第33話 いよいよ絶望的な俺の評判 2
「魔王さん、あれが取れないんで代わってくださいよ。魔王なら射的くらいできるでしょう?」
十分後。
たったの、十分後。
俺の体は、もので埋まっていた。
手には綿飴やりんご飴、腕には焼きそば類、指にはヨーヨーなどがぶら下がり、翼の上にはかき氷、翼の先には金魚の袋、頭にはお面が何重にも重なっている。
「………………なあ、ツッコミどころが多すぎるんだが、いいか?」
「ダメです」
「お前はどれだけ買うつもりだ! 食いもん買ったなら食え! ヨーヨーとかお面とか自分で楽しむもんじゃねえのか! なんで荷物持ちのために第二形態にならなきゃいけないんだ! どうやって射的の鉄砲を持たせるつもりだ!」
「第三形態に変化したらどうですか?」
「一番どうでもいいところに答えたな!」
第三形態は勇者用だよ!
「やけにハイテンションですね。祭のせいですか?」
「お前のせいだよ!」
降り注ぐ面白げな視線も気にする余裕がない。
加えてもう慣れた。
慣れたくなかったが。
「魔王なんだから視線には慣れなくちゃダメですよ」
「なあ、一回荷物を置きに戻ろうとは思わないのか?」
「……しかたないですね」
呟いたジュディは、綿飴を俺の手から抜き取り、
「あ〜ん」
こちらに差し出してきた。
俄然、場が沸く。
俺は抵抗を諦めて、綿飴をひと呑みにした。
「もっと味わって食べたらどうですか?」
「綿飴をか? こんなに食べごたえがないものを味わうのか?」
自分では食べもしないくせによく言うものだ。
「だって、懐かしいものがいっぱいあって手が伸びちゃうんですもん」
可愛らしく頬を膨らまされると、しかたない、と思ってしまうのが俺の弱いところだ、とわかってはいるのだが……。
「あ〜ん」
りんご飴を丸呑み。
「あ〜ん」
かき氷も。
「あ〜ん」
焼きそばは、箸で掴むのが面倒だからと口に流し込まれた。
「ほら、片付いたでしょう」
「ドヤってんじゃねえよ! 胸を張るのは俺だろ」
そんな風に、祭を満喫する。(ジュディが)
「楽しいと認めたらどうですか?」
「隣にいるのがお前じゃなければな……」
「私じゃなければ、あなたはここにいませんよ」
たしかにそれも一理ある。
別格に楽しい、というわけじゃないが、自分の部屋に籠もっているより新鮮感はある。
彼女がいなければ、俺はこの感覚を知らないままだっただろう。
「ありがとな」
ジュディは、満面の笑みを俺に向けた。
「どういたしまして」
…………………………
魔都では、”ゆかた”が大ブームを巻き起こした。
魔王城でもあちらこちらに浴衣姿の魔人が見える。
「祭で着るから特別感があるんですけどね」
と、ジュディは少し不満そうだった。
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