第17話「異変」
ゾディアックは大剣を握りしめながら眉間に皺を寄せていた。
そんなはずはないと、アンバーシェルを操作し音を鳴らす。だがスライムどころかモンスター一匹出てこなかった。
「どうなってる」
モンスターの数が激減しているというより絶滅したレベルで気配が失せていた。
これでラムネスライムが狩れない。パンケーキのシロップが作れないではないか。
ちなみに昨日シロップを作ろうとしたところ、なぜか炭酸爆弾ができてしまい、リビングの窓ガラスが全部割れてロゼがキレた。何を言っているかわからないと思うがそれが事実でそれが現実だ。
「ん~。やっぱり、デルタ山脈の火事が原因なのかな」
自分も行けばよかったと後悔していた。調査隊が結成されたが嫌われているゾディアックは名乗り出ないようにした。
行かないと決めた理由はそれだけではない。オーディファル大陸の中で最も大きな国、「ギルバニア王国」から王国直属のガーディアン舞台、
騎士団の実力は折り紙付きである。すぐに山火事の原因は解明するだろう。
だがモンスターの数が激減するのは勘弁して欲しかった。平和でいいと思うかもしれないが、モンスターの素材で生計を立てている者もいるのだ。
「ちょっと遠くに行ってみようか」
ゾディアックはロゼに一日だけ家を空けることを連絡し、世界を歩き始めた。
が、丸一日歩いてもモンスターとは出会わなかった。
「これは流石におかしいだろ……」
このまま歩いても無駄か。ゾディアックは迂回して時間をかけながらセントラルに戻ることにした。
まさかちゃんとした調査任務を行うことになるとは。ゾディアックの口角が少しだけ上がった。
空は快晴。だが今は、その平和な青い空が不気味に映っていた。
★★★
レンタル用のワイバーンを使い、1日以上かけデルタ山脈に来たウェイグたちは炭と化した森林を歩いていた。まだ木の幹が残っている者もあるが、真っ黒焦げなものしかない。
「ねぇウェイグ~。戻った方がいいんじゃない? 調査隊から離れてるしぃ、私歩き疲れたぁ」
メ―シェルが頬を膨らませた。
「うるせぇな。黙ってついて来いよ」
「ですが、当てはあるのですか?」
「あ? お前は賢い見た目してるくせに馬鹿だよな、ロバート」
得意げなウェイグの背を睨む。相手は何も気にせずヘラヘラとしていた。
「調査隊に付き添っていたらドラゴン云々と出会った時、動けなくなるじゃねぇか。俺らが手柄を立てるんだ。わかるだろ?」
「まぁ、その気持ちはわかりますが。ドラゴンですよ?」
「はぁ……あのよぉ。でっけぇドラゴンがいたのなんか数百年前の話だろうが。大きくてもせいぜいワイバーンの二倍くらいだよ」
レンタルワイバーンの大きさがだいたい10メートル。となると、結構な脅威だと思われる。だがロバートは口を噤んだ。何を言っても無駄なのはわかっていたからだ。
それから三人は歩き続けたが、メ―シェルがとうとう蹲った。
「もうやだぁ。足の裏痛い~」
「……っち。山脈行くっつうのにヒールなんか履いてくっからだろ!!」
「怒らないでよ! オシャレして何が悪いわけ!?」
「ちょっと二人共。喧嘩している場合じゃないですよ」
ロバートは呆れながら先を指差す。
「見えますか? もうすぐ広い場所に出ます休むならそこで────」
その時だった。地鳴りのような音が三人の耳に届いた。
「……ロバート。お前の腹の音か」
「……だとしたら騒音の苦情が絶えませんよ。これは、唸り声かと」
次に聞こえたのは何かが羽ばたく音だった。
ウェイグが視線を点に向ける。すると突風が吹いた。
全員息を呑む。羽を動かしながら広場に降り立ったのは、紅蓮の鱗を煌かせる巨大なドラゴンだった。
「ば、で、でけぇ……なんだよあれ!?」
「40メートル以上ありませんか……!?」
炭と化した木々の隙間から様子をうかがう。ドラゴンは苦しそうに呼吸をしていた。
「ね、ねぇ。逃げよ! あれ駄目だよ! 絶対に戦えない!」
足の痛みなど気にしている場合ではない。メ―シェルが怯えた目を潤ませながらウェイグとロバートを引っ張る。
「退却しましょう、ウェイグ! このままだと全滅です!」
「……わ、わぁったよ」
ウェイグとて"ランク・ルビー"のガーディアン。ベテランに分類される力の持ち主だ。力量差を考えられないほど無鉄砲なわけではない。
あんなバケモノがいるなんて聞いてねぇぞ、と心の中で愚痴りながら背を向けようとした。
その時だった。
紅蓮の竜が歯を剥き出しにし、黄金に輝く瞳をウェイグたちに向けた。
「ヒッ……」
ウェイグが短い悲鳴を上げた次の瞬間。
ドラゴンが、大口を開け、巨大な右腕を振り上げた。
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