第19話 マナとレナ
鷹山真奈美がマウントホーク辺境伯令嬢となって6年。
彼女を取り巻く環境は強烈に変化していた。
朝、学園に登校すれば、
「「「おはようございます! マナお姉様! レナお姉様!」」」
近くにいた少女達が一斉に声を掛けてくる。
その少女達の半分以上がマナ本人より歳上だと言うのが笑えない。
「……お、おはよう」
「おはよ~う」
ひきつった顔で挨拶を返すのが精一杯のマナに対して、ごく普通な感じのレナ。
マナにはその図太い神経が羨ましかった。
「何でレナは平然としていられるのよ?」
「ええ~?
私達を~、姉と慕ってくれているだけだよ~?」
教室に向かう道すがら、人の流れが切れた所で妹に問うマナであったが、レナは本当に分からないと首をかしげる。
「それがおかしいでしょ!
私達の方が年下なんだけど!」
「大半の娘は~、子爵や男爵家の娘達でしょ~?
マウントホーク家の庇護下に入りたいのよ~」
「知ってるわよ!
それでも納得いかないの!」
「良いんじゃないの~?
マウントホーク派閥が出来上がっているだけだよ~?」
「じゃああなたがやりなさいよ!」
「無理~。
私は~、次期当主じゃなくて~、イマーマ太守だもの~」
「ぐぬぬ!」
「笑顔笑顔」
「ふん!」
至極当然と返すレナに苦い表情を指摘されたマナは鼻をならして教室に向かう。
「おや? ご機嫌斜めですね?」
そんなマナに話し掛けてきたのは、線の細い柔らかな笑顔の少年。
彼はマーキル王国王子アレキウス。
マナが8歳のパーティーで出会って以来の友人である。
「別に不機嫌ではございませんわ!
レナの言い分が真面目すぎて面白くないだけでしてよ……」
「レナ嬢は姉上が心配なのでしょう?
そう邪険になさらずに……」
「邪険に何てしていませんわよ!」
「アレキウス様~?
私達姉妹の仲を引き裂くような真似をするなら、ジンバット王国を洪水が襲いましてよ~?」
直情的に怒るマナに対して、仮面のような笑顔を形作りながら、射抜くような視線を向けるレナ。
大好きな姉との仲を拗らせるような発現を受けた彼女の怒りは……深い。
「いや! 2人へのフォローだから!
仲良くやっていってほしいと思っているから!」
「……なら良いですけど」
レナの怒りを向けられたアレキウスは慌てて、それを解く。
冗談ではなかった。
軽く話しかけただけなのに、危うくジンバット王国を滅ぼした愚かな王子になる所だったと、澄ました顔の下でバクバク言っている心臓を宥める。
彼に初めて姉妹と会った時のような余裕はない。
何故ならレナ・マウントホークには実際にそれをやるだけの実力があると知っているから。
アレキウスは、数年前に近くの森で発生したオーガの
「……それで?
朝から何をじゃれ合っていたんです?」
2人の反応からこちらが正解かな? と当たりを付けて問う。
「……レナが派閥をまとめなさいと言ったのでしてよ」
「無理って答えたわ~」
「……」
アレキウスの質問にばつが悪そうな顔で答えるマナ。
それを聞いたアレキウスは、笑顔のままにピシッと固まるしかない。
100%レナの言うことが正しいが、下手にレナの言い分に賛同を示せば、マナを貶めることになる。
かといって、マナを助ける真似は王族として出来ない。
固まって沈黙することを選ぶアレキウスだが、それを許す妹様ではない。
『姉様を傷つけたら許さん!』
と言う強烈な視線の圧力を向ける。
そんな無茶なと嘆きたいアレキウスではあるが、あの状況の姉妹に迂闊に話しかけた自業自得だろう。
「まあ、ここは聞かなかったことにしましょう……。
皆もそれで良いかい?」
賢明な少年はそう言って周囲を見回し、貴族としては弱小でしかない少女達も必死にコクコクと頷く。
彼女達にはここで下手を打てば、実家ごと生け贄にされかねないと言う恐怖があった。
「ありがとうございます」
「そうですね~」
ニッコリと笑うマナに、毒気を抜かれた表情で同意するレナ。
問題が解決したマナが、遅れちゃまずいとレナを促し、去っていく。
しかし、
「……上手く点を稼いだと思うなよ?」
すれ違い様に普段からは想像出来ないような低い呟きを残すレナに、ダラダラと冷や汗が止まらないアレキウスが残るのだった。
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