第24話 父を訪ねて三千里 1歩目

 ミーティアからルネイを経由して、アタンタルへ到着した馬車は、アタンタルの領主館にて、搭乗者達を降ろし北へ戻っていく。

 領主館で降ろされた一行は、アタンタルの管理をしている代官のパズルの元へ。


「お待ちしておりました。

 お嬢様方」

「えっと……。

 一晩よろしくお願いします」


 歓迎の意を示す初老の代官は、元某国の国王であったとは思えないほど、丁寧なお辞儀で姉妹を招き入れる。

 他の家族とは異なり、このパズルだけは旧マーキル王族としての記憶を残されていると聞いたのだが?


「もちろん、歓迎いたしますぞ!

 今宵は、周辺の管理官達にも声を掛けての夜会を準備させていただきますので、それまでごゆるりとお過ごしください」

「はい。

 あの……。パズル様は父に思うところは……」


 大歓迎とばかりに笑顔の元マーキル王に、何故そこまでと言う疑問をぶつけるのを我慢できないマナ。


「……ありませんな。

 マーキルは、遅かれ早かれ衰退の道しか残されていなかったのです。

 それが生き返った。

 故郷の恩人に、思うところは……。

 ……いえ、悔しいと言う思いだけは間違いなくあるのですけどね?」

「……」


 遠い目をして呟く姿から、蟠りを自分なりに消化したらしいと悟るマナ。

 それ以上の声を掛ける気にはなれない。

 僅か数年で小村の長から、マウントホーク領第二の都市をまとめる代官に登り詰めた手腕は、間違いなく優秀。

 元国王であったとは言え、ライバルとなる者達も旧サザーラント帝を筆頭にした顔ぶれであり、マウントホーク家の家宰シュールとしても、身内故に厳しい目を向けざるをえなかった状況で、この地位に立ったのだ。

 しかし、優秀であるが故に、自身の能力で故郷を発展出来なかったことを悔やむ。


「金策下手の爺のざれ言でございますので、どうぞお聞き流しください」


 そう言って笑うパズルに、気遣われたことを察せない姉妹ではない。


「お姉様~、部屋に向かいませんか~?」

「おお!

 そうですな!

 お二方のお部屋はいつも通りご使用頂けますぞ。

 どうぞこちらに……」


 まず、レナが口火を切って空気を変える。

 それに合わせるように、パズルが先導するよう屋敷の奥へ足を向ける。


「ありがとう。

 レナ、行きましょう」

「そうですね~」


 それに従うマナ達。

 普通に考えれば、代官であるパズルが、次期当主とは言え、マナ達を部屋に案内する必要はない。

 そこらのメイドに声を掛けるだけで良いはずではある。

 だが、それに待ったを掛ける人間もいない。

 アタンタルに勤める者達は、パズルの詳しい素性こそ知らないが、彼が先王妃の親族枠であると知っており、パズルがマナ達と親しくすることが、国へ良い影響をもたらすと理解しているのだ。


「しかし、驚きましたぞ?

 いきなりのご帰省で、しかもアタンタル方面からとは……」

「まあ、色々とね……」

「いえ、特段の他意もございませんよ。

 この地も間違いなく、将来お嬢様の領地となる街でございます。

 今後もご利用いただけますれば幸いかと思ったまででして」


 言葉を濁したマナへ、即座にフォローを入れるパズル。

 しかも、アタンタルへもっと来てほしいとさりげない願いを加えさえもする。


「そうですね~。

 ルネイからアタンタル、ドラグネアの街道が充実する方を優先するのが領主としても正しい姿ですものね~」


 そこにレナが、マナの立場を強調することで、これまであまり使ってこなかった、アタンタル経由の不自然さを打ち消す。

 人が移動すれば、消費や需要が発生する。

 特に高位貴族となれば、その道中は軽いお祭り並みの特需。

 ならば、他貴族の領地より自領を優先するべきと言うのも正しいのであった。


「……そうよね。

 出来るだけこのルートの優先度を上げられるように動くべきよね」


 その事実を自覚したマナが反省の色を浮かべるが、


「い~え~、目的地が同じならと言う話ですよ~?

 ラーセンに行くのに~、遠回りするようでは~、逆に勿体ないですから~」

「その通りでございますな。

 時間が掛かれば、その分御家の貯蓄を削るのです。

 そうなれば、皺寄せは民衆へ向かいますからな」


 妹の発言に、パズルが重々しく同意する。

 さ貧乏国家であったマーキルを運営していただけに、浪費によってもたらされる被害を、直ぐ様考えられる点はさすがと言うべきだろうか……。


「……そうね」


 納得の顔になったマナとそれに安堵する老代官とレナに従い、滞在する部屋に向かう一同。

 その様子に、周囲で働く侍従達が安堵を浮かべたことはマナ達が知ることもないのだろう。

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