第13話 どうしてこうなった 1
「その一、生涯豪華な生活を保障すること。その二、私に手を出さないこと」
どんな願いが来るのか戦々恐々としていた俺は、少女の言葉に耳を疑った。
「は? それでいいの?」
「正直、帰ったとしても一生なんて予想ついてますからね。適当に近所の男を選んで結婚して、家庭を持って子供を育てる、そんな人生よりは、こっちにいた方が楽だし楽しそうじゃないですか」
「……」
妙に達観したところがある少女。
一体年はいくつなんだろうか。見た目どおりとは思えないのだが。
「十人兄弟の中に生まれた女子なら、誰でもこんな感じだと思いますよ? ちなみに年は11歳です」
「11!? 11でその見かけなの?」
逆の意味で見た目通りではなかった。
いくらなんでも老け過ぎである。
彼女の見た目くらいなら、だいたい百歳とかその辺じゃないだろうか。
「人間の11歳としては小さいくらいですよ? 老けてるみたいに言わないでもらえますかね」
「じゃあじゃあ俺は何歳に見えるの?」
「18くらいですかね」
実年齢180である。
人種の壁とは恐ろしい。
「で、条件は守ってくれるんですか?」
「おう。そんなかんたんな条件でいいなら、魔王の誇りに賭けて誓おう」
「そこの杖に賭けて誓ってもらえませんか?
「魔王より杖のほうが信用あるっていうのか!?」
「間違えないでください、魔王じゃなくてあなたが信用ないんです」
俺、この少女にそこまで恨まれることしたかな?
たしかに間違えて──間違えたつもりはないが──召喚したのは悪いと思うが、そこまで嫌われるものだろうか?
渋々俺は自分の杖に賭けて誓い直した。
「ところで、魔王の相棒ってなにやるんですか?
「ねえ、魔王がどんな犯罪すると思っているのかな?」
「あなたならみみっちい犯罪をしてそうですね。釣り銭をごまかすとか、傘を置き引きするとか」
どうも彼女は、俺が魔王だということを信じるつもりがないらしい。
これじゃあ威厳も何もない──もともとないとは自分でも思うが──、ここらで一つ魔王の凄さを見せつけておいたほうがいいかもしれない。
魔王の凄さといえば、やはり戦闘力。
特に、──俺は苦手だが──魔法。
いくら苦手と言っても、魔法を知らない少女をビビらせるくらいはできるだろう。
さて、どの魔法にするかだが──魔法の中では得意な氷属性にしよう。
万が一ミスっても害がないような、危険性の低い魔法……彼女の足元だけ凍らせてみようか。
滑ったら笑ってやろう。
「よし、そこまで信じないなら、魔法を見せてやるよ」
「はぁ」
なにか疑わしいものを見る視線。
勘のいいことだが、完全に気づいているわけではなさそうだ。
心を読めるとは言っても、すべて読めるわけではないらしい。
腐っても魔王、初級魔法くらいは無詠唱で使える。
みみっちい企みがバレないうちに、俺は杖を振り上げた。
「
「きゃあ!」
少女の足元の床が凍り、狙い通り、少女は足を滑らせて尻餅をついた。
悲鳴は可愛いものだ。
そうニヤ付きながら、何気なく一歩足を動かした俺は、つるりと足を滑らせた。
魔法の範囲指定をミスったらしい。
「ぎゃあ!」
俺はバランスを崩し、前のめりに倒れた。
ちょうど尻餅をついた少女の上に被さるように。
下にいる少女と至近距離で目が合う。
マズい。非常にマズい状況。
女性に触れることすらほとんどなかった俺は、思いっきり動揺する。
その熱に押し流されるように、俺が柔らかそうな少女の唇を見つめて思わず口を尖らせかけたそのとき──
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