の上で躍らせた。
「この愛の立候補を歓迎してくれるのですね。嬉しいですわ! 勇太様!!」
どんだけ、ポジションシンキングやねん!
「俺は……その仮に神殿が生徒会長になったとして……そ、そのラノベ部はどーするんだって聞き……たい……うわっ」
綱渡りの演技は継続中――
「それは御安心を! 私が生徒会長になってもラノベ部の部員は継続しますから。部活や役員の掛け持ちは、学園で許可されています」
ギュッ!
神殿愛は満面の笑みで忍海勇太の疑問に応え、椅子を両手で持つ。
と、見事に綱渡り状態は解消されて、彼は無事に演技を終えることができた――
ナイスキャッチ!
「……で、あんたのような洋風座敷童子に、誰が投票してくれるの?」
自分の目の前で忍海勇太の腕に神殿愛の胸が当たっているくらいから――ムスッとしていた新子友花。
だから、ちょっとカチンときまして。
「もしかして……自分が御嬢様として育ちがいいからとか、見た目がイケてるからとか。そういう動機不純じゃ~誰も投票しないと思うけれどね。仮にそんな理由で当選することができても、生徒会長として何やろうと思ってんの?」
これは意外だ。
新子友花のことだから、自分の名前で遊ばれたことだから、何かしら意地悪なことを聞くんじゃと思っていたけれど、開けてみたら至極当然の質問内容だ。
「これはこれは! 厳しい野党からの御意見。ありがとう、友花!」
「誰が野党じゃい!」
気が付いたと思うけれど、神殿愛の新子友花への呼び方が戻りました。
「それはね、ズバリと言っちゃう! 私の『生徒会選挙の生徒会長選』の公約は平和ですわ!!」
「……平和?」
首を傾げる新子友花――
「そうです! この聖ジャンヌ・ブレアル学園を平和にすることです」
再び腰に両手を当てる神殿愛。
与党の神殿愛、まるで政府指導の“なんとかキャンペーン!”の発表記者会見のように、待っていました! とばかりに自分の公約を発表した。
でも野党の新子友花? には、
「愛って……意味がわからん。もう聖ジャンヌ・ブレアル学園って、十分に平和なんじゃね?」
傾げていた首を、今度はヤジロベーのように反対側に向きを変える。
「いいえ! 勇太様も友花も全くわかっていませんね。この学園の平和が、現在『砂上の楼閣』であることを……」
顎を下げ顔を左右にフリフリ……わかってないわね~と神殿愛は呟く。
「さじょうのろうかく? ってなに? それって、コンビニの新発売のスイーツか何か?」
と言って、大美和さくら先生を見つめた。
「あはは、新子友花さん……」
大美和さくら先生の額に冷や汗一筋。
「砂上の楼閣というのは、わかりやすく言えば、砂の上に造ったお城は土台がしっかりしていないから、いつ崩れるかわからないという慣用句です」
それでも微笑みは継続させて――新子友花に優しく返す。
「つまり、基本が身に付いていなければ、何をやっても、成長しても……危なっかしいということです」
「危なっかしい……ですか?」
傾けていた首をまっすぐに直す。
「ええ、新子友花さんも……だから、ラノベ部で国語に慣れてみようと思って入部しましたね」
「……入部。あ……ああ、そういうことですか。わかりました。大美和さくら先生!!」
雲の合間から楼閣に照らされた月の明り――新子友花は経験値を積んだ。
――ラノベ部の部室で、神殿愛の演説は続いています。
「かつて、東日本大震災で命を落とした多くの小学生、中高生がいることをご存知ですか?」
神殿愛は部室――教室の前の教壇に立っている。
「とある被災地の小学校では、警報の後、山の上へ避難するか構内に留まるかの決断の時に、学校側の判断ミスで、多くの小学生が亡くなった悲痛な歴史があります」
部員の新子友花と忍海勇太、顧問の大美和さくら先生は、自分達の席に座り彼女の言葉を静かに聞いている。
「そもそも! 聖ジャンヌ・ブレアル学園は自ら命を捧げることで、戦争を終わらせ国に平和をもたらした“聖人ジャンヌ・ダルクさま”の精神を学ぶために設立されたと聞きます。つまり、生徒会や教職についている者が、もっとしっかりとしなければ……祈っているだけでは、平和は…………」
生徒会長選の公約のキーワード『平和』を言ったところで、神殿愛は言葉を詰まらせた。
「祈ることも、聖ジャンヌ・ブレアル学園では、勿論重要なのですけど…………」
彼女は、少し俯く…………
「神殿。さっきから平和なんて結局は抽象的な言葉じゃん。……本当は、何も具体的に考えてないだろ?」
忍海勇太が尋ねる。
「だからさ……もう十分に平和なんじゃね?」
続いて、新子友花が彼の質問に被せて言った。
「いいえ! 違いますって!! 平和というのは、日々の縁の下の努力によって守られているのですよ」
顔を上げる神殿愛。
「だから……それってもう十分に平和なんじゃね?」
同じ被せを二回繰り返した新子友花。
「友花って! わかりませんか? 平和というのは言うなれば『目に見えない日常の継続性』なのです。この学園にはエレベーターがありますよね。……そのエレベーターを定期的に、点検・メンテナンス・修理してくれる人への感謝の気持ちを、私は言いたいのです!!」
「……そ、そーなんだ。愛……へえー」
新子友花がたじろぎながら、相槌を打った。
ちょっと大きな声で、彼女に反論されたもんだからである――
――神殿愛の演説は続いている。
「それと! これは私の個人的な公約なのですけれど、この聖ジャンヌ・ブレアル学園の『バリアフリー』をもっと充実させたいのです!!」
「バリアフリー?」
と新子友花、また首を傾けた。頭の上には“?”が見えるくらいに……。
「言っとくけど、コンビニのスイーツじゃないからな!」
斜め向かいに座っている彼女を見て、忍海勇太がすかさずツッコむ。
「聖人ジャンヌ・ダルクさまの御導きにより、この学園には様々な生徒が日々通学してきます。奨学金を得て学ぶ者、バイトをして学費にあてる者、留学生が多くいます。その中には、身体の不自由な学生もいて……車椅子を使って通学している学生もいます」
教卓に両手を乗せて――その姿はもはや新人教師。
「ですが、この学園のバリアフリーはどうでしょう? 手すりもスロープもエレベーターも、まだまだ一部にしか設置されていません。学園中すべてに普及してないじゃないですか!!」
「それで……神殿生徒会長は、どうな為さるおつもりで?」
忍海勇太が、ちょい嫌味っぽく尋ねてみた。
「よくぞ聞いてくれました! 勇太様」
うんうんと深く頷く神殿愛。
「――聖人ジャンヌ・ダルクさまは、万人の平和を祈って命を落とされました。その精神を、どうして私達生徒が実践しようとしないのでしょうか?」
「何をおっしゃりたいのでしょーか? わかりません、愛生徒会長……」
新子友花も……君、聞いてもどーせ理解できないんじゃろ。
「若くして、車椅子で残りの人生を生きなければならないことが、どれだけ大変なのでしょう? 毎日の食事は、水分補給は? 緊急時の対応は? 季節に合わせた衣類は? 寝る時の寝返りは? お風呂もトイレも……」
ここで神殿愛は、
「……………」
言葉を詰まらせてた。
何かを思う様子を見せ、感慨深げに――
「……ほんのちょっとした移動も難しくて、何もかもが大変なのです」
両手を置いていた教卓から放して――神殿愛は直立になる。
「もっと友達と遊んだり、恋愛もしたり……。……したかったはずなのに。私たちが日常、当たり前にできていることが、ある時、事故や病気でし辛くなってしまって……」
「愛……生徒会長…………」
「……だから、私が生徒会長になったら、必ず! 学園のバリアフリーを充実させていきます。神殿愛は約束します!! 必ず!!」
「……お前の言いたいことが、なんとなく理解できた」
一呼吸開けてから、忍海勇太が言う。
「要するに、神殿生徒会長は聖人ジャンヌ・ダルクさまに続いていきますって……そう言いたいんだろ?」
長い演説の割には結局……理想論を聞かされて、なんだか辟易してしまった忍海勇太の素直な感想。
「ち……違いますってば! 勇太様!! 私は――」
ラノベ部で一番慕っている人物、忍海勇太に愛想尽かされた気がした神殿愛。
――そこへ。
「はいはい! 神殿愛さん。落ち着いてください」
そこに、すかさずフォローを入れてくれたのは、大美和さくら先生だ。
「まあ、生徒会長選の話は、ひとまず置いておきましょう」
すたすたと教室の前へ、神殿愛のもとへ歩みながら。
「今日のラノベ部の締めの活動を始めましょうね! さ、神殿愛さんも自分の席へ戻ってください」
と、彼女の肩に優しく手を添えながら、そう言って。
「ふふっ! 先生からもう一冊。おすすめの小説があるんですよ……」
「――ジャンヌ・ダルク。男装の禁忌を犯した魔女よ。例えお前が、この国を平和に導いた先導者であったとしても、神の御前では、お前が犯した禁忌は許されない」
大美和さくら先生も自席に着席。
ぐるりと三人の部員を見つめるや、自分の机の上に置いていたもう一冊の文庫を手に取る。
そして、挟んでいた栞の箇所を開いて朗読を始めた。
「ああ……私は、この国のためにここまで前線で戦い、この国を勝利に導いたのに。ああ神様! 私の生涯はこうして民衆のために、ただ利用されるだけの生涯だったのですか?」
「涙々ものでしょ~」
先生、感泣極まる数歩手前……。
ちなみに、この文庫は聖ジャンヌ・ブレアル教会で、無料で配布されている『聖人ジャンヌ・ダルクの生涯』という名称の伝記です。
「でも! ああ神様。私はそれでもかまいません!! 私が火刑に処されることで、この国が確実に平和になるのであれば。私はジャンヌ・ダルクは…………」
「あの……大美和さくら先生。私、これ礼拝の授業で何度も読んでいますけど……」
神殿愛が、先生のおすすめってこれかい! と内心ツッコんで……。
「俺も……先生これ。聖ジャンヌ・ブレアル学園の生徒全員読んでいますよ」
忍海勇太もちょい呆れ顔……。
そんな可愛い部員からのアドバイス? に、大美和さくら先生――
「では、はい! この後の名文を覚えている人はいませんか? 皆さん? 一年生の礼拝の授業で暗記させられたでしょ? 有名ですよね~」
応えることもなく、一方的に問題を提示してきたのである。
「先生これ……、長ったらしい箇所ですよね?」
忍海勇太がぼやいた……。
それに、一年前の礼拝の授業の文句を覚えているわけないじゃん。
って、普通はそう思うよね?
ところが!
「ああ……神様。私の命の終わりによって、この戦争を、本当に終わらせることができるのであれば……。私はこの身を魔女として認め、潔く……この国に命を捧げます」
深く目を閉じて、発言しているのは――新子友花である。
「……そして、ここに魔女は絶え、すべての魔法は失われます。ああ……神様。この告白をお許しください。ですから、どうかどうか、この魔女の私にも十字架をお与えください……」
しかも、机に両手を乗せて祈りながらである。
「新子友花さん! 凄い! 大正解ですよ」
パチパチ……拍手しながら大美和さくら先生が、物凄く嬉しそうにはしゃいでる。
「え? ああ」
目を開ける新子友花。
「お前すごいな、よく覚えているな」
「友花! あなた、やりますわね」
忍海勇太も神殿愛も、先生に続いてパチパチと拍手して彼女を祝福した。
「あ、あ……ありがと。だから、お前って言うな!」
まるで、成績も運動もダメダメの主人公が、“綾取り”だけは誰にも負けない特技なんだ! という風に、この物語の主人公・新子友花にも一つ、このような特技があることを見せつけられた瞬間だ。
……だって、新子友花は毎朝授業が始まる前に、教会に通い詰めて祈っているから。
祈りの文言の内容は自然に暗記できて、一通り覚えているから……。
これくらいの短文くらい、簡単に言えるのだよ。
キーン コーン カーンー
下校時刻のチャイムが鳴った。
「――今日のラノベ部の活動はここまでです。なんだか今日は、新子友花さんメインでしたね。ふふっ」
大美和さくら先生が微笑んだ。それにしても、よく微笑む先生だね。
「……………」
新子友花は無言でペコリ。照れちゃった。
「あっ! 私、今日は塾があったんだっけ!」
慌ててノートや筆記用具、文庫をカバンの中に入れる神殿愛。
「大美和さくら先生! 私、駅前行きのバスの時間があるから。お先に、さよならします!」
「はーい! さようなら」
……という先生の言葉を最後まで聞かずに、神殿愛は部室からいそいそと出て行っちゃった。
――夕暮れの学園内。
花壇には水が撒かれた後。
花壇の前にはベンチがあって――昼休みに新子友花と忍海勇太の二人が座ったベンチである。
その前を通り過ぎる二人、学園の正門へと向かっていた。
「どうだった? ラノベ部初日の感想は?」
「……勇太。ありがとね」
初夏の夕暮れ――緑の葉を生い茂らせた桜の大樹。
幹にはヒグラシが一匹、昼間の炎天を懐かしむように鳴いている――
「何がだ?」
「あたしを、ラノベ部に誘ってくれたこと……」
隣に並列して歩いている忍海勇太に、上目で見詰める新子友花。
「……俺が誘ったから、入部したんじゃないんだろう?」
一目チラッと見るや、
「先生も言ってたじゃないか。国語の成績を上げるために、まずは国語に慣れるところから始めませんかって。……お前がラノベ部に入った一番の動機は、それなんだろう」
視線はそれだけにして、真っすぐと歩く。
「うん。そうだけど……」
「ま、俺は俺で、ラノベ部の部員確保が2年になってからの必須だったし、部長として……」
「ん? ちょいな……」
新子友花、何かに気が付いた――
「なんだ??」
「げっ!! 勇太ってラノベ部の部長だったの?」
「……俺が部長じゃダメなのか?」
「ダメじゃないけど…………ちょっと意外だと思って」
1年生の頃からの部員が昨日まで二人だったから、確率は50%なんだけど。
……明らかに
「なんでだ?」
「……べっ、別に~?」
上目で見つめていた彼から、視線を真反対側へと反らした新子友花。
――すでに校内には生徒の数は少ない。
花壇に水が撒かれた後の学園内は、ちょっと涼しいね。
「俺、お前の後ろの席から、ずっと……お前のこと見ているけどさ」
「もしかして、いやらしい目であたしを?」
「バカか? お前……」
「だから、お前って言うな!」
新子友花の忍海勇太へのお約束のツッコミも……今はなんだかエネルギー不足。
「――ラノベ部の部長として。お前の国語の成績に少しでも貢献できれば、俺は嬉しいからな」
下目に新子友花を見つめてそう言った(言い切った!)、忍海勇太。
「それって? またまた、またまた、告白のつもり?」
新子友花は困惑して思わず反らしていた視線を向き直し、すると……彼と目が合ってしまった。
「その通り。だからさ、俺と付き合え――」
「……………」
「…………あ、あたしさ。部室に忘れ物してきたから」
肩に掛けていたカバンの中をゴソゴソと……。
「……だ、だから勇太……先に帰っててくれる! バッ……バイバーイ! また明日ね!!」
くるっと反転した新子友花。
そして、いそいそと学園の校舎の方へと、走って行ったのでした――
変なやつ……
――太陽も大分傾いてきて、橙色の日差しに照らし出されているのは、聖ジャンヌ・ブレアル学園の正門からメインストリートの、小高い丘の上にある聖ジャンヌ・ブレアル教会である。
扉は半開きである。
その開いたところから、橙色の太陽の光が教会内に差し込んでいる。
教会内は夕方になると、かなり暗い。
一般的な教会だったら、夕方にも信者が訪れて、祈りを捧げるのだろうと思うけれど……この教会は基本的には聖ジャンヌ・ブレアル学園の生徒のために建てられた教会である。
よって学園が放課後になると、誰も礼拝に訪れてくる者は……ほとんどいない。
タッ タッ タッ タッ
――新子友花である。彼女が駆け足で、教会の中央を走ってくる。
目指すは、いつも祈る時に座っている最前列の長椅子。
「ああ……、聖人ジャンヌさま!! 英仏100年戦争を終結に導かれたジャンヌ・ダルクさま!!」
走りながら……祈ってる。器用だぞ……。
「この聖ジャンヌ・ブレアル学園の新たな出会い! あたし、あたしは、この学園での学業がいまいちダメだから……だからラノベ部から始めて行こうって」
その祈る姿……両手を胸の前にギュッと握りしめて、走っている。
なんだか[まっくろくろすけ]を、二階の部屋で捕まえた~の時の子供である。
「だから、聖人ジャンヌさまは、あたしをラノベ部へとお導きになられて……あたし、ずっと、この学園で学業について行くことに必死で……。固執して……いて……」
喋りながら走っているから、息切れしてきている。
「いくら、自分がこの学園で青春!! を唱えても……それは、はっきり言ってフィクションでしかなくって。でも……でも……ね。ジャンヌさま! ……あたし、今日から、何か……自分を変えることができる気がするのです!!」
(あたしは、ラノベ部に入部して良かったです!!)
「とっても頼りになる、大美和さくら先生――。ガサツだけど部長として面倒見が良い、忍海勇太――。あたしとは犬猿の仲のような関係だけど、学園のために一生懸命に頑張ろうとしている神殿愛――」
まったく 新子友花よ――
お前という信心深き 可愛い女の子
わかりやすいな お前という――
我ジャンヌの羊飼いのころに
似ているぞ――
いいんだな? 新しい出会いを選ぶんだな
新子友花よ―― 我ジャンヌ・ダルクは、お前を助けようと思う
「ああ、聖人ジャンヌさま!! あたしは!!」
と言い放った視線の先には、聖人ジャンヌ・ダルクさまの像。
とびっきりの笑顔になり! 最前列の長椅子の席に着いた新子友花。
勢いそのままに、彼女は着席する!
ガシャーン!
けどねぇ…… (>_<)
「…………な、なに? 今の音??」
キョロキョロと新子友花が、辺りを見回す。
――彼女がいつも、熱意を込めて祈り続けている最前列の長椅子、彼女が勢い余って確認もせず座ったもんだから……。
「はにゃ? なに……この残骸??」
長椅子に置いてあった、祭壇に飾ってあるお供え物用の容器とか、神具なんかが……もう一度、彼女の勢い余って座ったその勢いで…………つまりガシャーンって崩れて、壊れたのである。
「えっ? 壊れてるよね??」
すると、慌てて『なんだ? なんだ??』って、奥の扉から飛び出して来たシスター達。『ええっ何事? この聖なる教会内で……』という感じで、キョロキョロと、あたふたしている……。
「……これ、あたしのせい? もしかして??」
そこへ神父様が登場――スタスタと新子友花のもとへ歩いて来る。
無言で歩いて来る。内心、怒っている感じだ。
「……この神具を汚したのは、君ですね」
神父様は新子友花を睨み、声を荒げに言った。
奥にいるシスター達は……ゴニョゴニョとヒソヒソと話をしている。
「……あ…あの神父様。その……申し訳ございません」
「…………はい。素直でよろしい」
――ステンドグラスからの光も無く。すっかり教会内は暗い。
でも、まだ日は完全には沈んでいないから、それなりに薄い日は差し込んでいる。
そんな中、教会内でたった1人。……黙々と。
長椅子周辺を
新子友花よ―― お前、可愛いぞ――
でも、新子友花の表情は笑顔であった。どうしてかって?
ええ! 新子友花は……いつも元気だからなのである。
続く
この物語は、ジャンヌ・ダルクのエピソードを参考にしたフィクションです。
また、[ ]の内容は引用です。
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