第9話 召喚の儀(やっとヒロイン登場)

「ここはこうして、こうして、こうだな」

 

 召喚の儀。こちらも、魔王として認められるための大事な儀式である。

 召喚するのは、生涯の相棒。

 もちろん召喚魔法は普通に使うことになるのだが、今回は特別な点がいくつかある。

  

 まず、モンスターの種類を指定しないこと。

 自分に一番あっているモンスター、という条件で魔法を行使するのだ。

 ここで現れるモンスターの種類は、その魔王の魔王としての評判を左右することにもなる。

 

 親父の場合は最強のモンスターとされるドラゴン。

 そして親父は、歴代魔王の中でも屈指の強さと讃えられた。

 ただ、俺もそんな親父に憧れはするのだが、強いモンスターがいいかどうかはまた別の話。


 召喚させたモンスターは、力で屈服させなければいけないのだ。

 普通の召喚魔法の場合は、相手を服従させる術式を組み込んであるので、術式が失敗しない限りは、召喚したモンスターと戦うことはない。

 しかし、この儀式では、召喚したモンスターは生涯の相棒となるので、それぞれが全力をぶつけ合い、魔王がそのモンスターの主人となることを力で認めさせる必要があるのだという。


 魔力量こそ歴代魔王の中でも傑出しているのだが、魔法の扱いには自身がない俺としては、あまり強すぎて召喚の儀を失敗、とかは嫌なのだ。

 ちなみにその場合は、相棒なしで一生を過ごすことになる。 

 歴代魔王で、相棒なしというのは一例だけある。

 負けたのではない。その逆だ。

 殺してしまったのだ。召喚したモンスターを。

 ちなみにそれは親父なのだが。

 俺が近寄らないようにしていた理由もわかるだろうか。

 

「あんま強すぎるのはでてくるなよ、と。よし、できた」


 戦闘訓練用の部屋一面に魔法陣を書いた俺は、一旦休憩をとった。


 予想される激しい戦闘を前に、心構えを身につけておく。


「決して下からの態度で接しちゃだめ、傲慢なくらいがいい、と」

 

 召喚の儀の心得として、魔王学で教わったことの一つである。

 普段の俺にはなかなか難しいことなのだが、少し前まで父親も被っていた冠を頭に乗せているからだろうか、威厳を出せる気がする。


「よし、やるか」


 俺は杖を構え直し、詠唱を始めた。


召喚サモン!」


 杖を振り上げ、叫ぶ。


 魔法陣に、まっすぐに眩い光が立ち上った。


 さあ、何が来るか。


 固唾をのんで待つ青年の前で光が薄れていき──

「痛っ」

 残っていたのは一人の少女だった。


「は?」


 俺は思わず間の抜けた声を漏らし、そして「いけない」と気を引き締めた。

 たぶん、モンスターの擬態だろう。

 人形に擬態できるモンスターは、かなり高位なものだと相場は決まっている。

 先制攻撃だ、と俺はまたも杖を振り上げ──


火kファイアボ──

「ちょっと、ここどこですか!?」

 ──っっっと」


 本気で食ってかかられ、俺は魔法名詠唱を中断する。


「ねえ……じゃなくておい、お前モンスターだよな?」

「この可愛らしい私がモンスターに見えるなんて、あなた目は大丈夫ですか?」


 痛烈な物言いに腹を立てるより、驚きが上回った。


「人間? 魔人ですらなく人間?」

「私を魔人に間違えるなんて、目じゃなくて頭が悪いようですね」


 や っ て し ま っ た 。


 まさかのモンスターですらない、人間である。

 人間といえば魔王が攻め滅ぼすべき存在である。

 そんなものをこの儀式で召喚してしまったら……どうなるんだろうか?


「嘘だよな? それは面白くもなんともないただのジョークだよな?」

「私は面白くない冗談は言わない主義なんです。それよりあなた、答えてくださいよ。ここはどこなんですか?」

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