Dessert0.下準備
第1話「漆黒の騎士」
「おい!! 聞いてんのかよ!!」
テーブルの上に拳が叩きつけられ、周囲に音が響き渡る。
脳内に氷水を流し込まれたような感覚だった。恐る恐る、目の前にいる男を見る。金色の短髪に筋肉質な体。鎧の隙間から見える肌は浅黒い。
兜の隙間から見える男の表情は、怒りに満ちていた。
「お前に言ってんだ! 最強の暗黒騎士さんよ! 寝てんのか!?」
ハンドアックスを使って戦う
「本当どういう神経してるわけ? あんたのせいで私たち死にかけたんだけど!」
「だからこの人と組むのは嫌だと私は言ったのに」
目が大きく、茶髪の長い髪が特徴的な
3人の嫌悪感漂う視線は、漆黒の鎧を着た
「ダンジョン入ったらトラップ引っかかって、超強いモンスターに吹っ飛ばされて……! おかげで私のローブ破けたんだけど!」
メーシェルは穴だらけのローブをゾディアックに突き出した。
見た目は上等な布っぽいが、裏地を見れば安物だとわかる代物だった。ぼったくり商品だ。
ことの
3人はいつも
3人はゾディアックがいれば安心だと高を括り、緊張感無く進行した。
結果として、簡単な罠にはまり、装備が貧弱でモンスターには歯が立たず。攻略は最序盤で諦めるという結果に終わった。
「最強のガーディアンなんだろ、あんた」
ウェイグが聞いてきた。ゾディアックは頷く。
「トラップに気づいていたか?」
「……ああ」
「じゃあなんで教えなかったんだよ!?」
「楽しそうに、3人で話をしていたから」
ゾディアックはふぅと息を吐いた。
「邪魔したら、悪いと思って」
「馬鹿にしてんのかてめぇ!!」
ウェイグは拳をテーブルに叩きつけ立ち上がった。
「自分が実力者だからってなぁ、弱い連中のこと下に見てんじゃねぇよ!!」
ゾディアックは
しかし、指示が遅れた自分が悪いのも事実だ。ゾディアックは席を立った。
突然壁が現れたような錯覚に陥ったウェイグは顔を強張らせた。
「な、なんだよ。やんのかてめぇ」
これ以上の問答は無駄だと思ったゾディアックは、腰に装着していた小さな布の袋を取り、テーブルの上に置く。
「……これで直せるだろ」
ゾディアックは早口で言った。
ウェイグが飛びつくように袋をふんだくり、口の紐を解いて中身を確認する。
「けっ。これで許せるかよ」
文句を言いながらも、顔はほくそ笑んでいた。なんとも醜い顔だった。
初めからこうやって金をせびるのが目的だったのかもしれないが、もはやどうでもよかった。ゾディアックは
「もう二度とセントラルに来んじゃねぇぞ、クソ野郎!」
「本当気持ち悪い。何考えてんだろうね、あいつ」
「もうよしましょう。剣を振るしか脳のない馬鹿なんですよ。アレは」
後方から
周囲からも、失笑や呆れの色が混じる視線が注がれる。
なぜ、こんな風に言われなければならないのだろう。
ただ一緒に戦いたかっただけなのに。ただ仲間が、友達が欲しかっただけなのに。
ゾディアックは泣きそうになりながら、その場を後にした。
★★★
「まぁたイジメられとるわ……あいつ」
2階のテーブル席からその様子を見ていたエミーリォ=カトレットは、白髪交じりの髪の毛をかき上げた。
真円型のサングラスをかけなおし、呆れたようなため息をつく。
「あの騎士、ゾディアックでしたか。本当に強いのですか?」
隣に座っていた男は、足を組み直した。
「ああ。あれでもタンザナイトのガーディアンじゃ。我がセントラルの、というよりサフィリア宝城都市の宝よ」
「あんな扱いされてますけど?」
「あいつは性格に難があるからのぉ」
「嫌気がさして、出ていかなければいいですね」
ゾディアックの姿を見ながら男は言った。
「それはないのぉ。あの程度で、ゾディアックが逃げ出すわけがない」
「ほう。それはまたどうして」
「あいつは強い。お主にもいずれわかる。ゾディアック=ヴォルクスの、強さというものがの」
どこか自信に満ち溢れた様子で、エミーリォは力強く言い放った。その強さとやらを信じているかのように。
男は半信半疑の視線を暗黒騎士の背中に向けた。
明るい太陽に照らされる。漆黒の姿。
まるで悪魔のようだと男は思い、口元に笑みを浮かべた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます