第14話 父の頼みとマナの野心

 辺境伯と言う地位を得た父ユーリス・マウントホークからたくさん友達をフォックステイルへ連れてきて欲しいと頼まれたが、既に達成済みだと安請け合いした。

 何せ、フォックステイルはこの街で1番の賑わいをみせている。

 その理由がユーリスが持ち込んだ貴重なアイテムや冒険者の方の『フォックステイル』の影響なのは間違いない。

 ユーリスの


『友達を店に誘って欲しい』


 と言う頼みに対して、


『ダンジョンに潜ってアイテムを手にいれて欲しい』


 と言う曲解が成立すると考えることも出来るはずと言うのがマナの言い分である。

 そんな無茶苦茶なマナの言い分を護衛役の春音秋音姉妹も受け入れてしまった。

 齟齬の原因は、『フォックステイル』の繁盛具合を確認せずにマナへ依頼したユーリスが悪いのだが、霊狐達も無駄を嫌う主が無意味な頼みをするはずないと言う信頼で目を曇らせていた。

 核心犯でダンジョン攻略を狙うマナ。

 ユーリスが令嬢としてのマナーや教養を期待して入れた学園で、マナは貴族としての詭弁などを身に付けていたのだが、それもまたユーリスの失敗である。


 主流派でない貴族令嬢達に必要なのは、礼儀作法ではなく相手をやり込めるだけの頭の回転である。

 一目置かれるほどになれば、パートナーとして家を切り盛りする立場に付けるかもしれないが、見た目が良くて礼儀正しい人形など、飾りとして利用される運命が待っているだけだ。


 と話は戻して、マナは冒険者ギルドに依頼を探し来た。

 ダンジョン攻略と言う目標を止められる可能性を持つのが両親だけである以上は、彼らの監視が緩むまでは『ローラッドに憧れる子供』として、彼がやっていた物語をなぞるような行動が良いと理解しているのだ。

 末恐ろしいお子様だが、全ての行動には責任が伴うと言うユーリスの薫陶を受け、ミネット王女を始めとする貴族達の権謀術数の中を渡り歩く令嬢の教えが彼女の中で結実した成果でもある。

 そんな彼女の目には、


『村を襲うワイルドベア討伐の依頼』


 が映ったが、


「こちらは既に受注されていますので、無駄足に終わる可能性が高いですよ?」


 と受付嬢に止められるのだった。

 本来なら冒険者ギルドの受付嬢もこんな助言は言わない。

 ダブルブッキング等の情報を調べるのも冒険者達の自己責任だし、競い合うことで依頼が早く片付けばそれだけ冒険者ギルドの評判が上がることにも繋がるから。

 しかし、相手はアイテム納品のメインルートを担っている『フォックステイル』の雇い主で迷宮攻略者ユーリス・マウントホークの娘である。

 下手な依頼で怪我でもされたらかなわないので、受付嬢の対応も懇切丁寧になるのだった。

 しかし、


「おいおい。

 依頼を受けたい初心者か?

 俺達が懇切丁寧に教えてやっても良いぜ!」


 受付嬢の様子をめざとく見ていた素行の悪い冒険者に目を付けられる結果とな、


「ロップス!

 冒険者ギルド内での諍いはご法度だ!

 ちょっとこい!」


 …らなかった。

 受付に来ていた副ギルド長がその冒険者を引っ張って行ったのだ。


「じゃあやめておきます」

「お嬢様!

 冬姉さんがパンケーキの新しい味を作ると言っていましたので元気出してください」

「…ん。

 元気出して…」


 そして、そんな冒険者を後目にマナは冒険者ギルドを出ていく。

 彼女の目的はローラッドに憧れる振りをして、両親にダンジョン攻略を目指している事実を悟らせないことにあるので、受けられないことは問題なかった。

 対して、依頼が受けられなかったとショックを受けている。っと勘違いしている姉妹は元気付けようと話し掛けてくるのだった。

 罪悪感で申し訳なくなるマナに対して、更に元気付ける姉妹。

 それで更にっと悪循環に陥ってる3人が傍目には楽しそうな中、間の悪いロップスはマナへ絡んだことから始まって普段の素行に飛び火。

 半日以上の説教タイムを受けることになるのだった…。

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