第22話「火竜ラミエル」(前)

「ゾディアック!!」


 ベルが叫んだ。

 ゾディアックたちがラミエルの口から放たれた炎の渦に飲み込まれたのがはっきりと見えた。

 火噴ブレスは波のように広がっていき、広場を炎上させた。


「あのドラゴン、山全部炭にするつもりですかね~」


 ラズィは自嘲気味に言った。

 ベルは舌打ちして手袋を外そうとした。


 が、それよりも速く、金色の瞳が向けられた。

 二人はあまりのプレッシャーに動作を止めてしまう。

 竜が口を開ける。喉奥が紅蓮に輝くのが見える。


「下がって!!」


 ラズィが杖を構えて前に立った。

 直後一瞬で空間に出現した巨大な火球が放たれた。

 爆音と共に迫りくるそれを防ぐため、ラズィは自身の前に防御壁を展開する。青白い白の城壁を模した壁が地中から生え、火球に当たる。

 壁が砕けると火球も霧散した。なんとか相殺できたと安堵していると、


「マズいっ!!」


 再びラミエルの口から火球が放たれた。ベルはラズィを抱えて飛ぶ。

 爆音が響き、地面を抉り飛ばした。爆風で吹き飛びながらも両者受け身を取って立ち上がる。


「大丈夫か!?」

「あっぶな~……死ぬかと思いましたよー」

「クソッタレ。やるしかねぇってか」


 ラミエルに視線を向けた時だった。

 炎の中から漆黒の鎧が姿を見せた。


 天高く跳躍し、炎の海から脱出したゾディアックはベルたちのそばへ降り立った。


「ベル、ラズィ! この子を頼む! 近くで隠れてて!」

「お、おう!!」

 

 ゾディアックは少女を離すと駆け出した。


「ま、待って……待って!! ラミエル!!」


 少女がよろよろとした動きでゾディアックの方に行こうとした。


「馬鹿、お嬢ちゃんこっちこい!! 死んじまうぞ!」


 無理やり引っ張りながら後退する。


「いやだっ!! や、やだぁああ!!! ラミエル! ラミエル!!」


 少女の叫びは竜の咆哮に掻き消された。

 ただ吠えるだけで空気が振動し衝撃波が生まれた。地面が揺れ動くような錯覚に陥る。


 ラミエルの口が再び赤く染まる。

 ゾディアックは剣を持っていない左手をラミエルに向け、紫電の球体を素早く作る発射した。紫電はラミエルの目にぶつかり激しい火花を散らした。

 ダメージは無さそうだが相手の行動を止めることに成功。ゾディアックは大地を蹴る。一気に距離を詰め大剣を大上段に構えると、巨大なの右前脚を切りつける。


 ラミエルはで大地を踏んでいる。前足を切り飛ばせば体勢が崩れて勝利が近づくと考えての一撃だった。

 

 漆黒の剣が、真紅の鱗とぶつかる。火花を散らし、甲高い音が木霊し剣が弾かれた。

 鱗には、ヒビひとつ入っていない。堅すぎるのだ。


 ラミエルが剣を払い除けるように両前足を上げ、体を起こし、後ろ脚だけで体重を支えた。

 ゾディアックは剣の腹を自身の前に出し後ろに飛ぶ。


 ラミエルが前足を降ろした。超重量のプレスによって轟音が鳴り響き、地面が大きく捲れた。

 直撃を免れたものの、ゾディアックは衝撃波で吹き飛ばされた。




★★★




 地面がめくり上がり、荒れ狂う暴風が草木を吹き飛ばした。

 遠くで見ていただけのビオレは激しい揺れと強風に煽られ、立っていられなくなった。


「範囲が広すぎますね~……もっと離れないと」


 ベルがコートの下からカービンライフルを取り出す。

 弾倉を確認し銃弾が入っていることを確認するとマガジンハウジングに差し込み固定する。チャージングハンドルを引くとハンマーが起こされた。


「さて、どうなるかな」

 

 構えながらセレクターレバーを操作しSAFE安全からBURST三点弾に切り替え、引き金を絞る。

 ダダダン、ダダダン、とリズムよく放たれた5.56x45mm弾はラミエルの鱗に当たったが、甲高い音を立てて弾かれた。傷ひとつ、ついていない。


「こりゃあ、俺の援護なんざ無意味かなぁ」


 諦めずに目を狙って発砲する。すぐに弾切れになった。予備弾倉を取り出す。


「相手のあの炎を見る限り、私の魔法も使い物にならないでしょうね~。悔しいですが、ゾディアックさんの援護よりも、この子を守ることを優先に考えましょ~」


 話し合うふたりをよそに、ビオレはラミエルの方を見た。


「……ラミエル」


 友は、殺意と怒りを露にしていた。

 自身の火を嫌い、自然を愛していたあの心優しい姿は、そこにはなかった。


 ラミエルが咆えた。耳が一瞬聞こえなくなり、平衡感覚が失われる

 なんとも恐ろしい咆哮。

 だがビオレにはその咆哮が、苦しんでいるようにしか聞こえなかった。



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