第15話 どうしてこうなった 3
「魔王様?」
「ソーン?」
「「いったいあれはどういうこと(ですか)?」」
俺が腐っても魔王なら、彼らは腐っても魔界四将軍。
その視線には、ものすごい圧が込められている。
「幼女が好きなのを隠していたいからと、わざわざ人間を召喚するのは流石に魔王として良くないと思いますが」
「ねえ、ああいう娘がタイプなの? ねえ、全然アタイになびいてくれないと思ったら、そういうことだったの?」
と思ったが勘違いだったようだ。
「違うんだ」
「何がどう違うと言いたいのカナ」
「あの少女は、召喚の儀を行ったら出てきたんだ」
「「…………」」
言ってしまった。
いや、言うつもりではあったのだが。
不気味な沈黙が流れる。
ラファエルが不自然に明るい表情を作った。
「いやぁ、魔王様は冗談がご上手で」
「ああ、冗談だったのかい。面白いというか、心臓が止まる感じがしたね」
「……いや、それが本当なんだ」
ラファエルとミシェルは揃って目を剥いた。
「真面目に言っておられるんですか!?」
「ねえ、それマジなの!?」
求められている答えとは違うが、それが真実。
俺は黙って首を縦に振った。
場に再び不気味な沈黙が流れる。
今回のそれは、さっきより遥かに重く、長かった。
やがてラファエルが口を開いた。
「魔王様。色々聞きたいことがあるんですが」
”魔王モード”が降臨したラファエルが口を開く。
俺はこう答えるしかない。
「何でも答えます」
「まず、本当に試練の儀の魔法を使ったんですか? 普通の召喚魔法の間違いでなく」
「ああ、魔法書片手に、ちゃんと試練の儀の魔法陣を書いた。そもそも、普通の召喚魔法で俺が人間の少女を呼び寄せるとでも?」
「魔王様は何でもやらかしますからね。次。試練の儀は行う場所が決まっているのはご存知ですか?」
「そうなの!?」
初耳……いや、単に俺が覚えていなかっただけかもしれない。
そんな大事なことは、きちんと魔王学で教えられているはずである。
「はぁ。
およそ魔王の配下からは聞こえてはいけない言葉が聞こえた気がしたが、とても突っ込める雰囲気ではない。
「呼び寄せてしまったもんはしょうがないから、相棒にするつもりだけど」
「…………このキチガイ魔王が。さて、次。魔王の冠がなくなって、かつあの部屋にそれっぽいものが落ちている気がしたんですが」
とうとう悪口のヴォリュームすら落とさなくなったラファエル。
「ああ、だって俺が今代の魔王なんだからいいだろ?」
「戴冠にも大仰な儀式があることをご存知で?」
「……そうだったの?」
「もう俺将軍やめようかな……。ちなみに、そのお手軽戴冠式は誰にやってもらったんですか?」
「誰も近くにいなかったから自分の手で載せました」
ラファエルのまとうオーラに、主従逆転して思わず敬語になる俺。
その答えに、ラファエルの顔からピキリと音がした。
「ちなみに、その冠は今どこに?」
「あの部屋の床に転がっています」
「……………………」
ラファエルの頭──具体的にいえばこめかみ辺り──からブチリという音が聞こえた。
かの親父を遥かに超えてゆく威圧感に、俺は後退る。
「人間の少女を相棒にすることを、民衆にどう説明するつもりでしょうか」
「誠意を込めて説得すれば納得してくれないかなぁ、なんて」
「Fuc○!」
廊下から開け放たれた扉の外によろめきでたラファエルは、第二形態──悪魔っぽい姿──に変化して、広間の窓から飛び立っていった。
戻ってきたときどうなっているのか、ものすごく不安である。
いや、そもそも戻ってきてくれるのか──?
「ねえ、アタイも一つ聞きたいことがあるんだけど」
「ああ、いたのか」
恐怖から開放されたことで、思わず、口から素直な感想が漏れる。
ブチッ
さっきはラファエルから聞こえた音が再び聞こえたような気がしたが、ミシェルはもともと短気だから問題はない。
「……ソーンって、ロリコンなの?」
「違う。それだけは断言しよう。違う」
彼女に、というよりは自分に向けて、俺ははっきりと言い切る。
唇に動揺したのは何かの間違いだ。
すると、ミシェルの気分はいくらか持ち直したように見えた。
「やっぱりそうだよね。あんな小娘よりアタイのほうが百倍好きだよね」
「それも違う」
そこも断言できる。
俺はグラマラスおねいさんが好きなのだ。
そもそも常軌を逸した変人は好みではない。
俺が男らしく言い切ると、ミシェルは数秒間黙ってこっちを見つめ、やがて
「ソーン、ちっとは女心を学びな!」
と叫びながらラファエルの出ていった窓から飛び出していった。
彼女はもともと翼があるので、変化しなくても飛べるのだ。
誰もいなくなり、結局俺のロリコン疑惑は解消されたんだろうか、と首を傾げながら訓練室に戻る。
少女は魔王の冠を弄んでいた。
「悪かったな」
何に謝っているのか分からないまま、俺はなんとなく謝る。
彼女もなんで謝られているのか分からなかったのか、俺の謝罪はスルーして、彼女はこちらを向いた。
「ねぇ魔王様」
出ていく前と明らかに違う態度に俺は警戒心を強める。
「何だ?」
「これください」
少女が手にしているのは、魔王の冠。
今まで数百代に渡って歴代の魔王に受け継がれてきた伝統の品を、彼女はまるでお菓子を欲しがるかのように要求した。
明らかになめられている。
ここは毅然とした態度で拒否するべきだろう。
「それは絶対にやらん」
「これをくれたらさっき押し倒されたときにキスされかけたこと黙っていてあげてもいいんですけど」
「差し上げさせて頂きます」
召喚の儀……人間の少女が出てきました
戴冠の儀……冠は少女に奪われました
俺は魔王になれるのだろうか。
「ところでお前、名前は何なの?」
「今更ですね……。あなたに名前を教えたくはありませんが、冠に免じて教えてあげましょう。オレヮロリです。名字はウォスキナーノです」
「変な名前だな」
これも人種の壁だろうか。
「そういうと思ったから言わなかったのです」
「まあ人の名前を変と言っちゃ悪いな。いい名前だよ」
そういうと、彼女は微妙な顔をした。
まるで、自分がやったと偽った他人の仕事を褒められたような顔だった。
俺から褒められるとは思わなかったのだろうか。
「俺はソーンだ」
「……いい名前ですね」
少女の気持ちがなんとなく分かった。
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