第17話 最恐の姉妹

「アクア~ウォ~~ル~」


 ダンジョンにのんびりと間延びした声が響き、周辺のフロアを水没させる。…そこに住まう悪魔ごと。


「それから~~。

 ディ~プ~シ~コンプレッシャ~~」


 更に声が続くと、水没した悪魔達は尽く空き缶を潰したように歪み黒い煙となって、水に溶け込む。


「後は~。

 回収だけ~」


 水が引いたダンジョンにはマナとレナにそれぞれの従者が残り、その目の前には大量のドロップアイテムと中空に浮く真っ黒な水球だけとなった。


「これを~、2秒のタイムラグで~同時に展開するのが私の必殺技『冥~妃の~抱~擁~』」

「…すごい」

「私~、すごい?」


 マナの呟きを拾ったレナが、袖をクイクイと引っ張る。


「……どうしたの?」

「妹がすごいことをしました~。

 マナ姉様は~、私を誉めるべきだと思います~。

 具体的には~、ナデナデを所望します~、抱擁もあるとなお嬉しいです~」

「く、くぁわいい!」


 自分より小さな子に上目遣いで求められたマナが力一杯にレナを抱き締める。

 レナの攻勢に陥落したマナは、当初の困惑が嘘のように猫可愛がりしていた。


「…あの、レナ様?

 この球体は一体何でしょうか?」


 そんな姉妹の戯れに遠慮がちに尋ねる水賢。

 視線の先には、長い年月を生きるアクアディネでも理解しがたい代物が浮かんでいた。


「経験値の~濃縮ぅ~100%ジュース?」

「「「「……」」」」


 出来れば違ってほしいと思いつつ、尋ねた水賢の希望はレナののんびりとした返答でむなしく砕けた。


「美味しくなさそう……」


 沈黙している従者達を気にせずにマナが言う。

 経験の浅いマナには目の前のそれが非常識の塊と判断するだけの知識がないのだ。

 純粋にジュースと言うには不味そうだと言う感想が出る。


「美味しくは~。ないよ~。

 けど~、手で触ると~」

「触ると?」


 問い掛けながら、触ってしまうマナ。

 アニメに親しんだ世代の少女が持つ好奇心は警戒心

では抑えきれなかった。

 マナが触れた瞬間。カッ! と白い発光が周囲を照らす。


「あれ~~?

 全ての経験値を吸収出来るから~、大幅な~レベルアップはすると思ったけど~?」


 そう言ってもう片方の黒い球体に手を伸ばすレナ。

 彼女が触れた球体は、特に激しい反応もみせずに透明な水球へ戻る。


「マナ姉様~?

 浄化系の能力あります~?」

「一応、ユニークスキルなら……」

「多分~。

 経験値の中に~、残っていた邪悪な力を~、姉様の浄化スキルが~、浄化した~?」

「問題はないの?」


 のんびりとしたレナに不安そうなマナが問うが、


「ないよ~?

 けど、浄化系の能力がない人には勧められないレベルアップだね~?」


 あっけらかんと笑うだけだった。


「そうなんだ……。

 じゃあ、レナを信じるとして、このまま下の階層のフロアボスに挑みましょう?」

「良いよ~」

「お待ちください!

 この下の、っと言うことは、25層ですよ?

 当初の予定を大幅にオーバーしての探索ですので!」

「ん。

 やめるべき」


 無茶な進行をしようとする姉妹に慌てて春音が止めに入り、秋音も続く。


「けど、レナに私がすごいってところも……」

「十分見せました。

 何処の世界にレッサーデーモンとは言え、悪魔種をファイヤーボールで焼き尽くす8歳児がいるのですか!」

「けど!」

「主様が心配しますよ?」

「……」


 幾らマナでも父親を出されては、分が悪く。


「一旦引き返しましょう」

「……はあい」


 春音の言葉に素直に従うしかないのだった。

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