第5話 実験
「2時間後くらいでどうだろ」
案内されて各々の部屋を確認してから、僕は発言した。
それに対して全員が不思議そうにする。
「今すぐじゃダメなんですか? 早い方がいいと思いますけど……」
「ごめん。疲れちゃってさ。少し落ち着きたいんだ」
するとやはりというべきか【剣姫】の彼女は不服そうだった。
「軟弱ですね」
と、少し小馬鹿にした様子。僕を貶めることで愉悦に浸るとかではなく、心の底から思ってそうな顔だった。
しかし、なんでこんなに敵視されてるんだろう?
僕たち初対面だよね……人の名前とかを覚えるのが苦手だから自信なくなってきた。
「で、でも確かに……今日は色々急展開過ぎましたからね」
慌てて【魔導】スキルの少女がフォローに回ってくれた。
【聖女】の子も頷く。すると先ほどまでの微妙な雰囲気が霧散した。
どうやら【剣姫】の彼女が気に入らないのは僕だけらしい。
納得はいかない感じはしたものの、剣呑な空気にならなくてよかった。
それにやっぱり皆言葉にはしないだけで疲れていたようだ。さすがに非日常が続き過ぎたからね。
「じゃあまた2時間後に」
そう言って僕は部屋に入ると、扉を閉めた。
室内に余計なものはなかった。簡単な棚と姿見。アニメで見たことのあるいかにも王族が使うようなイメージのベッドが置いてあった。
清掃は行き届いていて汚れなどは見当たらない。
僕は大きく息を吐いた。
「疲れた……」
色々あり過ぎだったよ今日は……でも、やることはまだまだある。
横になるでもなく、休むでもなく、頬を叩いて気合いを入れ直して行動を開始した。
「勇者様、どちらへ?」
「ちょっとお手洗いに」
廊下で待機していた侍女の人にトイレの場所を聞いて歩き出した。
いくら疲れているとはいえ、さすがにこんな非常時に休んでなんていられるはずもない。意見を合わせるのは早い段階が良いに決まってる。
にも関わらずなぜ時間を空けたのか。
それはいくつか試したいことがあったからだ。
ここのお城には中庭があった。
そこで騎士の人たちが訓練したりするらしく、中々に立派で広い庭だった。
芝生が植えられていて緑が視界いっぱいに広がっている。
そこへ散歩したいと言って通りがかり、制服のポケットいっぱいに落ちていた小石を詰めて部屋へと帰ってきた。
部屋に戻った僕はポケットから大量の小石を床へと置くと、胡坐をかいて座りハサミを取り出す。
今回の肝になるのはこのハサミと小石だ。
これでスキルの実験を行う。
最初は普通にハサミで石を軽く撫でる。
「予想通り傷すらつかない、と」
逆に刃が欠けそうだ。
次にスキル【神殺し】を発動する。
全てのモノの命を奪うことができるスキル。
このスキルは無機物である石にも有効なのかどうか。
説明にはあらゆる『モノ』と書いてあった。
日本でも八百万の神とかあったし、命がない物に対しても有効である可能性があったのだ。
存在を殺せるスキル。
そして、もしも有効ならおそらくは――
「駄目か……」
石には傷がつかない。
まあ僕もそんなことが出来るのかと半信半疑だったしね。
検証は失敗か……と、少し落ち込むけどしばらくして考え直す。
単純に耐久力の問題じゃないか? と。
それならばと僕は【強化】スキルで握力を強化する。
そして、石を思いっきり握った。
ぐぐ……ぴしっ
「お?」
小石の中央にヒビが入った。
僕はそのまま握りつぶすように石に力を加え続ける。
やがて石は砕ける……と、同時に【神殺し】のスキルを発動する。
「おお!?」
石が黒い霧状に変化する。
黒い霧になった個所からゆっくりと存在がブレるように歪み、消えていった。
――石が死んだ。とでも言えばいいのだろうか。
第一段階はこれでクリアだ。
次に第二段階の確認として自分のステータスを閲覧した。
――――――
佐山悠斗(人族)
17歳
Lv1⇒Lv2
生命 500⇒520
攻撃 270⇒280
防御 200⇒210
魔力 450⇒455
俊敏 200⇒210
幸運 410⇒412
スキル【神殺し】【神眼】【偽装】【強化】【治癒】【成長】【隷属】【???】
加護【アルマの加護】
――――――
「よっし!」
目論見は成功……いや、大成功だった。
僕としては出来れば儲けものくらいの気持ちだったんだけどね。
「これで経験値が貯まるなら色々できるな」
僕がやったことは単純だ。
まず【強化】で体を強化する。
次に【神殺し】で無機物の命を奪う。
ここは出来るかどうかは賭けだった。
僕がステータスを見て最初に思ったことがこれだ。
この世界にレベルが存在する事と僕のスキル一覧を見た瞬間に僕は疑問を感じたんだ。
レベルを上げるための経験値の定義とはなんだろうか? と。
RPGなどのゲームでは殺せばそれは手に入る。
スライムを倒したりゴブリンを倒したり……とにかく命を奪えたら経験として積み重なるんだ。
それならあらゆるモノの命を奪うことができるスキルを持っている僕の場合はどうなるのか?
答えは今見せた通りだ。
あらゆる存在の命を奪うことができる僕のレベルは例え小石を破壊した場合だろうと上がる。
最後の問題は果たして小石を壊した程度でも経験は蓄積されるのかどうかだったけど……僕のスキルには経験値を溜め易くする【成長】スキルがある。
これは常時発動系のパッシブスキルらしく発動しようと思わなくても勝手に経験値が増えていた。
……まあ、発動の感覚はあくまでなんとなくだけどね。
それに加えて成長に補正が掛かるアルマの加護。
この2つがあればご覧の通り室内で座っていようとも簡単にレベリングが可能だ。
「ほとんどチートだな……」
我ながらずるいなあ……と思った。
だけど活用できるものはなんでもする。
この世界で何がどうなるか分からないことだしね。
ポケットいっぱいに入った小石を強化した握力で握り潰していき【神殺し】で存在を壊す。
【成長】スキルと加護の効果でぐんぐんステータスが伸びていき、レベルが上がるごとに僕の力が強くなっていくのを感じた。
また鑑定されたらどうしよう……と思ったけどそうなったらその時は大人しくステータスも【偽装】しよう。
同じ作業を繰り返していく……この単純作業は本当にゲームを思い出すね。
レベル上げの作業は嫌いじゃないけどさ。
結果も伴うから気楽ですらある。
それでもさすがに小石では限界があったのか次第に上がらなくなっていった。
【成長】スキルがあっても小石でこれ以上はきつそうかな?
だけど中庭を3往復もした頃には僕のレベルはそこそこのものになっているのだった。
侍女の人には変な目で見られたけどね……
――――――
佐山悠斗(人族)
17歳
Lv2⇒Lv6
生命 520⇒600
攻撃 280⇒320
防御 210⇒250
魔力 455⇒515
俊敏 210⇒250
幸運 412⇒420
スキル【神殺し】【神眼】【偽装】【強化】【治癒】【成長】【隷属】【???】
加護【アルマの加護】
――――――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます