第20話 ワークス・ペンウッド
「マウントホーク令嬢方。
ご一緒させてくださいませんか?」
「ええっと……」
「最近編入してきましたアガーム王国のワークス・ペンウッドです」
姉妹のテーブルの近くに幼い容姿の少年が話し掛ける。
「ペンウッド……」
学園は愚かミーティア全域でも姉妹に軽い口調で、話し掛けることが出来る人間などは限られている。
しかし、マナにはその少数の例外の中にペンウッドと言う家名があった記憶がなかった。
「アガーム王国の第3王子と言う方が分かりやすいかと思います。
後継者争いを避けるため成人と同時に家臣籍に降って、ペンウッド侯爵家に婿に入る予定でして……」
「そういうことですか。
婚約者の方は?」
「……後程やって来るはずで。
先に場所を取っておこうと思ったのですが……」
そういう少年に釣られて、姉妹達が見回せばテラスは満席で空きも見当たらない。
「そういうことならどうぞ」
「大変ね~」
「入婿ですからしょうがないっと諦めています。
勝手にやってることですしね……」
達観した表情を浮かべる少年に同情の視線を送りながら、自分達の食事を進める姉妹。
「ワークス様! 何をしておられるのですか!」
それから数分ほど経って、やって来た少女がマウントホーク令嬢姉妹と談笑している様子に大いに困惑する。
自分の婚約者がよりにもよって、大陸東部で最大の規模を誇るファーラシア王国で、最上位の権勢を持つ貴族の跡取り娘と談笑しているのだ。
……困惑しないわけがない。
「やあ! ルビー。
満席で困っていたのでマウントホーク姉妹に相席を頼んだよ!」
軽い調子で声を掛けてきたワークスに驚き、マウントホーク令嬢姉妹にひたすら恐縮する羽目になったのだった。。
数分ほど自己紹介を兼ねた会話を楽しんだ姉妹が去り、それに引っ張られるように疎らになるテラスで、
「殿下、あまり先走らないでください」
「まあそう怒らないで、ルビー。
運良く相席できただろう?」
「それはそうですが……」
ワークス王子は、仮初の婚約者であるルビー・ペンウッド令嬢に小言を受けていた。
「……お前にも迷惑を掛ける」
「……陛下のご命令ですので」
「まったく、あの狸は」
「殿下」
「良いさ。親父のことだ俺が狸呼ばわりしているのだって承知の上だろう」
最初はルビー嬢への気遣いだったが、次第に父親の愚痴へと移行し、ルビーはそれを諫めるもワークスが聞く様子はない。
「幾らマウントホーク家の人間が用心深いからって、侯爵令嬢に婚約者の振りをさせて、油断させるとか本当に頭がおかしいぜ!」
「殿下……」
「ルビーは良いのか?
この作戦が上手くいったらお前は婚約破棄された貴族令嬢だぞ?」
「大丈夫です。
その時は分家から婿でも取って、引きこもりますので」
「……」
穏やかに笑う少女に困った顔で沈黙するワークスだった。
その日の夜。
「……何てね!
上手くいくわけないじゃない!
相手はあのマウントホークよ!
ワークス殿下みたいなお人好しが落とせるはずがないわ!」
「ええ、これでペンウッド家にも王家の血が入りますね。
おめでとうございます。お嬢様」
「ありがとうって、言いたいけどまだ成功した訳じゃないわ!
これからもアシストのふりして妨害していくわよ!」
ペンウッド侯爵家が借り受けた家で高笑いをしている少女とメイド。
「けど、あの子達も可哀想よね。
父親が有名なばかりに皆から注目されて……」
テラスで別れた姉妹を思って、不憫な気持ちになるルビー・ペンウッド。
彼女もまた心優しい少女であった。
ところ変わってアガーム王城では、
「今頃は殿下達がマウントホークの令嬢姉妹と接触してますかね?」
「……だろうな。
ルビー嬢辺りはワークスが婿に来ると高笑いしている頃合いだろう」
「しかし、宜しかったので?」
「ペンウッドに王家の血が入ることか?
構わんよ。
あの家は王国に良く尽くしてくれたが、自己犠牲で割りを食うことも多い。
王家の血を入れて地位を押し上げたかったのだ」
「それでは殿下は……」
「もちろん目的はマウントホーク家との繋がりだが、ダメでも損はないと言うだけさ」
宰相と騎士団長を私的な晩酌に呼んだアガーム8世は穏やかに笑うのだった。
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