第7話 ダンジョン実習

 マナが王女と共にハーミットクラブに入会して、すぐ1階生による合同ダンジョン実習が行われる。

 指導役の上級生と共に学園が訓練用に専有しているダンジョン『水遊び』の1階層を軽く回って帰ってくるオリエンテーションだ。

 ここでも、ミネットとクチダーケによる舌戦が繰り広げられたが、勝者は関係のないハーミットクラブの会員となった。

 ファーラシアとアガームは共に大国であり、それなりの貴族が毎年入学してくる。

 今年も伯爵家の子が何人かいるので、そちらを優先するしかなかったのだ。

 結果、


「ファーラシアのゼイル男爵子息、エレル・ゼイルだ。

 私が付き添ってやることを有り難がるが良い」


 とファーラシア貴族で、且つハーミットクラブの会員でもあるエレルが選ばれた。

 しかし、残念なことにエレル少年は貴族であることを鼻に掛ける少年であり、上に媚び下には威張り散らす典型であった。


「よろしくお願いします」


 とマナが手を差し出しても、


「貴族であるこの私が平民に手を差し出す必要はない!」


 と拒否する。

 挙げ句に、


「貴族である私が、平民の貴様の後を歩くなど出来ん!」


 と言って勝手に先に行く始末だった。

 変な人だと首を傾げるマナに対して、春音と秋音は目に見えて不機嫌になる。

 そんな感じで3時間ほどダンジョンを歩くだけの気まずいダンジョン実習初日となったのだ。

 空気を換えようにも『水遊び』は浅い層ではほとんど魔物が現れない安全なダンジョンであることもそれを助長し、空気が入れ換わるのは、出口で待ち構えていた事務担当の教師の言葉でとなる。

 ダンジョンから出てきたら解散となるダンジョン実習なので、普段出口で待つ人影はないのだが、今回は待ち人があった。


「マナ・マウントホークさん。

 明日から1組の教室で授業を受けてください」


 その待ち人である教師はそう告げて帰ろうとして、


「待て!

 この娘は平民だろ!

 平民が1組に通う事例なんて…」


 と、エレルに呼び止められる。

 それに対して、迷惑そうな事務教師だがエレルが一応は男爵家の嫡男であるので答えるべきと判断したらしい。


「彼女の父親が先日マーキル王国で子爵に任命され、更に魔物の領域『ベネット高地』の解放に成功したと連絡が入りましたので、今の時点で彼女は子爵令嬢。

 …将来は伯爵令嬢以上となるでしょうね」


 事務教師の言葉に愕然としたエレル。

 子爵令嬢でも上位の家格であれば1組もあり得るし、伯爵令嬢なら必然ではある。

 しかし、彼の問題は自身が自分より格上になった少女にこれまで尊大な態度を取っていたこと。


「それでは失礼します」


 事務教師を呆然と見送ったエレルは自分の未来に恐怖する。

 未来の伯爵令嬢に負の感情を持たれた状態で爵位を継げば、自分がゼイル男爵家最後の当主と言うのも十分考えられる未来だから。


「クッ!

 …失礼する」


 焦って寮にある自室へ向かおうとするが、わざわざ別れの挨拶をする時点で、マナを上位者と無意識に認めているエレルだった。


「…どうしたの?」

「さあ?

 何か急用でも思い出したのでは?」

「…間抜け」


 純粋に首を傾げるマナは、自分が急に偉い立場になった自覚がなく、地球にいた頃の感覚のままである。

 対して、昇爵する大体の時期を聞いていた狐の姉妹はニヤリと嫌らしい笑みをエレルの去った方に向ける。

 はぐらかす姉に対して、妹は端的に毒を吐く。


「…次は来月末くらい?」

「戦場で武勲を挙げ続ける主様の噂は、周囲に轟くでしょう。

 もう機会はないかもしれないわよ?」

「……残念」


 期待に満ちた妹に状況説明をすると、あからさまにがっかりとする。

 秋音のこの悪趣味な好みは治らないのかしら? とひっそりとため息をつく春音であった。

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