第39話 絶望的? まだまだ下げしろはありました 2
数十分後。
俺は居心地のいい空間にすっかり馴染み、サキュバスたちの話術に載せられるまま、本心をさらけ出していた。
「仕事が大変なんだよ、重責ある立場で。その上部下たちが俺には何一つ仕事回してくれないし。挙げ句に好きな人には旦那がいるし。使い魔のはずが俺を馬鹿にしてくるし」
仕事だと割り切っているのだろう、俺のくだらない愚痴もサキュバスたちは優しく受け入れて、慰めてくれる。
深夜になり、さすがに朝まで帰らないと、ラファエルたちに何を言われるかわからないと心配した俺は、会計をしようと立ち上がり、そして気づいた。
財布がない。
変装した際に服も取り替えたのだが、財布を入れ替えるのを忘れてしまった。
雰囲気からして、かなり高いことは間違いない。
どうしよう。
部下を呼ぶ?
取ってくるから待っているようお願いする?
魔王だと明かす?
どの選択肢も、俺が魔王だとバレてしまう。
俺が魔王だと知られていない前提で、散々口を漏らしてきたのだ。
魔王だとバレるのは困るし恥ずかしい。
「どうされました?」
サキュバスに聞かれ、俺は仕方なく、事情を告げた。
「財布を忘れたんだ」
予想外にも、サキュバスたちはにっこり笑った。
「ああ、大丈夫ですよ。魔王城のほうにツケておきますので」
「ああ、それはありがた――」
返事をしかけた俺は、ふと動きを止める。
「今、なんと?」
「大丈夫ですよ、魔王城のほうにツケておきますので」
酔いが一気に醒めた。
「ああ、なんだ、その、俺が魔王だと――」
「もちろん口外いたしませんよ。魔王様だって気を休めたいときがありますでしょう」
優しさが身に痛い……。
まずいな、何を言ったか全く覚えてないぞ……。
なぜ朝の連中は俺を魔王だと気づかなかったくせに、こっちでは思いっきり気づかれてるんだろう……。
死にたくなった俺を、さらなる絶望が襲った。
店のソファの下から、ミシェルが出てきたのだ。
ミシェルの姿を見て絶望を抱いたのは今が初めてだ。
「なんでお前がそんなとこに!?」
「アタイがソーンを尾けてるのは当たり前だろ?」
「つまり最初からいたのか?」
「あのソファは高級だな、ずっと下にいても窮屈じゃない」
朝会ったのもそういうことだったのか……。
俺が現実逃避的に納得している傍らで、ミシェルはニヤリと笑った。
「大丈夫だぜ、アタイは言ったりしないから」
「本当かよ」
「うん、だってアタイが言わなくてもなぁ」
そう言ってミシェルは、俺の背後を見た。
そこは何もなく、ただ小さい虫が一匹飛んでいるだけ。
ん?
俺はなんとなく違和感を感じて、虫を注視した。
魔力反応がある。
まさかこれ――
「あれ、バレちゃいましたね」
遠隔監視用の魔道具だった。
「力不足で申し訳ありません」
「いえいえ、ここまでバレないなんて凄いですよ」
紛うことなきラファエルとジュディの会話に、俺は目を剥く。
「お前ら……!」
「最初から見てましたよ」
先手を打たれた。
朝ジュディの声が聞こえた気がしたのはこれだったのか。
「さすがに私でも、まだテレパシーは習得してませんよ」
「ラファエルお前!」
「申し訳ございません。しかし、魔王の冠には逆らえませんので」
ジュディに冠を渡したことを言下に非難しているラファエルに、俺は黙り込むしかなかった。
……………………
新魔王はロリコンのみならず風俗好きという噂がまことしやかに囁かれるようになった。
特に女性からの評判が底値を大幅に更新し、知名度が上がった。
やったぜ!
………………はぁ。
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