第16話 再会と初顔合わせ
ユーリスが『狼王の平原』を解放してからのマナは、これまで以上にダンジョン探索に傾注していた。
彼女の周囲は、街でも学園でも自分を売り込みに来た人間が幾重もの輪を作り、ダンジョン内が1番落ち着ける空間となっていたのだ。
そのため、外せない用事の時しか学園には通わないのだが、それで余計に売り込みが白熱することに繋がり、更にダンジョンに潜ると言う悪循環に陥っていた。
最近は学園内ではアッサム伯爵令嬢のケニーに同行してもらうようにしているが、今度はそちらにもターゲットが移ったようでそれも申し訳なさに繋がっている。
肝心のケニーは、マナ目当てで近付いてきたとある国の伯爵子息と急速に仲を深めているのだが…。
そんな億劫な学園生活を送っているマナの元に母ユーリカが訪れたのは、ファーラシアの東部と南部の間で争いが起こったと伝わってしばらくしてからだった。
「マナ! 久し振りね!」
ダンジョン探索から帰ってきたばかりの泥だらけのマナを気にすることもなく抱き締めるユーリカ。
「ママ!」
マナは久し振りの母の温もりに、何も言えなくなってしまう。
小学生の少女が親元を離れて、従者達とだけ暮らしているのだからそれも当然だろう。
学園にはマナより幼い子供なのに寮で独り暮らしをしている者も多くいるが、彼らは下級貴族家の跡取りでない立場の者で、将来を考えれば寂しいと思う余裕すらない者が大半である。
小さな頃から自立精神が旺盛な彼らとこれまで普通の家庭で育ってきたマナを比べるべきではない。
「大丈夫? 寂しくない?」
「寂しくは、……ないこともないけど」
「そうよね…。
マナちゃんに紹介したい子がいるの」
「え?」
そこでマナの脳裏に浮かんだのは、ベックの娘で行方不明中のジュディの顔。
もしかしてっと思ったのだが、現れたのは水色の髪の少女。
「初めまして~ お姉様~」
そう言いながら、ぎゅっと抱き付く少女に困惑顔のマナ。
助けを求めるように母をみれば、
「ユーリスがね。
特殊能力で生み出した子供なのよ。
つまり、マナの妹」
「ええ?!」
「レナ・マウントホークで~す~。
仲良くしてください~。お姉様」
肩を竦めて非常識な回答を出し、更に驚くマナを置き去りにして、自己紹介を続けるレナ。
「……お茶でもしながら話しましょう。
マナは先にお風呂に入りなさい」
「そうしましょ~。それじゃあ行きましょ~か。お姉様」
そう言ってマナを連れ去るレナ。
おっとり口調ながら超強引な妹は、自分より大きな姉をお姫様抱っこで拐っていった。
…マナの黒歴史に初お姫様抱っこが妹と刻まれた瞬間だった。
「ママ!
どういうことか説明して!」
いつも鷹揚なマナが珍しく険しい剣幕で迫ってくる。
レナが何かやらかしたのねっと辺りを付けたユーリカは、まあまあとマナを宥めながら、情報を聞き出すことにする。
「私を簡単に持ち上げたのもビックリだけど、あの子お風呂に入ったら竜になったんだけど!」
「…そう。
気を抜くとすぐに人化を解く癖は直さないとダメね」
「そうじゃなくて!」
「冗談よ。
あの子はユーリスの竜の特性とある程度の記憶を受け継いで生まれてきた竜の子供なの」
「パパの?
そう。だからマナが大好きなのよ。
仲良くしてあげて?」
「……」
未だにレナの立ち位置が分からないマナだが、若干のトーンダウンをする。
「ユーリスが生命の属性を持つ竜になったでしょ?
そのせいで周囲の精霊力と自分の力をまとめて新しい竜を生み出す能力に目覚めたのよ。
あの子は水の精霊から生まれた水竜で生後2ヶ月くらいの赤ちゃんなのよ」
既にオーガ上位種なら一撃で葬れる恐ろしい2ヶ月児である。
「…どうしたら」
「妹として接してあげれば良いわ。
あの子は無条件にマナを慕ってくれる。
あなたは姉としてあの子を慈しんであげれば良い」
「…考えてみる」
「ゆっくりで良いわ。
これからずっと一緒なんだから」
「え?」
「レナはここに置いていくの。仲良くしてね」
「ええ!」
唐突な話に抗議の声を挙げるマナ。
いきなり初見の妹と一緒に暮らせではそれも無理ない。
「マナのためなの。
よく漫画とかでもあったでしょ? 望まない政略結婚とか」
「まさかパパが!」
「プッ、フフフ!」
戦慄するマナについ笑い出すユーリカ。
「ママ?」
「ごめんなさい。
娘にそんな風に思われてたと知ったユーリスを想像してね。
そんなことはしないわよ。
マナの思いが最優先。
だけどね、嫁入り前の娘の安全を考えると真竜のレナが一緒にいた方が私達は安心なの。
…分かる?」
「……」
親心と言われて黙るしかないマナであるが、一兵卒100人に匹敵するであろう上位幻獣の狐姉妹に本人も勇者並みの戦闘力持ちである。
軍隊でも連れてこなければ、対抗出来ないだろう3人組に真竜1体と上位精霊族2体を追加するのはさすがに過剰戦力だが、あいにくと突っ込みをいれる人間もいなかった。
「そう言えばレナは?」
「もう少し温泉に浸かっていくって言ってたけど…」
「……」
「……」
母子は眠って湯船を揺蕩う真竜種を懸命に引き上げる羽目になるのだった。
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