第13話 辺境伯夫人のお茶会

 買取り額競争で利益を上げた冒険者ギルドからのまたやってほしいと言う要請を受け流している内に、ユーリスの昇爵が伝わり、マナは辺境伯令嬢となった。

 ミネット王女の派閥ではナンバー2と言う位置に急に祭り上げられてしまったわけだが、マナを排除しようとする者はいなかった。


 元々、ミネット王女の取り巻きは主流派ではない。

 第一王子派や第二王子派の家出身で保険として、王女の元に送られた者や政争に加われないような下級貴族のコネ作りで送られた子女ばかりである。

 そこに来て、ロランドを排除してレンターを王位に着ける上で最大の功労者となったユーリス。

 彼がミネット王女の協力者でもあったことを考えれば、マナに取り入ることのメリットがはっきりと分かる。

 マナに気に入られてその父親に口添えをもらえば、高位貴族への嫁入りや王宮への出仕の道が開ける。

 ミネット王女の派閥でありながら、その影響力と言う意味では、ミネット王女本人よりも大きいかもしれない。

 その状況に危惧を抱いたのは、母であるユーリカ・マウントホーク夫人。

 良識があれば、8歳の少女がちやほやされる環境は好ましくないと思うのは必然で…。

 令嬢を招いて、あまりマナを持ち上げないようにと忠告するためのお茶会を開くのだった。


「ようこそ。

 歓迎いたしますわ」

「本日はお招き下さりありがとうございます」


 歓迎の意を述べるユーリカに応えるのはケニー・アッサム伯爵令嬢。

 西部閥アッサム伯爵家の令嬢である彼女は、ミネット王女派閥の元ナンバー2であった。

 心中としては複雑だろうが、そんな様子は微塵もみせずに茶会へ望んだ。

 元平民の成り上がりと言えど、今では並ぶことのない大貴族の正妻である。

 対して、アッサム家は近隣子爵家の攻撃を受け、今回の王都解放戦で主だった活躍を示せずに、爵位を上げることを出来なかった家であり、ケニーに至っては同格以下の家に嫁ぐことになるであろう立場だった。

 相手の機嫌を損なえば、自分の地位が吹っ飛びかねないと自覚のある彼女がへりくだるのもやむを得ない。


「それで今回のご用件は?」

「ええ、ケニーさんに頼みごとがありまして…」


 頼みごとと言っても互いの立場を考えれば命令に等しいのだが、


「頼みごとですか?」

「はい。

 あまり娘を甘やかさないようにしていただきたいと思いまして、これまで身分などの柵もなかった娘が急に高位貴族の仲間入りでしょ?

 増長するようなら叱りつけてやってほしいのです」

「それは…」


 ケニーは背中に滝のような冷や汗を感じながら、口ごもる。

 口煩く辺境伯令嬢を注意する自分を周囲がどう見るか。

 堅物扱いならマシな方で、場合によっては醜い嫉妬と捉えかねない。

 絶対にやりたくないのだが、相手は辺境伯夫人。

 その不評を買えば自分の未来は絶望的だった。


「娘にはあなたを姉のように慕うように言い聞かせますが、聞いては下さいませんか?」

「……分かりました。

 お引き受けします」


 マナの教育係のような立場になるなら、むしろ受けた方が良いと判断して承諾する。

 そういう立場になれば、マウントホーク辺境伯家と結び付きを持ちたい高位貴族との婚姻も夢ではなくなるので…。


「ありがとうございます。

 ミネット王女殿下にもお伝えしておきますので…」

「……」


 それを聞いて、ケニーの背中に再び冷や汗が吹き出る。

 それはつまり王女殿下を押し退ける行為ではないかと言う不安から…。


「あの、私は姫様を裏切るつもりではなくですね!」

「ええ、年下の娘に年長者として忠告してくださるだけでしょう?」


 ユーリカもミネット王女の取り巻きを引き抜く気はないので、あくまで友人としてであると念を押す。

 マウントホーク領が開発を始めれば、自分もここを離れるので、それまでにマナの守りをしっかりしたいと言う意図もあるのだった。

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