第7話 食事会





 意見を交わし合いそれなりにまとまってきた頃。

 誰かが扉をノックする音が聞こえてきた。

 代表して姫木さんが出た。

 どこか上品な仕草で立ち上がるとそのまま扉を開けて誰かと言葉を交えて、しばらくして姫木さんが戻ってくる。


「夕食だそうです」


「あ……もうそんな時間なんですね」


 それに対して栗田さんがそういえばと言うように口を開いた。

 言われてみればお腹も空いてきた。 

 確かに窓の方を見るとオレンジ色に染まった陽が差し込んできている。


「異世界ってどんな料理が出るんですかね」


 ワクワクを抑えきれていないのが秋山さんだ。

 ファンタジーな食べ物とか出てくるんだろうかと、ソワソワしていた。

 部屋を出るとピンク色のセミロングヘアーの女の子が恭しく頭を下げてきた。

 メイドさんだった。

 それもメイド喫茶で働くバイトとかそういうのじゃない。

 本物のメイドという存在は僕のような年頃の男子にとっては異世界ファンタジー以上にファンタジーなのだ。

 ちょっとだけテンションが上がった。


「御夕食の席までご案内させて頂きます」


 しかし、ピンクって凄いな。

 現実ではコミケのコスプレイヤーくらいしか見たことない色だ。

 だけど染めたという感じはしない。

 ごく自然な髪色で、とても良く似合っていた。


「佐山先輩? 可愛いからってそんなにジロジロ見たら失礼ですよ?」


「そうだね、ごめん」


 そのままメイド服の少女についていく。

 姫木さん、栗田さん、秋山さんたちと雑談しながら長い廊下を歩くこと数分。

 何気に遠くて暇だったので【神眼】スキルを使ってみる。

 意識すると鑑定結果があちこちから表示されてちょっと面白い。

 なるほど、頭が情報量の多さでパンクしないように意図して使わないと発動しないのか。 

 そんな考察をしているとメイドの少女が立ち止まる。


「こちらになります」


 メイドの少女の言葉に従って前へと進む。

 すると外に出たのかと一瞬錯覚してしまうほどの広い部屋に出た。

 椅子がいっぱいある……もしかしなくてもこの馬鹿みたいに大きなテーブルは僕たちのためなのだろう。

 僕の想像とは違い立食形式ではないらしい。

 料理が端から並べられていくのを見て気分が高まる。

 ふと聞いてみる。


「席は好きなところを選んでもいいんですか?」


「はい、構いませんよ」


「それなら早い者勝ちですね」


 と、後輩の栗田さんがどれにするか迷うように視線を動かした。

 んー、と可愛らしく考え込む。

 秋山さんもどこの席が好きなものを取りやすいかを悩んでいるようだった。

 そんな二人を見て姫木さんは「どこでもいいじゃないですか……」と、言いながらもどこか微笑ましそうにしていた。

 部屋のあちこちに給仕係の人がいて食べ物を運んでくる。

 しばらく悩んだ後で決まったようだった。

 僕は秋山さんの隣に座る。


「これは何のお肉なんですかね?」


「パッと見だと豚っぽいよね」


 気になったので【神眼】スキルで鑑定してみる。

 

―――


【オークの頬肉の香草焼き】


 オークの頬の肉を数種類のスパイスと共に焼いた料理。

 やや辛みがあり柔らかい。

 

―――


 オークって食べれるのか。

 見たことはないけど、たぶんゴブリンが大きくなったみたいな見た目のモンスターだよね。

 これはみんなには言わない方がいいんだろうか。

 得体の知れない食材ではなさそうだけど……

 しかし、面白いな……こうしてみると色んな食材がある。

 どれもがファンタジー世界特有のもので感じたことのない香りが漂ってくる。


【ロックボアのテイルステーキ】


【雫草のサラダ】


【モチ粉スライムのキッシュ】


【デッドリーリーフ】


【精霊水スープ】


 ………ん?

 再度【神眼】を使用する。

 流し読みした情報をもう一度表示した。


―――


 デッドリーリーフ。


 遅効性の猛毒を含んだ葉。

 一見すると普通のレタスのような色をしているため判別は難しい。

 魔族領の一部の地域でのみ栽培されている。


―――



「………」 


 しつこいようだけどもう一度鑑定した。

 間違いなかった。

 なんか変なの混ざってますけど……?




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