第27話 どうせこんなことだろうとは思ったよ 1

「ロリコン魔王バンザーイ!」

「変態魔王だー!」


 全部が全部この調子。


「結婚してー!」

 と叫んでいるのは、ジュディくらいの少女たち。


 なるほど、歓迎されているのかと思えば――ネタ枠だったらしい。


「あなたほどネタ枠にぴったりな人間はいないでしょうからね」


 俺はジュディの言葉を捨ておき、後ろに並ぶ配下たちを振り返った。


「おいミシェル。お前は何を喧伝しやがった」

「アタイだけじゃないよ。ヴァディスとか他の官僚たちだって……」


 すかさずミシェルは責任を丸投げするが、主犯がこいつなのは間違いないだろう。


「許すかぁ! 怒りの鉄槌ハンマー・オブ・ゴッド!」


 太い氷の槌がミシェルの頭上から落ちるが、

炎龍ファイア・オブ・ドラゴン

 彼女は冷静にそれを溶かし尽くした。


 まあ損害がないことをわかって魔法を使ったのだが、涼しい顔で対処されるとそれはそれで腹が立つ。

 さらに沸く群衆を、ミシェルが楽しげに見やった。


「ほら、ソーンの言葉が待たれてるよ」

 いい意味じゃないけどな。


 俺は原稿を破り捨て、全員に声が届くような魔術が施された魔道具に、叫んだ。


「俺はロリコンじゃない!!!」


 地平を埋め尽くす群衆は、最高の盛り上がりを見せた。


「魔王を何だと思っている!」

『ロリコン』


 大唱和である。

 なぜ魔王がロリコンでそこまで嬉しいのか。


「ロリコンの魔王ってコミュ障の魔王並みに面白いですよ」


 ジュディも完全に面白がっている。


「全く、本当に泣くぞ?」

「あなたの称号に泣き虫が加わるだけでしょう」

「え? ロリコンはすでに称号と化してるのか?」

「はい」

「それって他にはどんな称号が?」

「普通なのは、ぼんくらとかですね」

「普通じゃないのは?」

「乙女の口からそんなこと言えるはずないじゃないですか」


 自分の毒舌を振り返ってみたらどうだ?

 

「っていうか、城の外に出てる気配もないのになんでそんな話を知っているんだ?」

「さっきまでの鋭さならわかっているでしょう?」


 魔王城内ですら、称号とやらが広まっているということか……。 


「やっぱりわかってるじゃないですか」

「無駄な傷を負いたくないんだよ!」


 ただでさえお前のせいで満身創痍なのに……。


 俺たちがそんなのんきな会話をしていても、騒ぎは収まらない。

 それからしばらく待っても、収まらない。

 

「もういいや。聞こえてなくても話を進めよう。俺は新魔王のソーンだ」


 予想通りほとんどの魔人からは反応が返ってこない。

 

「そしてこっちが召喚した相棒のジュディ


 うぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉぉおおぉぉぉ


 ――は?」


 凄まじい熱狂ぶりに、俺は当惑する。

 こいつらちゃんと話聞いてたの?


「俺の魔王としての公約は、皆が幸せに生きられる世界を造ることだ」


 無反応。


「ジュディはドラゴンだが、人形態では11歳だ」


 うぉぉぉぉぉぉぉぉおおぉおぉぉぉおおぉぉ



「こ、こいつら…………!」

「ま、まあまあ、そんなに落ち込まないでください」


 ジュディが、困惑した表情で慰めてきた。 

 俺は即座に音響魔術具マイクを投げ捨て、百年間暮らしてきた部屋に帰った。

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