第12話「ぼっち」
「つうか菓子作りでもするのか?」
「うん」
「へー。最強と名高い騎士様が、ねぇ」
ベルがニッと笑った。
「無口かと思ったら意外と喋れるのか?」
ゾディアックは立ち止まった。
「いや、怖い、んだ。初対面の人と、話すのが」
「人見知りか」
「うん。会話が苦手、なんだ。だ、だから練習してる」
「話術の?」
「うん。友達を、作れるように」
ベルは感心するように長く息を吐いた。
「いいねぇ。嫌いじゃないぜ。努力する奴は嫌いじゃあない」
まだ知り合って1時間も経ってない相手に変な相談をしてしまったと思い、ゾディアックは内心慌てた。
「話し戻すが菓子作りは小さい頃からやってんの?」
ゾディアックは右手に持つ布製の買い物袋を見つめた。
大切な人の笑顔を見たい。そんな恥ずかしいことを言えるわけが無かった。
「ま、なんでもいっか。目的地だぜ」
顔を上げると、セントラルの建物が見えた。
「結構楽しかったぜ、ゾディアック。また機会があれば、ゆっくり話そう」
「うん。今日はありがとう。ベル、さん」
「ベルでいい。じゃあな」
ベルは二っと笑って背を向けた
ゾディアックはセントラルの中へ入っていく。
騎士の姿が消え失せてから、ベルは立ち止まった。
「あれが、ねぇ。色々と問題ありそうだ」
顎髭をさする。
「さて、どうやってあいつに銃を売ろうか」
商売人の笑みを浮かべたベルは再び歩き始めた。
★★★
周囲の目線を勇気で無視し受付へ。
「よぉ、ゾディアック」
レミィが気さくに挨拶をした。少し口角を上げている。
先日のことがあったため、ゾディアックはレミィを苦手としていた。兜の下で唇をへの字に曲げる。
ゾディアックは買い物袋をカウンターに置いた。ガーディアンはセントラルに荷物を預ける権利を持っている。
「中身確認するぞ」
レミィは買い物袋を手に取る。
「なんだ、こりゃ? 小麦粉に牛乳に」
疑問符を浮かべながら確認した後、視線をゾディアックに向ける。
「料理の材料か。常温保存できない奴は冷やしておくよ。何作るんだ?」
「……ケーキ」
「ん?」
「パン、ケーキ」
「パンケーキ!? 昨日テレビでやってたあれか! へぇ~! マジか。作ったら私にも食わせてくれよ」
レミィは楽しそうに荷物を預かることを承諾した。
嫌だと言いたかった。小馬鹿にしたような笑い方が
「任務を受けたい」
「なんだよ。怒んなって」
レミィは肩をすくめた。
「で、内容は?」
「モンスター、討伐。スライムの」
材料で必要なのがひとつだけまだ手に入ってない。
シロップに使う”ラムネゼリー”だ。これはレアモンスターの「ラムネスライム」からしか
レアであるため出現率が低い。さらにラムネゼリーを入手できるかは個体が大きくなければ採取できない。
そのため希少品であり、キャラバンでもほとんど取り扱ってないのだ。
しかしラムネゼリーが達成報酬として手に入る任務があることを、ゾディアックは知っていた。
「ああ、なるほど」
レミィもゾディアックの狙いがわかったようで数回頷き、申し訳なさそうに眉根を寄せた。
「お前が狙ってる任務さ、ふたり以上からなんだ。人数制限がある」
ゾディアックはその言葉を聞いて固まった。
二人組作って。みんなで集まって。
ゾディアックにとって死刑宣告、悪魔の言葉だ。
この任務を受けるのと受けないのとでは、ラムネゼリーの入手効率が
だがセントラル内で、ゾディアックをパーティに入れる者はゼロだろう。
ゾディアックはがっくりと肩を落とした。
レミィは慌てた様子で手元にあった資料を手に取る。
「ま、まぁ待てよ。パーティの書類あるからさ、
「い、いや」
「大丈夫! 私に任せとけ。誰かゾディアックと一緒にパーティ組んでくれないかって聞いてくるから」
「あ、あの……お願いだから、やめて……」
そんなことをされた日には、もうここに来れない。
惨めで死にたくなった。なんでこうなるんだろう。
ゾディアックは兜の上から、目頭を押さえそうになった。
★★★
最終的に「周辺調査及び警備」任務を受けることになった。
調査が目的あるため、追加報酬も当然ない。ガーディアンが合法的に国外に出て好きなように活動できるという任務だ。
近場の森林に来たゾディアックは、アンバーシェルのアラームを流した。特定種類のモンスターをおびき寄せる特殊な音で、ラムネスライムを釣ろうという作戦だった。
レアモンスターだけをおびき寄せる、という便利な機能ではないため、現れるかどうかは運次第だが。
するとさっそく、周囲からスライムが現れた。
見た目は巨大な雨水のような見た目をしており、全身は緑一色。ゼリー状の体であるため、どちらが前か後ろかわからない。体は透けており、中の液体が沸騰しているように、ボコボコと泡立っていた。
10数匹のスライムはブヨブヨな体を動かし、跳ねまわりながらゾディアックに体当たりした。
スライムの体は強力な酸性の液体でできている。そのため鎧や武器を溶かされる恐れがある。
だが、ゾディアックの装備はその程度では溶けない。
ぽよん、ぽよんと体当たりされ続ける。ゾディアックは背中から剣を抜き、軽く振る。衝撃波が放たれ、周囲のスライムを一掃した。
それから夜までたっぷりスライムを倒し続け、時折現れたラムネスライムを屠り目的の物を集め続け、夕日が沈むころにはゼリーを60個確保することができた。
「充分……だけど」
周囲を警戒する。狩っている間、少しだけ違和感があった。もっとスライムが来る予定だったが、数が少なかった気がする。
まぁ今はこれで充分だ。ゾディアックは小さくガッツポーズをして帰路についた。
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