第37話 石拾いゲーム





 軽く賑わいを見せているそこへと近づく。

 人と人の隙間から奥を覗き込む。

 すると確かに男の人たちが石を拾い合っていた。


「なにしてるんですか?」


 とりあえず聞いてみる。

 するとお酒でも飲んでいたのか顔を少し赤くしたおじさんが振り向いた。


「なんだあ? お前らも参加志望か?」


 参加? と、僕たちが疑問に思っているとおじさんは教えてくれる。


「石拾いゲームって言うらしいぜ? 賭博師の男と落ちてる石を交互に拾い合って石がなくなったら負けなんだとさ」


「へー、面白そうですね」


 と、詩織が言う。

 どうやらだいぶ体調は良くなったらしい。


「賭博師ってことは何か賭けたりしてるんですか?」


「ん? なんだやっぱやりたいのか? ははは、やめとけやめとけ。あいつ相当」


 と、その時だった。


「ざっけんな!! なんで勝てねーんだよ!」


 男の人の怒鳴り声。

 僕たちは咄嗟にそちらを見る。


「お? なんだなんだ?」


 僕たちは人混みをかき分けて進んで行く。

 何かあったなら仲裁しないといけないかもだしね。

 その男性は胡坐で座り込んでいるフードの男の人に言っていた。

 イカサマだ! と。


「おいおい、馬鹿言うなよ。どう見ても公平なゲームだろ?」


「ざけんな! どうせ見えないように隠したんだろ!?」


「ははは、これだけギャラリーがいる中でどうやってだよ。大体先手後手を選んだのもあんただし、石は手を伸ばしてようやく届く距離にあるんだ。ムリムリ」


「ぐッ―――じ、じゃあもう一度だ! 今度は俺が先手で」


「あー悪いね。一人一回なんだ。そのことについてはゲーム前に確認しただろ?」


 ふむ……何となく状況は理解した。

 どうやらあの男性は自分が負けたことが納得できないらしい。

 だけどパッと見は公平なゲームに思える。


「さて、と。次は誰がやる? お、そこの旦那! どうだい?」


 だけど誰も名乗りを上げない。

 どうやらこの人は勝ちすぎたらしい。

 誰もが尻込みしている。

 僕は一歩前に出る。


「お? 今度は坊主か?」


 フードを被った男の人は僕を見てニヤリと不敵な笑みを浮かべる。


「ゆ、悠斗君? やめたほうがいいんじゃ……なんか強そうですよ?」


 詩織の不安そうな声。

 刀香さんと真子も不安そうだ。

 それはフードの男の人の隣に積んである銀貨と銅貨の山を見てそう思ったんだろう。

 少ないけど金貨もある。

 相当勝ちを重ねたんだろう。 

 賭けのレートも結構高いようだ。


「ルールだけ聞いてもいいですか?」


 僕が聞くとそのフードの男の人は気前よく笑って教えてくれた。


「簡単だ。この石の中から1~3個までを交互に拾っていくゲームだ。場の石がなくなった時点で最後を取ってた方が負けってルールだな。そこの板にも書いてあるから分からなくなったらそこを見てもいい」


 確かに近くに立てかけている木の板にルールが書いてあった。

 そっちも確認する。

 ふむふむ、と僕が頷くと「ただし!」と、一つ付け加えた。


「挑めるのは一人一回までで終わったらすぐに退いてほしい。別にやらなくてもいいけどその場合も観戦は2戦くらいにしといて離れてほしいんだ。ギャラリーがいるのは嬉しいんだがあんまり長居されるとほかの客ができないからな」


 なるほど、大体理解した。

 最後に確認する。


「勝った人って何人くらいいるんですか?」


「今のところ3人だな」


 勝った人もいる……だけどたった3人。

 この時点で色々と納得できた。

 そういうことか。


「俺やってみてもいいか?」


「おお、いいぜ? どれだけ賭ける?」


「銀貨5枚だ!」


 グレンさんが前に出る。

 娯楽の少ない世界だしこういう遊びは新鮮なんだろう。 

 ユーラさんとミラさんも楽しそうに観戦していた。

 ちなみに倍率は5倍だ。銀貨5枚賭けたグレンさんは勝てば25枚の銀貨を手に入れれる。

 なかなかの高倍率だな。

 そんな中一歩引いたところで見ているニーナさん。僕は彼女の隣に向かった。


「ニーナさんはやらないんですか?」


「うん、ユウトはやらないの?」


「うーん、勝ち負けが決まり切ってますからね。あんまり気乗りしないというか」


「? それってどういう……?」


 僕は一歩踏み出した。

 グレンさんとの勝負は盛り上がりを見せていた。石の数は残り半分くらいか。


「すみません。あとでこのメモ見てもらってもいいですか?」


 勝負中に申し訳ないけど一枚のメモを渡した。

 フードの男の人は怪訝そうな顔をしている。


「なんだ? あんたは勝負しないのか?」


「あははっ、お兄さん凄く強そうなんでやめときます」


 僕は「それじゃあ、また」と、言ってその場から離れた。

 後ろからグレンさんの「くそー!」って声が聞こえてきた。





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