第36話 ルルト村
「うぅぅ」
詩織が呻いていた。どうやらまだ馬車には慣れていないらしい。
【聖女】スキルで最初は元気だった詩織だったんだけど、あまり連発し過ぎてもいざという時に使えないのは困る。ということで後半からは必死に吐き気を堪えていた。
だけど詩織の元気がないのだって問題な気がするな。
「どこかで止まれませんか?」
「少し先に行ったところに村がありますよ。そこで御休みなされますか?」
ということで少し先の村に馬車を止めてもらうことに。
村の名前は【ルルト村】というらしく【グラントニオ】と【王都アルテミス】を中継する村なだけあって人の出入りはそこそこ多いらしい。
「何となくなんですけど……」
真子が詩織の背中を擦りながら神妙な面持ちをしていた。
「ニーナさんが妙に悠斗先輩にグイグイいってる気がするんですが」
そうかな? 確かにニーナさんとは、見張りで火の番を一緒にしたからそれなりに距離は縮まったと思うけど。
だけどニーナさんの寡黙なキャラ的にそういうイメージは沸かないな。
だけど、真子は「うむむ……」と、真剣な顔で悩んでる。
「止まりますね」
そうこうしている内に馬車が止まった。
どうやら村についたようだった。詩織がヨロヨロと、馬車からゾンビのような動きで降りていった。
◇◇◇
「うぅ……」
「どこかから水でも貰ってきます」
「飲み水なら残ってるでしょ?」
「いえ、どうせなら冷たいものがいいかなと思ったので」
なるほど、確かに酔ってるときに生温い水というのも可哀想だ。
刀香さんと真子は護衛である冒険者の人達とそのまま酒場の方へと向かっていく。
御者の二人は馬車と馬の確認。
僕は詩織を一人にはしておけなかったのでニーナさんとこの場で待機だ。
「ぅう……すみません……」
「気にしなくていいよ。今はゆっくり休んでて」
そうしてしばらく詩織の隣でボーっとする。
ニーナさんは僕の隣でじっと立っているけど、真子が言ってたグイグイいってるってのはよく分からないな。
話してみると気さくなところもある人だし、ギャップがそう思わせてるってことなんだろうか。
と、ふいに気になった。
とある大きな一軒家の前に小さな人だかりができてる。
いや、違うな……あそこは、酒場かな? 酒場の前に人が集まっていた。なんだろう?
「ごめん詩織。ちょっと頼んでもいい?」
「な、なんですか?」
「あそこ見てほしいんだけど」
見てほしいというのは詩織の習得した新しい力のことだ。
―――『遠視』
僕が言うことでもないけど物凄く強い力ってわけじゃない。
スキルではなく魔法なのだそうだ。
目の周りに魔力を纏わせて、目を良くする力。まあ地味だよね。
だけど詩織さんは初めて魔法を覚えることが出来たと喜んでいたので水を差す必要もないだろうと思っている。
実際こうして役立つ場面もあるんだしね。
「……なにか、やってますね」
「なにかって?」
「地面に落ちてる……石ですかね? それを拾い合ってます」
「石?」
何それどういう状況?
気になったけど詩織を置いていくわけにもいかない。
ううむ、歯がゆい。
と、その時丁度刀香さんと真子が戻ってきた。
「果実水を貰ってきました。飲めますか?」
「あ、ありがとうございます……」
真子から受け取り喉を鳴らして飲んでいく。
だいぶ楽になったようだ。
顔色も良くなっている。
「あの……あっち行ってみませんか?」
「え? もういいの?」
「だ、大丈夫です……だいぶ良くなったので」
それに……と、詩織が言う。
「私も気になりますし」
ふむ……本人がそう言うなら大丈夫なんだろうか?
それに僕も気になるし……
そんなわけで僕たちはその人集りの方へと行ってみた。
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