第46話 ねえ? ラノベ部と先生とさ……どっちが好き?
――ここは、聖ジャンヌ・ブレアル学園の正門からまっすぐに続いている、丘の上にある教会――聖ジャンヌ・ブレアル教会である。
言わずもがな『聖人ジャンヌ・ダルクさま』が祀られている教会である。
休み時間になると、いつも学生達がワイワイと賑やかに校内を歩いていたり、ベンチに腰掛けて休憩していたりして、友達同士――あるいは恋仲で楽しく会話している。
学園内でも、この聖ジャンヌ・ブレアル教会の中は特別な聖域だ。
勿論のこと、教会近くでは飲食禁止である。
だから、昼休みの時間で教会近くの芝生の上でお弁当を食べることはできない。飲料水も当然である。
我ら日本人に分かりやすく説明するならば、神社の境内では行動を慎まなければいけないのと同じである。
むやみに大声で喋ってはいけないし、食べたり飲んだりもダメ。
――神さまに失礼というのが理由だからだ。
神さまの前では神妙にという価値観はカトリックでも同じで、
『お静かに! 教会の敷地内及び教会周辺では私語を慎むこと!!』
……という言葉は、礼拝の授業の時に神父様やシスターから、最初に教えられる教義である。
聖ジャンヌ・ブレアル学園の生徒は1年生の春の授業くらいに、必ずこれを学ばされる。いわば、学園で学ぶための心得を学ばなければ、生徒として認められないということである。
でもね…… なんか、これ建前なんじゃって思う。
本当に生徒は、聖人ジャンヌ・ダルクさまを崇拝しているのかなって?
そんなことを考えさせられてしまう。
それは、どうしてかというと……
「ちょ! 先生って……」
忍海勇太がなんとかして、掴まれている自分の腕から両手を放そうと必死だ!
その両手とは、大美和さくら先生の手である。
「いいえ! 放しませんよ!!」
大美和さくら先生、女性なのに握力が強いみたいで……忍海勇太が必死に先生の両手の指を掴んで、外そうとするけれど、外れない……。
ズズーー ズズズーー
加えて、忍海勇太が大美和さくら先生にグイグイと引っ張られている。先生ってこんなにもパワーがあったんですね。
んで、先生が行こうとしている場所はというと、当然、聖ジャンヌ・ブレアル教会だ。
――女子が男子に“アプローチ”するゴール地点、『学園 殿方争奪バトル!!』のメイン最終場所である。
先生が女子なのかどうかは……この際置いておこうね……。
――教会の入り口の扉は、日の出から日没まで半開き。
かなり大きな扉でしかも重量感もあり、とてもじゃないけれど一人で開け閉めするのは大変そう。
だから、半開きにして、出入りし易い様におもてなしされているのだ。
その入り口から、いそいそと入って来た2人。
まず先に、大美和さくら先生が教会の中へと入って来た……。
「さあ! 忍海勇太君!! 到着しましたよー」
息切れもせず入ってきた大美和さくら先生。
文化祭のメインイベント『学園 殿方争奪バトル!!』の大美和さくら先生、なんだか妙に意気込んでいてハイテンションである。
……そういえば、夏休みの合宿の時の特急電車の中でも、先生は……こんな感じになっていたっけ?
「ちょ……。先生って落ち着いてくださ……い……」
次に入って来たのが……忍海勇太である。
入って来たとはいうものの、はっきり言って無理矢理……先生に腕を引っ張られての入場だ。
2人は教会の中央に通っている通路を、いそいそと早歩き。
向かっている先は、聖人ジャンヌ・ダルクさまの像である。
ちなみに、隣には、あまり目立たないけれど(あえて?)ジャンヌ・ブレアルの像が立っているよ。
「さあ、忍海勇太君。もうここまで来たら観念しなさいね! 先生と一緒に聖人ジャンヌ・ダルクさまの御前で誓いましょう!! プロポ……もとい“アプローチ”を一緒に――」
いい加減言い間違えないでほしいです。
……歳の差はちょっとあるけれど、男性と女性が手を取り合って? いるのだから、見ようによってはかなわぬ恋路の苦難の末、ようやく辿り着くことができた教会で、目出度くウエディングを挙げてハッピーエンド……なのだろうけれど、これは違うのだから。
これって、文化祭のメインイベント『学園 殿方争奪バトル!!』なのですよ――
「先生って! 落ち着いて……。あの……一体どうしちゃったんですか?? ほんとに……」
ああ、俺って、なんでこんな目に遭っているんだろ?
――という気持ちいっぱいで、率直に今の忍海勇太の内心はというと『理解不能』である。
しかも、よく見ると、彼の両目からは辛苦の涙が流れている……。
そりゃそうでしょう。
自分が無理矢理『学園 殿方争奪バトル!!』のメインの男子に選ばれてしまっていることを、青天の霹靂――青年の辟易というのが彼の本心なのだから。
泣きたくなってしまったのも……理解できる。
泣きたい時は、泣きなはれ……
「ふふふっ!」
大美和さくら先生のいつもの微笑み……いや? 今回のそれは、意味深で意味ありげで不気味な口調である。
「忍海勇太君! さあ! さあさあ!!」
掴んでいる手はギュッと離さず……、もう一方の手で指差したのは聖人ジャンヌ・ダルクさまの像である。
「さあ!! あれこそが、聖人ジャンヌ・ダルクさまの像が目前ですよ~」
……あんまり神様に対して指さすのは、お行儀が悪いんじゃね?
「み、見れば分かりますって……」
なんとか、ギュッと握られている腕を、振り
『やあ……、忍海勇太君。さあ! ゲームを始めよう……』
気が付くと部屋の中、鍵が掛かっている――閉じ込められてる?
モニターから聞こえてきたのは、洋風座敷童……のお人形(見た目は新子友花だ)、なんとか部屋の謎を解いて鍵を見つけて、制限時間内に脱出しないと――
忍海勇太の生死を掛けた脱出劇が、すでに始まっていた……ちょっと言い過ぎかな?
「と……というより、学園の生徒だったら誰でも知ってますよ!!」
忍海勇太が全身をくねくねとさせながら、おもむろに吐露する!
「ふふっ! 往生際が悪いですよ~、忍海勇太君。先生は、あなたを放しませんからね~」
RPGで例えるところ、中ボスが先頭初回のターンで余裕を見せている……様な状態、不敵な微笑みを彼に見せている大美和さくら先生。
「……は、放してってば! やっぱ!!」
忍海勇太――その微笑みを見るなり、あっこりゃ、やばいぞ……と思った。
と同時に、ああ……繁華街の怪しい女の子が多くいるお店に通った数日後、嫁から『この名刺なに? 誰??』という冷や汗あるあるパターンの時の、成人男性の気持ちが理解できた……ような気がした。
まだ、彼未成年だから分からなくていいよ!
(でも、あえて言おう! 頑張れ勇太よ、そうして男子は一人前の男性へと成長するのだよ)
ちなみに、作者はそういう怪しいお店には行ったことは……一度もありませんから(ウソつけ! ← 担当編集)。
――そうそう、言い忘れていました。
この2人、大美和さくら先生と忍海勇太のB級和製映画もどきの恋愛慕情ですが、実は2人のやりとりを後から追い掛けてくる物体があるのです。
それは何かと訪ねられたら……『AI搭載型のドローン』です。
そのドローンにはカメラが設置されていて、そのカメラを通して……思い出してください。
円形型舞台の後ろにあった巨大モニターを。そう! そのモニターに2人がリアルタイムで映し出されているのです。
そのモニターだけじゃなくて、教室や食堂や休憩ルーム等々――聖ジャンヌ・ブレアル学園の至る所に設置されてあるモニターにも、しっかりと映っているのでした。
つまり、学園にいるほぼ全ての生徒達が、まあ見ているのです――
「んっ! しょいな~!!」
大美和さくら先生の気合が入った!?
先生、大胆にも両足を肩幅1.5倍に開いて、膝と腰に力を込めて重心を低めに設定――つまり踏ん張る。
何に踏ん張るかって? それは当然のこと“投げる”ためである。
何を投げるって? そりゃ……この場合はね――
「んんっ! しょいしょいな~っと!!」
「う、うっ! うわー!!!」
まるで……、大美和さくら先生は円盤投げの選手である。
でもね、円盤投げは片手で円盤を放り投げるけれど、流石に先生は女性なので――学園2年生の男子高生、忍海勇太を片手で投げるにはパワーが足りない……と瞬間思ったからなのか?
(舞台から教会まで彼を引きずってきた握力は、……凄まじいけれど)
大美和さくら先生は両足を踏ん張ると、すぐに忍海勇太の腕を両手でギュッと掴んで、後はご想像通りです。
大きく弧を描くように……遠心力を利用して、そして掛け声と共に大きく彼を放り投げたのだった!!
……聖人ジャンヌ・ダルクさまの像の御前に、である。
ズドン……
軽く1mは浮いたぞ!!
忍海勇太の身長は、一般男性の平均以上で高い方だ。
だから、体重もそれなりに重いはず。
だけど、彼は浮いた――
「いてて……。先生、痛いですって……」
おもいっきりお尻から落ちて、尻餅をついて……。少し痛そうに自分の腰辺りを摩っている忍海勇太。
それにしても、よく投げれましたね、大美和さくら先生――
これって奇跡なのかな? 否、大美和さくら先生の日頃の鍛錬の成果だろう。
ラノベ部顧問の大美和さくら――教務を行っていないホリデーにジムでも通っているのか……どうか?
それとも、興奮まっしぐらが起こした奇跡――火事場の……なのか??
「はあ……。はあ……」
先生、息切れしている。
「……ふ~」
手の甲で額の汗を拭うと、一呼吸しまた。
「さっ! 忍海勇太君。もう観念しましょうね。この文化祭のメインイベント『学園 殿方争奪バトル!!』のメインのメイン! の、始まり始まり~ですよ」
両手を大きく広げて、頭上に掲げて、『世界のみんな! 私に少しだけ元気を分けてくれ!!』の如く血気盛んに言い放つ!
「先生……。ちょ、怖いですって…………もう、止めましょうよ」
尻餅したままの忍海勇太は、怖さで顔が引きつっていた。
「ねえ? 知っていますよね? もっちろん!」
大美和さくら先生、彼の嘆願を聞いていない。スルーした――
「あの……何がでしょうか?」
忍海勇太、恐る恐る尋ねる……。
本音では一秒でも早く、この場からエスケープしたい! ……のだけれど、尻餅をついてしまって、その激痛で思うように腰が上げられないでいたのだった。
「いいですか? 殿方争奪バトル!! なんですよ? そ・う・だ・つ・バ・ト・ル……」
大美和さくら先生は右手の人差し指をキーボードを押すように、その7文字『そ・う・だ・つ・バ・ト・ル』を、一つ一つ丁寧に言いながら真正面にチョンチョンと打った。
「愛しの男子を奪い取ってバトルする、聖ジャンヌ・ブレアル学園のメインイベントなのです! だから、これでいいのですよ!!」
「何がいいのですか!?」
忍海勇太が至極当然のツッコみ(作者もそう思う……)。
「それに先生って! 俺は18歳未満だから……先生としては、やっぱ問題が大ありなんじゃ??」
その通りだぞ!
これニュースなんかでよく報道される――某高校の教員が教え子に淫らな行為を! というやつです。教育委員会ものだから問題は大いにある。
だから、大美和さくら先生って!
――高校教師だけに『私達の失敗』になっちゃダメですって!
「女子がバトルし合ってこそのメインイベント!! っていうことですよ~」
哀しいかな……先生には僕達の想いは届かなかった……。
「これはね、聖人ジャンヌ・ダルクさまが19歳という若さで天に召され――戦の最中、思うように恋愛することができなかったというエピソードから、聖人ジャンヌ・ダルクさまの恋愛の艱難辛苦を、私達学園の女子も追体験しようという――女子にとっては、そりゃ~もう! 待ちに待ち望んだこの日。……日頃、胸にしまってある恋心を、今日こそは魔力開放!! ですよ~♡」
……国語教師らしく、活舌よろしく。
そして、一歩、また一歩と前屈みになって足を踏み出して……、その姿は、まるでエイリアン?
忍海勇太にノソノソと歩み寄っていく、大美和さくら先生です……。
「…………」
迫りくる『エイリアン・大美和さくら先生』を目前にしている忍海勇太は、とうとう黙り込んでしまった。
これはトラウマものの恐怖だな……。
――ざわざわ。ざわざわ。
一方、こちらは円形型舞台の客席である。
生徒達は予想通りに、舞台奥に設置されている巨大モニターを見入っていた。
なんか、大美和さくら先生、いつもと感じが違わなくない? だよね~?? とか、
あの男子生徒、大丈夫かな? ほんと……。
なんだか、くたくたじゃない? 彼って、やばくない??
とか――隣に座っている友達とヒソヒソ話をしている。
だけじゃなかった……。
この会場だけじゃなくて、教室でも、食堂でも、ついでに学園のガーデンにも設置されてあるモニターに、つまりは学園中あちらこちらで……モニターに人だかりができていた。
彼等彼女等は、自分達も週に数回は祈りを捧げている教会の中で、生中継で巻き起こっているメインイベントに対してかなりどん
大美和さくら先生と忍海勇太の『学園 殿方争奪バトル!!』の様子を刻一刻見入っていた。
でも確か?
『学園 殿方争奪バトル!!』ってさ、女子達の間でするもんじゃなかったっけ?
現状の2人を見ていると、これって、大美和さくら先生の“独占恋愛禁止法違反”だよね?
*
再び教会に場面を戻して――
「先生はね……、忍海勇太君。君にねプロポ……もとい“アプローチ”を今からしちゃいますからね♡ いいですよね?」
大美和さくら先生は高く上げていた両手をそのままに、
「いいですよねって……。もう、しちゃってるじゃないですか……。先生って!」
忍海勇太は後ずさりしながら、恐怖で声を震わせ拒否っている。
いまだ腰を抜かした状態の忍海勇太――思うように足を動かせなかった。
立とう立とうと両足に力を入れているのだけれど、上手く入らない。
まるで、冬場に凍結した道路を歩いている見たいに、両足がそれぞれ明後日、明々後日の方向に向く。
「ふふっ ふふふっ……」
徐々に……徐々にと、歩み寄っている大美和さくら先生――まさにエイリアン?
まるで茂みに隠れていた肉食動物が、何も知らずに立っている草食動物に気付かれないように、そ~っと近寄るように、獲物を見つけてこれ逃すまいと――その距離50cm。
「先生……近い、顔が近いですって!?」
百獣の王に睨まれた草食男子――忍海勇太。
彼のすぐ目の前には、大美和さくら先生の顔がある……。
「せ、先生はね。これでも独身なんですよ。シングルです。知ってましたか?」
やっぱ、気にしてんじゃんか!!
「そりゃ……知っていますって。……だから、なんなんですかって!?」
忍海勇太よ……。
推定年齢27歳の独身女性にね、それを言っちゃ~ダメよ~ダメダメ。
「だから先生もね……。女性なもんでして……男性に、色々想うところがあるのですよ」
恨み~ます。恨み~ます。
あんたのことを……、昭和のフォークソングみたいに何を想うぞ。
――しかして、その対象が平成生まれの男子高生なのは、いかがなものなのでしょう?
「だ、だから。……せ、先生って、怖いです……。俺……」
忍海勇太の表情が、恐怖の顔面硬直を超えて一層引きつり、顔面蒼白になっている。
互いの距離50cmで交わされる、大美和さくら先生の恋の“アプローチ”は凄まじい――
「……って、先生! やっぱ! ……だ、ダメですって。正気に戻ってくださいよ。……このままじゃ、教師と生徒の危ない関係になってしまいますって!! ニュースになっちゃいます……。これネットで炎上しちゃいますって!?」
叫ぶ忍海勇太! 至って正論を突き出す。ナイスな“アプローチ”だ。
「……それが何か? いけませんか?」
しかし、忍海勇太の切実なる叫びの呪文は、大美和さくら先生の無慈悲な言葉でかき消された。
「…………」
呪文で時間を止められてしまったかのように、忍海勇太は微動だにできない――
聖ジャンヌ・ブレアル学園では、清純清楚で通っている国語教師の大美和さくら先生。
やっぱり今日の先生は、ちょっとおかしいですよね?
恋に恋する乙女の――乙女じゃないか。
推定年齢27歳の独身――シングルの女性。
恋は人を変えるとは……よく聞くけれど。まさか、これほどまでに変化するとは……。
正直、どん引き……もとい、驚きます。
「さあ! さあ!! もう十二分に先生の気持ち……。分かりましたよね」
と、大美和さくら先生は、肉食動物が獲物に止めをさそうと口を開けて食い掛る。
「い……いやいや、分かんないって!!」
対して草食男子の忍海勇太、ブンブンと首を左右に振る降る、振り続ける。
ズズッ…… ズズッ……
なんとか気力体力を振り絞り、少しずつ後ろへ後ずさりしている忍海勇太……、する努力をしていると言った方が正確か?
しかし、それに合わせて大美和さくら先生も一歩、また一歩と、前進するのであった。
エイリアンだね! 恐るべしだよ!!
ズズッ…… ズズッ…… ズズッ…… ドン。
……およそ2mかな?
忍海勇太が後ずさりして、そしたら壁に背中が当たった。
その壁というのは、聖人ジャンヌ・ダルクさまの像の土台部分である。
彼の頭の上には、聖ジャンヌ・ブレアル学園のシンボル――神様として祀られている聖人ジャンヌ・ダルクさまの像が見える。
これ以上後ずさりできないぞ。これ……。
刹那!
ドーン!!
――大美和さくら先生、背中を壁にくっつけている忍海勇太の頭部の右側目掛けて、右手を突き出した!!
いわゆる『壁ドーン!!』という……あれである。
まあこれって一般的には、男性が女性に対して行うものだけれど……。
それにしても、あなた達ってさ!
聖人ジャンヌ・ダルクさまの真下で、何やっているのですか??(笑)
お行儀悪いを乗り越えて……、冒涜極まりない。
「さあ!! 勇太君。そろそろファイナルアンサーを先生にくださいな」
右手を聖人ジャンヌ・ダルクさまの像にくっつけたまま、
「何のファイナルアンサーですか! それに、なんで急に下の名前で呼ぶんですか!!」
目下には、腰に力が入らずへなへな状態の忍海勇太、
「いいじゃないの? 勇太君。先生と君との仲じゃない。ラノベ部顧問と部長という関係でもあるし……」
カエルを睨み付けているヘビの如く、大美和さくら先生は獲物をこれ逃がすまいと……、
「そっ……それ、当たり前の関係じゃないですかって!!」
カエル状態の忍海勇太……その本音は『もう……帰りたい』である。
「ねえ? ラノベ部と先生とさ……どっちが好き? 勿論、先生よね?」
ドーン!! した右手は未だ壁にくっつけたままの状態で、押しに押しまくる大美和さくら先生。
とうとう誘惑モードに突入してきた……。
「……あの、どっちも先生の要素が含まれていますよね。その二者択一は……」
その通り、よくぞ気が付いた。
こういう時の女性の知恵はね、末恐ろしいのだよ。
「じゃあさ! こうしよっか? 忍海勇太君……先生のこと好きと言いなさい!」
今度は、要求してきたぞ……。
「聖人ジャンヌ・ダルクさまの御前で、先生のことを好きだと宣言しちゃいなさい!! ついでに、先生の後ろでブーンとプロペラ回して飛んでいるドローン。……あのドローンに搭載されているカメラで見ている、学園中の生徒達にも聞こえるようにね!」
大美和さくら先生はニコッといつもの微笑みを見せてくれ……いやいや、先生のこの微笑みはヤバい方のでしょ?
「……………」
だんまりの忍海勇太である。耐えろ……男は耐えるしかないんだよ。
「ふふふっ!」
不気味に微笑んでいる大美和さくら先生。もはやRPGのラスボス級だ……。
「……………」
「ふふふっ!」
「……俺。……こんな大美和さくら先生は嫌だ」
もうすぐ目を回しそうに顔面蒼白状態の忍海勇太が、最後の気力を振り絞って言い放った言葉、
「……こんな、欲望むき出しの……教師失格の大美和さくら先生なんて嫌だよ」
それは、ラノベ部顧問の先生へ……、ラノベ部部長の忍海勇太の口から放たれた“裏切られ感“だった。
「……俺、大美和さくら先生のことを、優しくて親切な素敵な先生だと思っていたのに、もう嫌だ……」
今日は楽しい遠足だ~と早起きした子供が、ガバーっと勢いよくカーテンを開けて!
んで、窓の外を見てみると……、土砂降りの雨模様で、一気にテンション下がっちゃいました。
折角、昨日夜遅くまで『てるてる坊主』を作ってお祈りしたのに……なんでこうなっちゃうのかな?
……という時の、
『神様なんて、だ~い嫌い』
を、空に向かって叫ぶ子供の気持ちである。
つまり、忍海勇太17歳の青春の1ページには、推定年齢27歳の独身女性の見てはいけない本性が書き込まれた瞬間だった――
『ん? 神様って我のことか――』
と、どこからともなく聖人ジャンヌ・ダルクさまの声が聞こえてきた……。
いいえ、違いますよ!
続く
この物語は、ジャンヌ・ダルクのエピソードを参考にしたフィクションです。
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