第18話 祝勝パーティー

 ミネット王女が王都に戻ることが決まり、それに同行して王都に来るように要請されたマウントホーク姉妹は自身の侍女達を引き連れて、ラーセンに向かい、初めて訪れるマウントホーク王都別邸で両親と再会。

 3日後の祝勝パーティーに臨むことになった。


 祝勝パーティー入場は最後尾と言うことで、同じタイミングとなった侯爵位の子女と流行の服飾やお菓子の話題で盛り上がり、そのまま子供組の集まりへと参加することになった。

 子供組は、社交界にデビューしていない14歳以下の子女の集まりであるため、大人達のような権謀術数取り巻くパーティーとはなっていないが、逆に普段から我が儘放題の貴族の子供が集まる状況に喧々囂々と騒がしかった。

 特に今回は、南部の伝統貴族没落と武功を稼いだ軍人閥台頭により、顔触れの半分近くが代わることになったのでなおのこと騒がしい。

 彼らはここで旧知の知人の安否と、新たな知己を得るのに必死だからだ。

 それに対して、


「すごい賑やかね……」

「そうですね~」


 呑気な姉妹は周囲の剣幕に気圧けおされていた。

 彼女達はこのような場でわざわざコネ作りをしなければならないほど困ってはいないので、誰かに話しかけようとはしない。

 かといって、周囲の子供達の大半は格下なために話し掛けにも行けない。

 頼みの綱となる侯爵家の令息や令嬢は、自分の派閥の挨拶回りに忙しいのでこの状況はしばらく続く、……と思われたが、


「見ない顔だな。

 血生臭い軍人の子供か?」


 1人の少年が姉妹に声を掛けてきた。

 少年の名はラバート・ロッション。

 ……西部閥ロッション伯爵家の嫡子だった。

 その様子を伺っていた周囲の子供達は、ヒソヒソと小声で囁き合う。

 ロッション伯爵家は、西部国境近辺に領地を持つ上位の貴族であるが、嫡子ラバートについてはあまりいい噂を聞かない家だ。

 そんな当事者がよりにもよって、マウントホーク家の子女に話し掛ける。

 その呼び掛けも噂に違わぬ愚かな出だしで……。


「「……」」

「どうした?

 伯爵家嫡男であるこの私の問いに答えぬのか?」


 ラバートの頭の中では、これまで会ったことのない子女=先の内乱で戦功を立てた成り上がりの下級貴族と言う図式が出来上がっており、それなら多少雑に扱っても問題ないだろうと言う打算が働く。

 普通なら止めに入る寄子や家臣の子供がいるものだが、国境警備の任を持つロッション伯爵家の旗下にいる者は、王都の事情に明るくない。


「……まずは名乗るべきじゃないかしら?」


 隣で様子を伺っていたルーネ・ジンバルが口を挟む。

 ジンバル宰相の孫に当たる少女だが、嫡子の子供ではないので、格と言う点ではラバートと対して変わらないのでやんわりとした注意に留める。


「ルーネ嬢か。

 ……それもそうだな。

 さあ名乗るが良い」


 何でそうなる!!


 周囲の人間のほとんどは内心をその突っ込みで一致させていることだろう。

 初対面であれば、爵位に関係なく話し掛けた方から名乗るのが礼儀であるし、相手の位を知らぬままにそう命じると言う点で傲慢のレッテルを貼られることになる。


「ラバート殿。

 王都では話し掛けた方から名乗るのが礼儀と言うものだけど、辺境では違うのかしら?」


 先ほど注意に入ったがために、抜け出せなくなったルーネが、改めて忠告する。

 先に比べて皮肉の色が濃いが……。


「何を言う!

 何を置いても格下が名乗るべきだろうが!」

「……」


 あまりの暴論に絶句するルーネであった。

 それで自分が格下だった時にはどうするのかと言う問題だ。

 この少年の意見は、周囲が平民しかいない環境でないと通用しない。

 そもそも貴族間であれば、仮に相手が男爵であろうと、王家から信任を受けた同格の家臣なのだ。

 それをあからさまな格下扱いすれば、王家を軽んじることに繋がる。


「では君から名乗るべきだね?」

「何を!」


 様子見をしていた少年が前に出てくる。

 優しげながら、強いプレッシャーを持つ声に反発したラバートだったが、


「僕も君の言動を先ほどから見ていたが、ファーラシア内の争いと干渉する気もなかった」

「……」


 続く外国の貴族であることを匂わせる発言に沈黙するしかない。

 ここで彼を怒らせれば、自身の廃嫡すらあり得ると思ったのだ。


「しかしあまりに目に余る社交界に出たばかりの女性にそのような態度は感心しないし、レディ。

 今宵はこのアレキウス・ジンバットをあなたの騎士としてお使いください」

「……キザな奴」


 何を言ってる!!


 今度は、ラバートを含む大半が内心でそう突っ込む。

 沈黙するラバートを放置して、キザったらしくマナの手を取る少年の仕草に静まる周囲。

 そこに低く響き渡るレナの声への突っ込みだった。


「これは本心からの行動ですよ?

 キザと言うのは少し心外ですね?」

「そ~お~?

 こんな小物を~利用~して、姉様の好感を~稼ご~とする~雑魚王子には~お似合いでしょ~?」


 ニコニコと笑いながら、話し掛けてくるアレキウスに、更に辛辣に返すレナ。

 挙げ句に雑魚王子呼ばわり……。

 周囲の子供達は悲鳴を挙げて、親元へ遁走したい気持ちに耐えながら、様子を伺う。

 場合によってはこれが新たな戦争の引き金になりかねないから必死だ。


「私の身分を知りながらその態度は驚きだよ」

「それで~?」

「……今日はただの顔見せだよ?

 近々僕もミーティアに行くから、その時は仲良くしてほしい」

「……良いですよ?

 姉様も良いですか?」

「よく分からないけど……。

 レナが良いなら大丈夫なんだと思うし……」

「それでは改めて、ジンバット王国第6位王弟子息アレキウス・ジンバットです。

 よろしくお願いしますね?」

「王弟子息……。

 王子には違いないけど……。

 姉様~。姉様が~先ですよ~?」


 アレキウスの自己紹介に苦々しい顔をしたのも一瞬、直ぐ様いつもののんびり顔で姉を促すレナ。


「ええっと……。

 マウントホーク辺境伯家嫡女マナ・マウントホークです。

 こちらこそよろしくお願いします」

「妹で~、イマーマ太守レナ・マウントホークで~す~。

 よろしくしなくて良いですよ~?」


 急な振りに困惑しながらも、普通の挨拶をする姉と見事な態度ながら喧嘩腰に挨拶をする妹。

 嫌でも印象に残るそれは、自己紹介と言う意味では完璧かも知れず、


「ハガッ!!」

「だから言ったのよ……」


 遅まきながら格上に喧嘩を売ったと理解したラバート子息とそれに呆れるルーネもまた強く印象を残すことになった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る