第28話「任務完了」

 ウェイグの額には青筋が浮かんでいる。いつも一緒にいる、メーシェルとロバートの姿はなかった。


「おい、てめぇら! 騙されてんじゃねぇぞ! こいつはな、そのガキを餌にしてドラゴンを倒したんだよ!」


 ウェイグはゾディアックを指差して言った。

 周りにいたガーディアン達は苦笑いを浮かべるだけだった。


「ゾディアック! どうせいつも通り、言葉足らずにそのガキとか仲間動かして、ドラゴンの餌にして安全に狩ってただろ! 俺は見てたぜ!?」

「私が餌だったら、もうここにいないよ」

「俺なんて真っ黒焦げになってるな」

「私は逃げてますねー」


 ゾディアック以外の3人が淡々とした口調で言うと、周囲から微かな笑い声があがった。


「おい、クソガキ!! あのドラゴンもお前の仕込みなんじゃねぇのか!? 友人とか言ってたもんな? 村の連中焼いたのも自作自演か?」

「……あなたじゃあるまいし、そんな意味不明なことしないよ」


 先ほどよりも大きな笑い声が上がった。


「いいぞー! 嬢ちゃん!」

「もっと言ってやれ」

「その嘘吐き金髪の髪刈り取っちまえ!!」


 野次まで上がる。ウェイグはわなわなと震えた。


「上等だよ。痛い目見ねぇとわかんねぇか」

「なぁ、ウェイグ!!」


 突然、レミィが大声で呼びかけた。手には、アンバーシェルが握られていた。

 ウェイグが驚いた表情を浮かべ、全員の視線がそちらを向く。


「痛い目見るのは、お前だぜ」


 レミィはアンバーシェルを操作した。




『いやぁ、流石だぜ。ゾディアック。正直見直したわ。たったひとりでこんなドラゴンを倒しちまうなんてよ』




 店内に音声が響き渡り、ウェイグの顔が青ざめた。

 音声は続いている。


「ちょ、ちょっと待て」

寄生職パラサイトって罵るか?』

「う、そ、そんな嘘で」


 レミィはアンバーシェルをひらひらと振って見せた。


『なんとでも言え。隙見せる方が悪いんだよ』


 レミィがふんと鼻を鳴らし、こめかみを指先で叩く。


「ドラゴン殺した相手に喧嘩売るたぁ、……お前、脳味噌足りてないな」

「な、な、な」


 口元が戦慄わなないているウェイグに向かって、ビオレがビシッと指さす。


「隙見せる方が、悪いんだよ」


 ビオレは力強く言った。

 ウェイグは目を血走らせ、バトルアックスを取り出した。


「ぶっ殺してやる!!!」


 その時だった。ベルが素早くウェイグの懐に飛び込み、腰を抱えてウェイグの体を倒す。そして、武器を持つ手を締め上げた。


「て、てめぇ……!?」

「アホだぜ、お前」

「は、離せ!! くそ!!」

「やだね」


 さらに強く締め上げると、ウェイグが痛みで顔を歪めた。


「セントラル内で武器を扱う。重罪ですね~」


 ラズィが近づき、ウェイグの鼻先に杖を突きつけた。


「うるせぇ!! おい、クソ亜人!! 根暗騎士!! いつかぜってぇ殺してやるからな!! 死ね!! クソ共が!! 覚えてやがれぇ!!」


 ビオレは腕を組んで顎を上げる。


「覚えておかない。だって、あなたブサイクだし、好みじゃないもん」


 それを聞いてレミィが、大口を開けて笑った。ウェイグは顔を真っ赤にしたが、それ以上はなにも言わなかった。代わりに、バトルアックスを手放した。

 ベルが拘束を解くと、周囲のガーディアンがウェイグを拘束し始めた。


「あいつの処理は任せな。で、報酬は……」


 カウンターに乗せられたのは、ビオレが持っていた袋だった。


「あっ!」

「中に入っている宝石類もそのままだ。よかったね」

「宝石類だけで1000億ってことか?」


 ベルの問いに頭を振る。


「違う。その価値があるのは、そのだ。エスパシオボックスって言ってな。中がい空間に繋がっていて、物を無尽蔵に入れられる。世界に二つとない希少な魔法道具マジックアイテムなんだよ」


 これがあれば、困らない。父の言葉の意味が分かったビオレは、両手でそれを握りしめ、胸に抱いた。


「ゾディアック。あとでサフィリア含む、各国のセントラルから報酬が振り込まれる。その時に払うよ」

「……ありがとう

「とりあえず、これで任務完了だ。お疲れ様」


 再び、セントラル内が熱気に包まれた。


 映像と音声を撮るというのは、ベルの作戦だった。

 ドラゴン討伐という絶好のネタに、一部のガーディアンがハイエナをするかもしれない。そこでアンバーシェルの録音・録画機能を利用し、相手を嵌めようと考えた。


 作戦を円滑に進めるため、昨日の内にレミィにも連絡をしていた。セントラルのレミィがその動画を出せば、影響力はまるで違う。

 ひとりぼっちのガーディアンより、セントラルで働きながら数多のガーディアンから信頼を得ているレミィの方が、信憑性は増すというものだろう。


 その考えは功を奏した。


「へっ。ざまぁみやがれ。全世界に拡散してやらぁ」


 レミィは怒り心頭らしく、動画を拡散している。これでウェイグは、この国でガーディアンとして働くことはできなくなっただろう。

 ゾディアック個人はここまでする気はなかったが、止める気もなかった。

 

「レミィ、さん」


 レミィがゾディアックを見る。


「ありがとう……あなたは、いい人だ。本当に、助かりました」

「いいよ。お礼なんか。むしろこっちこそありがとうだ。スッキリしたからな」


 はにかむ笑顔を見せると、ゾディアックはふっと笑った。

 するとガーディアンにに囲まれた。話しながらも4人は出口を目指している。


 ゾディアックを見た時、不気味な奴だと思っていた。

 だが実際は、正義の心を持った、強く、そして優しいガーディアンだった。

 まるで自分の理想ともいえるガーディアンではないか。


 レミィは、自分の心が高鳴るのを感じた。ファンにでもなってしまったのだろうか。

 小さく呟き顔を伏せる。

 また明日になったら会えるだろうか。

 レミィは気を引き締めるため、両手で頬を叩いた。

 



★★★




 セントラルを出て、西地区に繋がる橋の上を歩いていると、


「あ、あの」


 ビオレが立ち止まった。


「ありがとうございました。本当に、助かりました」

「……いや」

「……あの、お世話になりました」


 ビオレが頭を上げる。


「これ以上、一緒にいる理由がありません。ご迷惑になると思います。だから、ここで」

「帰る場所は、あるのか?」


 ビオレは唇を噛み、頭を振った。


「だよなぁ。亜人は差別されがちだから、女の子一人じゃ宿も取れねぇぞ」

「私の家は~亜人禁止なんですよね~」

「俺はもう、俺自身が居候だからなぁ」


 二人の視線が向けられ、ゾディアックは頷いた。


「……一つだけ、当てがあるけど、来るかい?」


 ビオレはゾディアックを見つめた。


「きっと、気に入ると思う」


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