第34話 盗賊
夜も明けた翌日。
馬車で森林沿いを道なりに進んでいる時の事。
真子の【聖女】スキルで詩織を癒す。昨日よりかは元気出てるかな? といった様子だ。
だけど、常に使い続けるわけにもいかなかった。使用限界は今のところ来てないけど、いざってときに【聖女】の支援ができないのも困るしね。
「詩織、大丈夫?」
「うぅ、すみません……悠斗君」
今僕は、詩織の頭を太ももに乗せて膝枕をしていた。
普通ならここまでしないんだろうけど、本当に具合が悪そうだったからちょっと横になってもらったんだ。
すると前の席に座っていた真子が、何やらわざとらしく頭を押さえ始めた。
「うっ、あ、あれ? 私も気分が……」
「そうなの?」
「ええ、そうなんです。ぜひ悠斗先輩の膝枕を所望します」
「刀香さんにやってもらったら?」
今僕の膝空いてないし、それに男の固い膝枕より、女の子の柔らかい太もものほうが幾分か楽だと思う。
目を向けると、真子からは違うそうじゃない。みたいな目で見られた。
何か間違えたらしい。後輩からジト目で見られて妙な罪悪感に襲われる。
「うぁ、悠斗君。ごめんなさい。横になってると頭にダイレクトに馬車の振動が……」
「ああ、そうなんだ。じゃあやめたほうが――」
と、その瞬間。
「敵襲ッ!」
隣の馬車から声が聞こえてきた。
移動中の馬車と言えど危機を知らせるその声はハッキリと感じ取れた。
馬車が慌てて止められる。
「ユーラ! 敵はどこに!?」
馬車を出ると冒険者組の人達はさすがに慣れているのか、軽快な動きで陣列を組んでいた。
グレンさんを前衛にユーラさんとミラさんが後方に、ニーナさんはその更に後ろで弓を構える。
「前方に4人、と後ろに回り込もうとしてるのが2人。森の中に隠れてこっちを窺ってるのが2人。全部で8人……盗賊だと思う」
ユーラさんは【探知】のスキルを持っているので、冷静に盗賊の人数を口にした。
「そっちは任せてもいいか?」
護衛されてるとはいえ、任せっぱなしというわけではない。
いざという時の作戦は予め話し合っていた。
「分かりました」
皆も王都を出る前に魔物を倒していたとはいえ、人との戦闘はこれが初だった。
僕はカルラと戦ったけど、それからの対人戦はやっていない。
後方に二人か……油断なく【神眼】スキルで相手のステータスを閲覧した。
ステータスは30前後。スキルは無し。
だけど手にはカットラスのような武器が握られている。慢心は出来ない。
「チッ、なんで分かった?」
ユーラさんの【探知】スキルを知らない盗賊の男が忌々しそうに吐き捨てた。
「何でですかね?」
わざわざ言うまでもない。
情報を与えるなんて真似は出来ないし。
僕は【強化】で全身を強化した。
「ッ!」
先手必勝とばかりに男は爪先で地面を蹴って土塊を飛ばしてきた。
一緒それに気を取られる。視界も僅かに奪われた。
「ルァア!」
剣でそれを受けた、鍔迫り合いになるけど、初手で決められなかったのは致命的だった。
そのまま力で押し切っていく。
「はっ!? な、なんだよ……この馬鹿力っ!」
ステータスは10倍以上の差があるんだ。子供と大人みたいなものだ。
盗賊の男が僕に負けまいと踏ん張った。その瞬間、僕は力を抜いた。
「なっ」
バランスを崩した男。その首めがけて一閃。
ほんの一瞬の躊躇があったけど、魔族のカルラとの戦いの事もあり直後は自分でも驚くほど滑らかに動けた。
意外にも軽い感触だった。ロングソードが首の骨を断つ。
男は何が起こったのか理解できないままに首と胴体を別れさせた。
すぐに周囲を見る。
皆はまだ戦闘中だ。加勢するべく、僕は駆けだした。けど――
刀香さんと切り結んでいた盗賊の男が崩れ落ちた。
「あ ぇ?」
男の脳天には矢が刺さっていた。
その矢は、ニーナさんの弓から放たれたのだと理解した。
相手の男がそれを理解できたのかは分からないけど、盗賊はニーナさんを最後に見て、そのまま白目になったまま絶命した。
「隙だらけ」
次いでもう1本。音もなく射られたそれは盗賊たちの頭蓋に吸い込まれるように突き刺さった。
残った盗賊は一人。
こちらは一人も欠けることなく万全の体勢だ。勝負は決まっただろう。
だけど、残った一人は最後の悪足掻きとばかりに横に倒れている仲間の剣を手に持った。
「舐めんなよクソがぁあ!!」
剣を投げつけてきた。勢いよく放たれた剣先はニーナさんへと向かっている。
僅かに硬直するニーナさんは、すぐに短剣を構える。
だけど、危ういと感じた。
「ニーナさんッ!」
「っ!」
僕は横からニーナさんを抱き締めながらタックルをする要領で、攻撃から逃れた。
ニーナさんの頭を庇いながら倒れ込む。
慌てて視線を戻すと、盗賊の男がグレンさんの剣に貫かれている光景が目に映った。
◇◇◇
「盗賊ってこの世界ではどういう扱いなんですか?」
キラキラしている詩織から、せめて目を逸らしてあげながら僕はグレンさんに尋ねた。
「魔物と同じような扱いだな。生死問わず首には賞金がかけられている」
首だけ持って行けば街で換金して貰えるらしい。
どうやって判断するんだろうとも思ったけど、街の関門で嘘を判断する魔導具で調べられるらしい。
有名な盗賊だと懸賞金がかけられてたりだとか。
グレンさんとミラさんが黙々と首を切り落としていたのは中々ショッキングなシーンだ……
ユーラさんは、仲間の盗賊の報復が来ないかどうか周囲を警戒してくれていた。
「仲間が来ないとも限らないし、さっさと出よう。盗賊に襲われたことに関しては俺達からギルドに報告しておく」
「分かりました」
と、そこで先ほど押し倒してしまったニーナさんに目を向ける。
「さっきはすみません。咄嗟だったので……怪我はなかったですか?」
「う、うん……」
言葉少なくニーナさんは頷いた。
心なしかソワソワしている。
……やっぱり気にしてるのかな。
状況が状況でも、女の人押し倒すのは良くなかったかもしれない。
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