第40話 暇さでは歴代魔王トップに立てるはず 1

 仕事がない。

 魔王となって数カ月間が経ったが、圧倒的に仕事がない。

 俺がこの数カ月でやったのは、ジュディにいじめられること、あとは地下書庫に毎日通うくらいである。

 

 やはり話しかけるとなると緊張して、司書の美人のおねいさんとはほとんど言葉を交わせていないが、名前くらいは手に入れた。

 オリヴィアさんというらしい。

 美しい彼女にふさわしい、きれいな名前である。

 彼女は性格もまた、素晴らしい人だった。

 碌に用もないのに毎日のように通っている俺を、変な目で見なければロリコンとも言わない。

 ……後半は当たり前のことのはずなのだが、その当たり前が魔王城ではなかなか手に入りづらいのだ。


「あなた、本題から離れてるけどいいんですか?」

 

 ジュディの普段よりさらに冷た目の声に、俺は我を取り戻す。

 そう、今考えていたのは俺の日常だった。


 仕事がないのだ。

 最初のうちは、暇でいいなぁ、くらいだった。

 ただ、仕事がないということはその分ジュディに罵られる時間が増える、ということだ。

 幸い(?)マゾヒズムにはまだ目覚めていない俺には、なかなか厳しいものがある。


 だんだんそれが嫌になってきた頃には、何でもやった。

 ラファエルの書類を奪い取り、騎士たちに稽古をつけ、迷宮ダンジョンを改造し、民と触れ合い、挙げ句の果てには城内の掃除まで。

 ただ、不慣れゆえのちょっとした失敗により、どの仕事でも歓迎されなかったのだ。


「ちょっとした失敗ですか……。

書類はうっかり破って読めなくする、騎士は一ヶ月再起不能にして魔王城の戦闘力ガタ落ち、勇者を倒すためのダンジョンのモンスターは消し飛び、ロリコンと煽られてはキレて、掃除と言いながら魔王城を破壊する。

さすが魔王の失敗はスケールが違いますね」


 俺は何も反論できずに黙り込む。

 最終的に、ラファエルは告げた。


「邪魔なので、部屋に引き籠もっていて頂いて結構です」


 俺に「わかりました」以外の返事は残されていなかった。


 というわけで、暇なのだ。

 オリヴィアさんの顔は毎日眺めていても飽きないが、さすがに魔王が毎日ずっと地下書庫に入り浸っているのでは格好がつかない。


 結局入り浸っているのはジュディの部屋である。

 こんなことをしているからロリコンの噂がやまないのは理解しているが、他に行く場所がないのだ。


 そのとき、ジュディの私室の扉がノックされた。

 最上階なので、入ってくる人物は限られている。


「どうぞ」

「失礼します」

 顔を覗かせたのはラファエル。


 そういえば数ヶ月前もこんなラファエルを見たなぁ。

 あのときと違って現状は誰にでも公開できるが。


「魔王様、魔王様にぴったりな仕事が見つかりました」

「さすがラファエル!」


 なんでもやってやろうじゃないか。

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