第31話 Dear Heart







 ○月×日 朝


 ユウト様が野菜を残していた。

 どうやらユウト様は苦い野菜が苦手らしい。

 可愛い。



 ○月×日 昼


 ユウト様のお部屋を掃除しに行ったらユウト様がお昼寝をしていた。

 気持ち良さそうだった。

 一緒に添い寝したかったけど我慢した。



 ○月×日 夜


 アキヤマ様が魔力を感じ取れたと喜んでいた。凄く喜んでもらえたから、私も自分の事のように嬉しかった。

 それを聞いてユウト様が羨ましそうにしていた。

 今度ユウト様にも教えて差し上げたら喜んでもらえるでしょうか?



 ○月▽日 朝


 今日は勇者の皆様が素振りをしていた。

 クリタ様とアキヤマ様はへとへとになっていたけど、ヒメキ様はいつものように平気そう。

 ユウト様は、いつものように優しそうな顔じゃなくて、とても真剣な顔だった。

 格好良かった。



 ○月▽日 昼


 ユウト様が――




「…………」


 私はそこでリリアさんの日記を閉じた。

 偶然見つけたものですけど……これ以上勝手に読むのも悪いですしね。

 

「リリアさん……ほとんど佐山さんのことばかりじゃないですか……」


 甘ったるくて砂糖でも吐きそうですよ、ほんとに。

 どれだけ好きだったんですか。

 私たちだって仲良かったのに、なんて……ちょっとだけ嫉妬した。

 でも、魔力を感知できた時の事を書いていてくれたのは嬉しかった。

 ラノベみたいには上手くいかなくて悩んでた自分にコツを教えてくれたリリアさん。あの時の優しい言葉を思い出す。

 最初は魔族だと聞かされて警戒していたけど、拍子抜けするくらい普通の優しい女の子だった。

 それからは何だか自分が恥ずかしくなって積極的に話しかけた。この世界で初めてできた異世界の友達だった。


「…………」


 私はあの時何もすることが出来なかった。

 ずっと部屋に閉じ籠っていて……知らされた時には全部が終わっていた。

 結局最後まで守られていただけだった。

 【魔導】スキルは魔法を覚えていないと意味のない力だ。

 その場に居合わせていたとしても、どうにか出来たとは思わないけど……それでもやっぱり悔しかった。

 窓から中庭を見る。

 姫木さんと佐山さんが話しているのが窓越しに分かった。


「佐山さんが、ちょっとだけ羨ましいです」


 これだけ好いてくれる女の子がいたなんて。

 やっぱり佐山さんはラノベの主人公みたいな人だなと、改めて思った。


「こんなに甘々なラブコメはラノベの中だけで十分ですよ……」


 ねえ、リリアさん。

 あなたは偽物だと、そう思っていたらしいですね。

 自分の感情は偽りだと……

 最後の告白も嘘だったのだと。

 なら、なんで――


「なんで、こんなに幸せそうなんですかね……」


 日記を見て思わずそう呟いた。

 嘘だったのなら、その感情が勘違いだったというのなら。

 なんであんなに楽しそうだったんですかね。


「……本物ですよ、リリアさん」


 最初は違っていたのかもしれない。

 私にはそれを証明できない。

 人の心を理解するスキルなんて私にはない。

 

 だけど、それでも。


 誰が何と言ってその気持ちを否定しようとも――




―――――――――――――――



 ○月◇日


 今日はいつもより多くユウト様とお話しができた。

 胸が温かくなる。

 やっぱり私はユウト様が大好きなんだなと思った。

 ユウト様と、仲良くなれた他の勇者の皆様とも、いつまでも一緒にこんな日々を過ごせたらいいな。

 明日も、次の日も、そのまた次の日も。

 ずっと、ずっと……いつまでも。



―――――――――――――――



 私にはそれが愛だったのだと。

 本物だったのだと……そう思います。



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