第26話 もうすぐ、聖ジャンヌ・ブレアル学園の文化祭で~す。
「は~いな!!」
ラノベ部の部室は賑やかである。
毎日、部活が始まる時に本日の『お勉強』のテーマを決めるのだけれど、今日はちょっと様子が違うみたい。
部活が始まるなり、勢い良く声を上げたのは神殿愛であった。
「生徒会長の神殿愛様が、ラノベ部の皆さんに、とっても~素晴らしいお知らせを報告しちゃいま~す。……特に勇太様へ。私から愛を込めてね!」
神殿愛、部室の前の教壇に立って、両手を腕組しながら言った。
「愛、何か変な物でも食ったの?」
それを、白々しそうに見つめて新子友花が言った。
「あらあら、友花。そこにいたの?」
と、神殿愛。
「……あんた、わざと言っているでしょ?」
と、新子友花も負けじと。
「それは、まあ、それとして……」
「おい! 愛って」
洋風座敷童と金髪山嵐の猿蟹合戦のようなやり取りは……本日も柿の種で鬼は外、おむすびころりんしたから……コンビニに買いに行こうである。
現代版の日本名作劇場と称したい……。
「もうすぐ、聖ジャンヌ・ブレアル学園の文化祭で~す。知ってましたよね、皆さん?」
神殿愛は、新子友花のツッコミをひらりと避けた。
「……そんでもって私達ラノベ部も、勿論のこと出店しま~す。これも承知ですよね?」
「出店するって? 何をだ?」
忍海勇太も部室の自分の席に座っている。
「それは勇太様! 勿論、ラノベ部としての商品を販売することですわ! って、勇太様! 昨年、私達が一年の時にも同じように出店したじゃありませんか!!」
神殿愛、そうプンプン! ……と腰に手を当て言いながら、忍海勇太の席へと駆け寄って行く。
「現ラノベ部の部長なのですから……もっとしっかりとしてください」
「おい……近いって……。分かった。分かったから。だから顔が近いって、神殿……」
たじろいだ表情になり、見事に間合いに入られた神殿愛から身を反らそうとする忍海勇太である。
「それで……神殿さん。商品って何を販売するのですか?」
ラノベ部の新入部員の(この前、入部してきた)東雲夕美が、席は一番後ろだけれど彼女も自分の机の上に身を乗り出して聞いた。
「ふふふ……。流石、東雲さん! よくぞ聞いてくれました!!」
何が流石なのかは、神殿愛にしか分からないけれど……。
「それはそれは……すんばらしい!! ラノベ部の文芸書『あたらしい文芸』の出版で~す」
神殿愛がそう宣言すると……するなり。
シャ~ シャ シャ ツ ツ シャ~
教室前の電子版ホワイトボードに『あたらしい文芸』と素早く書いたのであった。
そして――
「あたらしい文芸――ああっ! なんて良い響きなのでしょう。……まあ、昨年も同じように文芸誌を販売したのですけどね」
電子ペンを教卓に置いて、両手をパンパンと払う(チョークの様に手は汚れないって……)。
「ラノベ部員たるもの、メイド喫茶で『萌え、萌え、きゅるる~ん』って、やってる場合じゃないですからね!」
と言いながら、何故か神殿愛……胸の前に両手でハートを作った。
「……ちなみに、このタイトルは生徒会長である私、神殿愛が独断で決定しましたから!」
再び、腰に手を当て肩幅まで足を広げて、仁王立ちの如くそして『したり顔』の表情を作り宣言した。
「……神殿。お前らしいな。でも、また勝手に……ラノベ部の部長は俺なのに……」
忍海勇太は、顔に右肘を付いてそう嘆く。
「まっ……まあ、いいじゃ~ありませんか! 勇太様」
両手を忍海勇太の机に乗せて、前屈み状態な神殿愛が言う。
「どうせ、勇太様のことですから、『あ~めんどくせ~。名前決めるの超めんどくせ~』って、結局は私に任せようとするはずですし……」
あはは……っと両手をパチン! 照れ笑いしながら神殿愛の必死の言い訳。
「……ですしって。神殿。……まあ、そうだけどな。よく分かっているな」
ふ~。肩で息を吐く忍海勇太だった。
「……は~い! そうで~す!! 勇太様」
両目に星を輝かせて、忍海勇太と意気投合できた神殿愛……嬉しそうだ。
――この時1人。
な~んか……嫌な予感がしてきた人物がラノベ部の部室にいた。
その人物は、この物語の主人公である新子友花である。
どうして、嫌な予感がしたのか? 皆さんは分かりますか?
ヒントは、文芸誌のタイトル『あたらしい文芸』です。
あたらしい、 あたらしい、 新しい――
――その嫌な予感は、見事に(こういう時には)的中するものである。
「げげっ!! なんで、あたしがメイン企画なのよん!」
神殿愛に噛みついたのは、新子友花である。
「……だって、友花がクジで当たったんだから。ほらこれ~」
東雲夕美がそう言うと、新子友花の手をギュっと握って、彼女が手に持っているそれを目前へと持って見せた。
見ると、新子友花の手に持っている割り箸の先には、赤い印が付いていた。
「嫌や! 嫌や!!」
どうして関西弁になっているのか分からないけれど……。
新子友花の拒絶反応がラノベ部の部室を、ラスボスの魔力で廃墟と化してしまった城塞都市みたいに襲う。
「嫌や! 嫌や!!」
「駄々こねるなって……」
右肘をついたまま、呆れた表情を新子友花に向ける忍海勇太。
「嫌やー!!」
往生際が悪い新子友花である――
「しょーがないだろ、お前。クジで当たってしまったんだからさ……」
「しょーがなくないって、勇太! 助けて……勇者様」
赤い印がついた割り箸を凝視しながら、目の前の事実を受け入れたくない新子友花。
「俺は勇者じゃないってば。お前……」
「……あと、お前って言わないでくれる?」
いつもなら『お前って言うなー!!』と言うところを、新子友花は、流石に自分のクジ運を嘆いてそれどころじゃない。
いつもの威勢の良いツッコミではなくて……ほんとに嫌なんだろう。
「覚悟を決めなさいって! 友花!!」
首を振り溜息を吐いて……神殿愛が言った。
「友花は国語の成績をアップさせたいんでしょ? じゃあ丁度良いじゃない。自分の国語力を学園中に披露して、しっかりとコテンパンに添削されちゃいなさいな」
「愛ってば、あんた意味分かんないことを……。あわ……あわわ……」
新子友花の表情は、アニメで例えれば目の上全体が青褪めた感じである。
「それに丁度良かったです。文芸誌のタイトルを『あたらしい』にして。……あたらしいと新子、まあ偶然! まるで友花のためにあるような今回の文化祭………うん、そうだね!」
「てへ!!」
神殿愛は両手の人差し指を頬っぺたに当てて、茶目っ気に照れ笑いした。
(……愛よ。あんた、どっちみち……あたしに当て付けようと思って、そのタイトルにしたんだろが!)
新子友花、げっと・あんぐり~である。
「――まあ。添削するのは先生のお仕事ですから。新子友花さん! これはお祭りなのですから」
大美和さくら先生が、いまだ青褪めた表情が固定している新子友花の顔を見つめ、ちょっと同情な感じで言った。
「先生、手加減しちゃいますからね~」
「……ほ、ほんとですか。大美和さくら先生!!」
後一回の被弾でHP0になるところを、パラディンの国語教師――大美和さくら先生の回復魔法により九死に一生を得た新子友花。
「先生!」
「はい! 東雲夕美さん?」
はいは~い。先生質問で~す。……な感じで、東雲夕美が大美和さくら先生に聞いた。
「私も、文芸書に寄稿しなきゃいけないのですか?」
「はい、勿論です!」
大美和さくら先生は軽く頷いた。
「ラノベ部の部員の皆さんは、しっかりと全員文芸書に寄稿してくださいね。これは顧問の先生からのお願いですよ。ふふっ……」
……大美和さくら先生が不敵な笑みを浮かべる(先生、いけず?)。
「……そっか~」
天を――もとい天井を仰ぎ見る東雲夕美。
「うーん?? どうしよう友花ちゃん」
と、新子友花へと身体を向けて東雲夕美が聞いた。
「友花ちゃん。……私さ、全くアイデア浮かばないや」
(……でもやっぱ、嫌や! やっぱ、嫌や!! ほんまもんに嫌や!! なんでさ、あたしがメイン企画??)
聞いていない様子である……。
一度はパラディン大美和さくら先生に救われた新子友花――であったけれど、彼女が受けたダメージは猛毒攻撃のように、迫りくる文化祭を想像するとプレッシャーに負けそうだった。
「……まあ、東雲夕美さんは、まだ入部したての部員ですから、今回の文化祭の出し物としては、とりあえずは作文みたいな文章で構いませんよ」
大美和さくら先生は、優しく微笑む。
それを聞いて、東雲夕美は深く、うんうんと首を上下に振って応えた。
「先生……」
今度は忍海勇太である。
「はい、なんでしょう? 部長さん??」
彼の方を向く大美和さくら先生。
「部長の俺って、やっぱり……」
頭をかきながら、多分そうなんだろーな~っていう思いで。まあ、聞くだけ聞かないと……的な感じで。
「はい! よく分かっていますね」
先生、ニコッと。
まだ、彼はまだ何も言っていないのだけれど……。
「部長さんは、文芸書のタイトルデザインから構成のすべてを、しっかりとディテールすべてを編集してちょーだいね! ふふっ」
「あっ、やっぱり……。そうきますよね……」
「はい。そうきましたね!」
大美和さくら先生って、やるべきことをやらせる時には、しっかりズゲズゲと言いますね。
「先生!! 私は何を書けばいいのですか?」
右手をピンッとまっすぐに挙手して、神殿愛が尋ねる。
「神殿愛さんはね……」
大美和さくら先生は、人差し指を唇に当てて、しばしのシンキングタイムである……。
「ん~そうですね……。生徒会長としての日々の活動とか……目標を『あたらしい文芸』を通じて、発表してみてはいかがでしょうか?」
左目を閉じて何故かウインク――唇に人差し指を当てたままにである。
(先生流の『てへ!!』なのだろう)
「あ~先生それ、ナイス! アイデアです!!」
うんうん……と納得感丸出しに神殿愛が何度も頷く。
――内心、生徒会長としての活動ブリをアピールできるし! と、一石二鳥で御満足なのであった。
ちなみに、部員の仲睦まじい会話の最中も、新子友花は、もはや心の中まで青褪めていました――
「……そうそう。先生からプレゼントを……ラノベ部の文芸書はねぇ~」
よっこいしょ……。
大美和さくら先生が部室の隅にある棚から、これでもない……これでもないと、ゴソゴソと探している。
「この学園の文化祭って結構人気があるもんですから……卒業生も、文化祭に訪れてくれるのです」
「……! ああ、これ……これです♡」
あ、あった! という感じで大美和さくら先生が言う。
何やら、古本に持って行って換金しようかなという感じで、書物数冊の束を両手で抱え、それを机の中央に――
ドスン!!
「これは先生が聖ジャンヌ・ブレアル学園の在校生で、このラノベ部を新設した時に――文化祭で発表した文芸誌で~す! 題して『大美和さくら物語』ですよ! ふふっ!!」
大美和さくら先生がみんなにそう教えると、一同は絶句……した。
「ちなみに、この文芸誌のタイトルは、松たか子の主演映画[四月物語]からヒントをもらいました。大美和さくらの名前は桜ですからね~。どうですか? ステキでしょ??」
満面の笑みを浮かべ……、自信たっぷりに教えてくれましたよ……。
「あ、あの先生……」
と聞いたのは、ラノベ部の部長の忍海勇太。
「はい! なんでしょう? 忍海勇太君?」
「ラノベ部を……新設って……どういう?」
『大美和さくら物語』の文芸誌を一冊手に取り、先生に恐る恐る聞こうとする。
「はいな!! そうですよ~。びっくりくりくりってね~」
「私、大美和さくらがラノベ部を新設しちゃったんです~。驚いちゃいましたか??」
勢いよく席から起立し左手に文芸誌を抱え、右手をまっすぐに伸ばして大宣言した姿は、まるでニューヨークの自由の女神――否、それ以上に“民衆を導く自由の女神“の『みんな! 私に付いて来なさい!!』である。
「えええっ!!!」 ×3
(ラノベ部部長・忍海勇太。生徒会長・神殿愛。おまけで東雲夕美――)
「先生って、聖ジャンヌ・ブレアル学園の卒業生だったんですか?」
3人が声を揃えて、大美和さくら先生に尋ねた。
「ええ。そうでーすよ。えへへっ、びっくりしましたか?」
大美和さくら先生、この時『はい、きたね! 定番で、お約束のこのリアクション!!』と、してやったり感を文芸誌を抱えていた左手で、グッとガッツポーズを作って表現した。
更には、『てへ!!』っと言いながら、右手を自分の頭にコツンと当てて……照れちゃった。
「そりゃ~、びっくりしますよ。先生」
忍海勇太。
「先生って、それビッグニュースです!!」
神殿愛。
「大美和さくら先生って、この学園の卒業生だったんだ」
東雲夕美。
「ふ~ふ~!! そーなのですよ!! あははってね~」
腰に手を添えて、鼻息荒く……ではなくて、よくは分からない見栄を張っている大美和さくらである。
そんな中で――
「あ、あたしは合宿の時に、先生から教えてもらってたから……。でも、ラノベ部の新設ってのは初耳だったわ」
なんとか、みんなの会話に付いて行っていたのは、新子友花。
でも、現在の心情はというと、メイン企画のことでテンヤワンヤなのであった……。
キーン コーン カーン
――聖ジャンヌ・ブレアル学園に、下校のチャイムが鳴った。
「……では、今日の部活の活動はこれまでにします。文芸書の内容は、それぞれ各自でチャレンジしておいてくださいね」
大美和さくら先生は教壇に立って、笑顔でそう言った。
今日は面白かった部活動だったのでしょうね。
「皆さん? 文化祭まで時間は、まだまだありますからね。各自じっくりと時間を掛けて文章を練ってください」
先生がそう言うと、ラノベ部員4人は一斉に大きく返事した。
そして、机に散らばった『大美和さくら物語』の文芸誌を、みんなで手際良く一ヵ所に重ねる。
「――それと、新子友花さん!!」
「は……はい。大美和さくら先生?」
新子友花、教壇に立っている先生の方を向く。
「新子友花さん! メインの小説を、しっかり練りこんで書いてくださいね。先生、とっても楽しみにしていますからね」
「そ……ですか? はい……」
不安気な表情を先生に見せている新子友花だった。
――その彼女の表情を、しばらく見つめた大美和さくら先生。
「……先生は、新子友花さんには書けると思っています。メインの小説を……いいえ、書けますって!」
「……は、はい。なんとか……頑張って書いてみ……ます」
と言い、静かにコクリと頭を下げた。
「ええ、書けますって! この前の夏休みに書いたレポートを先生はしっかりと評価しています。だから……」
「だから……」
ふふっ……
大美和さくら先生は、それ以上言わずに部室を出て行きました――
その日の夜――
新子友花の自宅の二階。彼女の部屋である。
「あたらしい文芸か……………。んもっ……。って、何を書こう??」
新子友花は自室の机に向かって、ノートパソコンを広げて悩んでいた。
部屋の明かりは消していて、彼女の顔にモニターからの光が反射している。
「あたしの小説がメイン企画か……。なんか嬉しいような、恥ずかしいような」
文書作成アプリケーション[ワード]を開いて――でも、中身は真っ白け。
チカチカと……カーソルだけが点滅している。
「なんか……。なんかさぁ…………責任重大って感じだよね。ほんとに」
さっきから、こんな具合に独り言を喋っている。
「どうなることやらね。ほんとに……てへ!!」
悩みがダメージ限界突破したのか? それとも気が変になったか?
はたまた、こんな自分自身を鼓舞するためになのか……。
新子友花、自分の頭にグーの拳をコツンと当てる。
まあ、そりゃ……悩むよね?
――ところで、君の『てへ!!』一番似合ってる。
続く
この物語は、ジャンヌ・ダルクのエピソードを参考にしたフィクションです。
また、[ ]の内容は引用です。
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