第4話 開示





「ステータス・オープン」


 そうして、僕は自身のステータスを周囲に見せる。

 

「……え?」


 僕たちを召喚したらしき修道着の少女が驚きに目を見開く。

 周囲の騎士たちも騒めき、同郷の少女たち3人も驚愕のような表情をつくっている。

 僕が開示したステータスは以下の通りだ。




 ――――――



 佐山悠斗(人族)


 17歳


 Lv1


 生命 500

 

 攻撃 270


 防御 200


 魔力 450


 俊敏 200


 幸運 410


 スキル【強化】【治癒】【成長】


 加護【アルマの加護】



 ――――――


 

「み、3つ……?」


 案の定驚かれる。ほかの勇者の女の子たちが3人とも一つなのに僕だけ3つってのは違和感しかないだろう。

 僕は上記のスキル3つ以外を隠した。

 強すぎる力は何かしらの面倒ごとを呼び込むと思ったからだ。

 【隷属】とか【神殺し】みたいな物騒なスキルを持ってるなんて警戒されるだろうしね。

 そもそも召喚した彼女たちが善性であるとは限らないわけだし。同じ勇者仲間である3人にはいずれ言うべきだとは思うけど、タイミングは大事だ。この場では騙されていてもらおう。

 【強化】【治癒】【成長】に関しては汎用性が高い能力のためいずれ存在が露呈すると思ったから開示した。 

 後々になってバレたらそっちの方が面倒だし。

 ステータスも同じだ。

 【偽装】したところで隠すのは難しいと思ったから弄っていない。

 しかし、それで納得いかないのが周囲の人たちだ。

 召喚した人たちは強い人が来てくれたと喜んでいるけど、勇者側の……剣姫のスキルを持った少女が疑惑の目を向けてきた。


「ちょっと待ってください。なぜあなたは3つもスキルを持っているのですか? 数値もおかしくないですか?」


 こうなることは予想通り。

 だから僕も予め用意していた言葉を答える。


「神様にもっとスキルを貰えないかと頼んだら貰えました」


 別に嘘は言っていない。

 これに関しては事実だ。

 控えめに表現してるけど、ここは信じてもらうしかないだろう。


「ほかにも頼む人はいたらしいですよ?」


 彼女は今気付いたというように顔を歪める。

 凄い睨まれた。

 残念だけど、こういうのはオタクのほうが適応力があるんだ。

 見るからに優等生な目の前の少女では思いつきもしなかったんだろう。

 不愉快そうに眉根を寄せた後で懐疑的な目を向けてくる。


「……ですが、本当にそれだけでもらえたのですか?」


 まあ……疑問はもっともだ。

 貰えるならなぜ最初からくれなかったってことになる。


「賭けをしましたね。それに勝ったからもらえました」


「賭け……?」


 訝しそうに眉を寄せる。

 どうにかして言い包めたいけどどうしよう。

 と、思っていると。


「事実だと思います。実際過去の勇者様にはスキルを複数持っていた方もいます。稀有なことではありますが心強いです」


 ありがたいことに召喚した方の少女から助け舟を出してもらえた。

 あちら側としても勇者たちの仲が悪いなんて不安なのだと思う。

 それを聞いて怪しんでいた剣姫の子も警戒を弱める。

 神様を脅して無理矢理奪ったとか思ってたんだろうか?

 さすがにあれは無理かなぁ……勝てる気がしない。

 あんな殺気を出せる人に勝負を挑むのは自殺行為だ。

 まあ、でも見た目は普通の人間のお兄さんだったからね。

 この子がそう誤解するのも仕方ないかもしれない。


「す、すごいですっ、あなたは勝ったんですね!」


 すると、前髪の長い魔導スキルの子が話しかけてくる。

 前髪で表情は見えにくいけど少し興奮気味だ。


「もしかして君も?」


「はい……私は負けちゃいましたけど……」


 恥ずかしそうに前髪を弄りながらそう答える女の子。

 意外だった。

 自惚れだろうけど、その発想に至ったのは僕だけだと思っていたから。

 ということはこの子は勝負を挑んでその上でスキルが1つだったのか。


「………」


 それはいいんだけど剣姫の子の威圧が凄い。

 機嫌悪そうだ。

 自分がそのことに気付かなかったことを恥じているみたいな。

 だけどそれとは対照的に聖女の子はキラキラとした眼差しでこっちを見てきている。

 対照的な二つの視線に挟まれて居心地が悪い。


「まあ、こういう異世界モノではテンプレだからね。僕はそういうの知ってたし」


 剣姫の子にフォローする意味でも言っておく。

 魔導スキルの子が同類を見てくる目をしてきた。

 この子よく見たら長い前髪の隙間から見える顔がかなり可愛らしい。

 なのでその親近感を感じさせる仕草が少しだけ照れ臭かった。

 悲しいけど思春期男子の性だよね。

 心なしか剣姫の子からの視線は鋭くなった気がするけど……


「さ、最近流行ってますもんねっ、異世界転移とか勇者召喚とか」


「もしかしてそういうの読んでたり?」


「は、はいっ、あなたもそうなんですか?」


 頷いて肯定を返す。

 同じ匂いを感じるな。

 見た目で判断するのもあれだけど文学少女って感じだし。言い方を悪くすればオタクっぽい。


「本当に召喚されることになるとは思わなかったけどね」


 こくこくと頷かれる。

 この子とは仲良くできそうだ。

 聖女の子はまだ分からないけど、剣姫の子は気難しそうだからどうなるか心配だったんだ。

 とりあえず一人だけでも話ができそうでよかったよ。

 すると、こほんっと咳払いが聞こえた。


「申し訳ありませんが勇者様方。国王陛下の御前です。どうか御無礼のないように」


 そちらを見ると僕たちを召喚した子が目線で王様らしき男を見た。

 さすがに玉座の上の人物を無視しているわけにもいかないらしい。

 彼女の視線の動きに合わせてそちらを見ると王様だと思われる男性が口を開く。


「アルテミス王国の15代国王ガーランド・ルイ・アルテミスという。突然のことで君たちは状況が呑み込めていないところもあるだろう。詳しいことはまた後日話そうと思う」


 どうやら今日は休みらしい。

 いきなり戦ってこいとか言われるよりはいいけどね。

 それなら、と僕は立派な顎髭を擦っている国王陛下にお願いする。


「今後のことで同郷の彼女たちと話したいんですけど、部屋をお借りできないでしょうか?」


 その質問にガーランド王が答える。


「うむ、それだったらそれぞれに個室を用意している。そちらを使って頂きたい」


 個室か、それは助かる。

 いきなり召喚されたことに対して疲れもあるしね。

 しかし、王様は礼儀正しいな。

 こういう場合は召喚した側が外れって場合もあるから不安だったんだよね。


「あ、最後に質問いいですか?」


「ん? 何かな?」


「僕たちは魔王を倒した後で元の世界に帰されるんですか?」


 その問いと同時にスキル【神眼】を発動する。

 使い方は本能的に理解できた。

 まるで生まれた時からその力を持っていたかのような感覚。

 

「……申し訳ないが、この召喚は一方通行なのだ。勿論成功した際には望みの褒美を与える。この世界での生活も出来る限り保証したい」


「もしも断ったら?」


 騎士たちが騒めく。

 召喚した女の子も「え……」と、不安そうに瞳を揺らす。

 何人かから威圧のようなものを感じるけど僕は無視した。


「貴様! さっきから聞いていれば! 頭が高いぞ!」


 さすがに何か言ってくる人はいた。不味い、失敗だったかな。 

 調子に乗りすぎたかもしれない。

 最悪土下座で許してもらえないかな……そう考えていると王様が厳かに口を開いた。


「ルベリオ。よさぬか」


「ぐっ、し、しかし!」


「よせと言った」


 ギリっと歯噛みをして男は言葉を呑み込んだ。

 僕も自分の先ほどの態度は無礼だと思ったけどこれを確認するのは必須事項だった。

 この国の善悪を知らないと今後に差し支える。

 気になったのは剣姫の子からも侮蔑のような感情を感じたけど、それも無視する。

 予想通りではあるけど、君はどっちの味方なんだ……


「……それでも構わない、呼んだのはこちらの勝手なのだからな。そう判断しても文句は言えないし、そうなっても今後のことに関して生活は保障する」


 嘘は……言ってないな。

 王様だというのに意外にも低姿勢。

 この世界の常識とこちらの常識は違うのだろうか?

 それとも勇者はそれなりに位の高い存在なのかもしれない。

 なんにしても僕個人の感情としては王様の人柄に好印象を持った。国王としてはこの気弱さはどうかとも思ったけど、少なくともハズレと呼ばれる召喚パターンではなかったことに安堵する。

 ほかの3人は帰還できないことに対して何か言うかと思ったけど、どうやら何も意見はないようだ。

 少し違和感はあったものの他のことを優先させるために3人に向き直る。


「じゃあ少し休んでから僕の部屋に集合っていうのはどうだろう?」


 魔導の子と聖女の子が頷く。

 剣姫の子だけはキッと睨んできた。 

 そのまま異を唱えるように僕に言ってくる。


「勝手に決めないで下さい。それになぜあなたの部屋なんですか?」


 言外に自分たちに何かするんじゃないか? と、言われた。

 僕が仕切ったことに対しても不満そうだ。


「貰ったばかりの部屋なんだからどの部屋でも同じかなと、それならそっちのタイミングで来れる僕の部屋が良いかなって思ったんですけど」


 僕の答えに考え込む。

 そして、さらに付け加えた。


「同じ世界の人間同士少しは仲良くしませんか?」


 さすがにこれ以上何か言うのは和を乱す行為だと思ったのだろう。

 剣姫の子が引き下がった。


「……分かりました。もしなにかあれば」


「その時はお好きなように」


 剣姫の子の言葉の直後に答える。

 しかし、なぜここまで警戒されているのか。

 どう思われてるにせよ、同じ世界の人間として仲良くしたいね。






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