第3話「サフィリア宝城都市」
正門を通り過ぎると人の量が増加した。歩けなくなるほどひしめき合っているわけではないが、流れが悪い。
やがて群衆が立ち止まった。ゾディアックは疑問符を浮かべ、長身を活かして人々の頭越しに先を見る。
頭にターバンを巻いている男が両手を振っているのが見え、微かに誘導の声が聞こえてくる。次いで大きな音が近づいてきたかと思うと、馬車が群衆の前を横切り始めた。2台、3台と、流れるように続いていく。荷台には食品が詰められた袋だけでなく、武器防具の類も剥き出して運ばれているのが見えた。
”キャラバン”だ。世界中を転々としながら物資の売買を行う、移動型商人団体の荷が通り過ぎている。キャラバンマークは見当たらないが、馬車の数と荷は、大手であることを物語っていた。
馬車を見ていると
犬耳を生やしたガネグ族。
猫耳のシャーレロス族。
さらに人面で獣の耳と体毛を生やした”
全員、薄い布の服を着せられ、寒さに耐えるように身を寄せ合ってた。
「どこのキャラバンだ? あれ」
「「ラビット・パイ」だよ」
隣から話し声が聞こえた。
「今日もビラ配ってたよ。獣人追加。目玉はメスの半獣だって」
「よく捕まえてきたな」
「フォルリィアから連れてきたらしい。よくもまぁあんな砂漠大国に行くもんだ」
馬車が通り過ぎたのをきっかけに、群衆が波のように動き始めた。ゾディアックは後ろから押されるように前に進み始めた。
サフィリア宝城都市のメイン・ストリートに足を踏み入れると、賑やかな街の声が洪水の如く押し寄せてくる。
道を挟んで塀のように並ぶ建物は、落ち着いた色合いをしており、まるで絵本のような街並みを作り出している。朝でも夜でもその美しさは変わらない。
ただ、昼夜問わず賑やかな街の喧騒と、特徴的なキャラバンの露店が、その景観を台無しにしていることも否めない。
今日は休日ということもあり、車道部分を含めた道路全体を歩行者用道路として運用している。ゆえにゾディアックの眼前には、さまざまな人種が入り混じった群衆と、数多のキャラバン達によって展開される店が広がっている。
「さぁさぁ! 道具の調合におひとつマンドラゴラなんてどうだい!」
近くの露店から男の声が聞こえてくる。ゾディアックは商品を流し見しながら歩を進める。
「魔導書大特価です!
黒のローブを着た女性魔道士と擦れ違う。キャラバンではなく、個人で販売しているようだ。
ぶつからないよう魔道士に道を譲る。
「ブラックスミスから取り寄せたAL-48はどうだ? サイクロプスの分厚い体も風穴開けられ……もっと小さいのがいいのか? 駄目だ。小さいのだと威力もロマンもない!」
男が銀色に光る大型の銃を持ちながら、鎧を着たバナル族のガーディアンに紹介している。
「ぼったくりだろ! 回復薬ひとつで1000ガルって!」
「うちのは質がいいんだよ。文句があるなら他行きな、クソガキ」
「質がいいからって、市場に出回ってるやつの10倍価格設定はやりすぎだっつうの!」
近くから喧嘩の声が聞こえる。文句を言っている方は、声からしてまだ若い少年だろう。
「やだー。このぬいぐるみかわいい~!」
「ぬいぐるみじゃないわ、お嬢さん。この子はオーガ族の子供なの。商品じゃないから、勝手に取らないでね」
「はーい!」
ゾディアックは裏道に入る。細路地を進み、さらに下へ。街の喧騒が静かになっていく。姿を隠そうとする夕陽の光が、わずかに差し込む道を歩く。
ゾディアックはこの地下道が好きだった。薄暗く静かで、セントラルへの近道でもあるこの道が。
それから10分ほど歩き続け、セントラルにたどり着いた。
白塗りの建物にはガーディアンが集うことを示す、さまざまな武器が円を描くように並べられているマークが描かれている。
ゾディアックは建物の扉の前に立つ。今日も人が大勢いそうだ。
不意に、足が震え、胸が締め付けられた。
また、あの視線を浴びる羽目になるのか。
ゾディアックは一度深呼吸をする。
緊張をほぐすと、意を決したように扉を開け、中に入った。
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