第12話 ダンジョン荒らし

 2組の姉妹は『緑の楽園』20層を越えて、魔物を狩り、採取物を根こそぎ収集して回った。

 その勢いは凄まじく、1年分に匹敵する収集物がギルドに納められたのだが……。

 やり過ぎた。

 より希少な物や強力な魔物を狩って周り、それらをギルドに買い取らせて査定額で決着を付ける方針を定めたマナはそれが物語の演出であり、実力差が拮抗している場合にすべきでないと理解出来ていなかった。

 …まあ、実力差があってもお勧めしないのだが。


 希少なアイテムを大量に入荷出来た冒険者ギルドは大喜びだったがそこに資金が流れたため、下位互換に過ぎない楽園浅層のアイテム納品で日銭を稼ぐ下位の冒険者達が困窮することになる。

 そして魔物が少なく、採取物が多い『緑の楽園』の浅層で活動する冒険者と言うのは、大半が初心者で街の商人ともコネが出来ていない。

 更に採取物の大半は食べ物であるので保存も効かず…、結果的に買い叩かれる形になるのを覚悟してギルドに安く下ろすしかなかった。

 その恨みをかった『フォックステイル』は、ダンジョン荒らしの異名を付けられる。


 しかし、悪いことばかりでもなかった。

 困窮した初心者達が早くからダンジョン外の仕事に目を向け出して、優秀な冒険者が多く出る世代となったのだ。

 その影には埋もれた者達も多く存在するが…。


 …冒険者パーティ『エルディアス』もその1つだった。

 小国群の村から出てきた幼馴染みで結成したその初心者パーティは、『緑の楽園』での収入が減り、宿代にも困ることになる。

 かといって、他のダンジョンは彼らにはレベルが高過ぎて手が出ない。

 親しくなった受付嬢は親切心から、


「『フォックステイル』が持ち込んだ物が捌けて、半年後くらいには買い取り額も戻ってくるわよ」


 と教えてくれたが、それを待っていては揃って飢え死にである。

 

「他のダンジョンは危ないし、近くの村からワイルドベア討伐の依頼が来ているけど、どう?」


 受付嬢は討伐任務があることを紹介する。

 ワイルドベアは、素人には厳しい大型の熊であるが、それなりに魔物と戦っているはずの彼らなら十分倒せる相手だと推測した。

 この手の依頼は冒険者ギルドにとっては悩みの種なのだ。

 動物である彼らは討伐報酬も安く、討伐で得られる毛皮や肉も大した額にはならないが、下手な魔物より強い。

 自然と冒険者は倦厭していつまでも残り続ける。

 それを退治してほしいと初心者達を誘導したのだ。

 ここに親切なベテランが1人でもいれば良かったのだが、田舎から出てきて都会の連中にバカにされたくないと自分達だけでやってきた『エルディアス』に忠告してくれる相手はいなかった。

 ワイルドベアを退治に行くくらいなら、楽園の5層を突破して、魔石をドロップする魔物を狙った方がマシだったのだが、結局彼らはこの依頼を受けるのだった。


 その村は旧ツリーベル邸を越えて3日ほどの距離にあると聞いた彼らが出立したそのすぐあとに豪華な馬車とすれ違った。

 いつかあんな馬車に乗れる身分になって、自分達を追い出した村の連中を見返してやると決意を固めて間道を進む。

 男女3人づつで構成された『エルディアス』は畑仕事も手伝わずに、冒険者ごっこを繰り返していた悪ガキ達が結成したパーティだった。

 『剣聖ベインの冒険』に憧れて、貴族になった自分や王子様に見初められた自分を想像していた彼らは、その夢を拗らせたままに村を出たのだが、ミーティアに辿り着くまでの苦労から、いつしか自分達を追い出された被害者と思うようになっていたのだった。


 そんな彼らが小川に掛かる橋に差し掛かった時。

 彼らを囲うように狼が草影から飛び出す。

 橋の上で囲まれた彼らは動揺のままに戦うことを余儀なくされた。

 これがゴブリンのような雑魚ならどうにか切り抜けられただろう。

 …少女の1人でも置き去りにすれば。

 しかし、少年達にとって不幸なことに腹を空かせた狼に囮は通じない。

 だが、少女達にとっては幸運なことに陵辱の憂き目をみることもなく、また苦しむこともなく喉を直ぐ様掻き切られて絶命出来たのだった。

 結局、2体ほどの狼を道連れに冒険者パーティ『エルディアス』は消滅するのだった。

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