第20話 魔王城会議 5

「は?」

 

 俺は耳を疑った。

 異世界だと? そんなものがあるのか?


「それは間違いなくそう言い切れるのですか?」

「はい。私が暮らしてた世界に魔法なんてありませんでしたから。ニホン、という国はこちらの世界にないでしょう?」

「……嘘をついているわけではなさそうですな」


 ラファエルは、真偽判定などの魔法も使える。 

 その彼が嘘じゃないというのだから、真実なのだ。

 ……しかし、にわかには信じがたいな。異世界?


「けどお前、俺が召喚したときそんな驚いてなかったよな?」

「最初は夢だと思ったんですよ。そうじゃないかも、と思い始めた頃にはあなたのアホさは十分にわかっていましたし」

「とりあえず魔王をアホ呼ばわりはやめようぜ」


 ここには魔王の配下が勢揃いしているのだ。


「え、けどアホですよね? 皆さん、違うんですか?」

「間違っておりませんとも」


 ラファエルの断言に続いて、数人が賛意を表すと、その後は一瞬だった。


「皆さん賛成されていますが?」

「ねえ、俺の味方いないの?」

 

 君たち俺の配下だよね。

 司書のおねいさんもこの会議に呼ぼうかな。

 ……味方してくれる保証がないからやめておこう。


 っていうかジュディ、すごい馴染んでるな。

 いいことではあるが、俺以外の人間には丁寧なのを見ると少し微妙な気分になる。


「魔王様、彼女が異世界人だと聞いて思いついたのですが……」

 とラファエル。


 驚いたのではなくて思いついたのか。

 さすが切れ者は言うことが違う。

 円卓の誰もほとんど驚いてなさそうだが。

 ジュディの話の持って行き方がうまかったのかな。

 弁は立つから。


「なんだ、聞こう」

「彼女を、ドラゴンの人形態だと偽ってはどうでしょうか。召喚の儀の失敗はなかったことにしまして」

「ナイスアイディアだな」


 彼女がこの世界の人間なら、親などもいるはずなので、いつか嘘がバレる可能性が高い。

 しかし、この世界で彼女を知っているものが誰一人いないのだから、ここにいる者たちだけが黙っておけばいいのである。


「隠蔽魔法をかけておきましょう。魔力反応で疑問を抱いても、隠蔽しているのだという言い訳が立ちます」

「さすがラファエルだ」


 戻ってきてくれて本当に良かった。

 先程のことももう根に持っていないようで、ありがたい。


「あと、使い魔用の魔法も改良しないといけませんね。ジュディ様、下僕は嫌でしょう?」


 召喚したモンスターが下僕となることを了承したあと、主従関係を保証する魔法をかける必要がある。

 ラファエルが言っているのもそのことだ。


 まあ、さすがにジュディも了承しないだろう。

 俺の予想に反し、ジュディは即答しなかった。

 

「魔王様が下僕ですか……。気持ち悪いのでできれば避けたいですが、別にいいですよ?」

「ではそれで行きましょう」

「行くな行くな行くな! この女、今俺『の』じゃなくて俺『が』と言ったぞ!?」


 聞き間違えて了解しただけだよな?

 俺の願望に対し……ラファエルは首を縦に振った。


「ええ、そうですとも。魔王様が下僕になったほうが、余計なことをする頻度が低くなるのではないかと思いまして」


 根に持っていやがった。

 頭がいいやつは執念深いという話を聞いたことがあるが、ラファエルもその例に漏れないらしい。


「やめろ! なあジュディ、対等な関係ならいいだろ?」

「どんなのですか?」

「例えば恋人につk……

「絶対に嫌です」

 ――義兄弟とかのやつだな」

「あなたとそこまで親密になりたくないんですけど……。まあそれも、豪華な生活の条件と引き換えですからね。それくらいなら呑みましょう」


 主従関係が逆転しなくて本当に良かった。

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