第8話 戴冠の儀お手軽vr.
「次は王冠か」
魔王の冠は死ぬ直前まで親父がかぶっていたから、今は魔王の部屋とかにあるんじゃないだろうか。
転移陣で転移したのは一階で、魔王の部屋は最上階。
魔王の部屋、もっと下のほうにしてくれないかな。
そう思いながらも、俺はおとなしく階段を登る。
最上階は、魔王と魔王が許可した者以外立入禁止で、当然今はガランとしていた。
戴冠の儀をしていないのでまだ正式には魔王候補者だが、魔王の子供には入る資格がある。
親父と二人で話そうとは思わなかったので、ここに来るのはこれが初めてだ。
門番のガーゴイルに会釈をして、魔王の財力を――同時にセンスのなさも――示す巨大な白亜の門をくぐる。
そこにあるのは、魔王の広間。
勇者が来たときに迎える場所である。
だだっ広いその広間にあるのは、柱を除けば玉座だけ。
勇者に見せるためのものなので、超金をつぎ込んでに作ってある。
具体的には――魔王領の一年分の税収くらいだろうか。
ただ、成金趣味みたいな感じで、俺はあまり座りたくない。
そうでなくても、そんな高価なものを尻に敷きたくはない。
勇者なんて俺の生きている間履きませんように。
そう願いながら、俺は玉座の後ろの扉を開く。
向こうにあるのは、階段……ではなく細い廊下。
両側と最奥に、全部合わせて九個の扉がある。
中は何なのか、一つずつ確かめてみよう。
右側の一番手前。
そこはこれまた広い、訓練室だった。
歴代魔王には好戦的なのが多かったと聞くから、あって当然の部屋だ。
ちなみに訓練室だとわかったのは、床や壁のあちこちが抉れていたり焦げていたりするから。
俺も傷の一個くらいつけられるのかなぁ。
たぶん材料は
左側の一番手前は、宝物庫だった。
金銀や芸術品っぽいやつや宝石などがいくつも置いてある。
さすが魔王、と思うだけで特に感想はない。
右側の二番目――厨房。
言うまでもなく広いが、俺が使うことはないだろう。
左側の二番目――武器庫。
たくさんの武具が床を埋め尽くしていた。
右側の三番目――書庫。
たぶん魔王の私物だろう。
極端に言えば魔王城のものはすべて魔王の私物だが、歴代魔王が特によく使ったものが置いてあるのだと思われる。
左側の三番目――金庫。
現金だけ、宝物庫とは別になっているようだ。
金貨が目に眩いばかりだが、眩しすぎて何も思わない。
右側四番目――風呂。
何人用かわからないくらい広い。
とにかく広い。
こんな広いところに一人で浸かりたくないので、俺は大浴場を使うだろう。
左側四番目――衣装部屋。
なんか黒っぽい服がたくさんある。
俺も、このままこれを受け継いでいいのだろうか。
わざわざ買うのは面倒だ。
女性用もいくつかあるが、奥さん用だろう。
魔王の家族の部屋は一階下にある?
――そんなことを気にしてはいけない。歴代魔王の誰かが女装趣味だったなんてあるはずがない。
そして最後、廊下の先に聳え立つ扉の向こうが、私室だった。
親父が使っていたのだろうソファやベッドが、そのまま残っている。
ここはそう派手さもなく、広すぎる以外は使い勝手がいい。
誰かと同棲でもすれば広すぎ、という感覚もなくなるんだろうな……。
魔王が同棲するということは結婚したも同然なので、なかなか難しいが。
そもそも、今はまだ、結婚願望はない。
っと、俺は王冠を探しに来たのだった。
意外と整頓してあったので、王冠はすぐに見つかった。
巨体の親父に合わせた巨大なベッドの上に乗っていた。
このベッドで親父は息を引き取ったんだったかな?
それならベッドだけは替えよう。
魔王の冠を持って、俺は訓練室へ向かう。
まずは、戴冠の儀。
魔法陣を書いて、王冠に魔力を流して、王冠をかぶる。
魔法が不得手とは言っても、魔法書を見ながら時間をかけていいなら、ほとんどの魔法は簡単にできる。
これで魔王になったとは信じられないくらいの手軽さで戴冠の儀は終わった。
次は、召喚の儀か。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます