第18話

通報艦隊は戦闘艦隊とは大きく距離をとっており、降伏の報も届いていなかった。


「戦闘艦隊から連絡が途絶えてどれくらいだ。」


「90分です。」


「ソギュアス。

この状況をどう見る?」


「定時連絡は毎正時。

戦闘で忙しいにしては、遅すぎるので、もう終わっていると考えるのが無難だな。」


ソギュアスの冷たい判断に反対の声が続々と上がった。


「そんな!

戦艦は一隻とはいえ、最新戦艦シャルジュレスの同型艦がそんなに早く沈められるなど、考えられません!!」


「そうです!

写真を見れば貧弱な主砲が有るっきり。

どんなに優れた砲だとしてもたった2隻で戦艦を含む6隻を2時間程度で壊滅できるとは思えません。」


リギュレイは艦橋要員と通報艦隊の司令部要員の顔ぶれを眺め訪ねた。


「ソギュアス以外で日本の技術を実際に見た人物はいるか?」


艦橋要員の下士官が一人手を挙げた。


「貴官はこの状況どう見る?」


「はい。

小官も既に戦闘はわが軍の敗北で終わっていると思います。」


艦橋は再びざわめいた。


「そうか…。

貴官はなぜこちらに付いた?」


「父が陸軍の軍令部勤務で、クーデター派への参加を強制されました。」


「なるほどな。

ソギュアスも貴官も身内に恵まれなかったな。」


その時遠くから轟音が響いてきた。

ソギュアスは咄嗟に指示を出した。


「煙幕弾を発射し、逆方向に舵を!」


事前に発射手順の訓練をしていたので、主砲の後ろに仮設された専用ランチャーから煙幕弾を発射した。


煙幕弾と言っても通常の煙幕ではなく。鉄粉や、鉄の薄いかけらに羽毛を取りつけた物が詰め込んだ筒を発射し拡散する物で、チャフと同様の装備だった。


通報艦2艦を狙った対艦ミサイルは直撃コースから外れ、1艦は後部の監視マストに命中し、もう1艦は至近に着水した。


予想外の事態に烈風攻撃隊が赤城へ通信を入れた。


「赤城へ、こちらシューター。

敵がチャフと思わしき装備を展開。

対艦ミサイルがそれました。

再度攻撃を行います。」


「こちら赤城、攻撃を一時中断。

追って連絡する。」


赤城艦上では簡単な話し合いが行われ、チャフを自力で開発し運用する人材がいるのなら、反クーデター派に合流する様に説得するか、戦後を見据えて生かすべきだと決定された。


「赤城から各機へ、雪風を向かわせ降伏勧告を行う。

各機は上空で待機。」


突如攻撃が止んだことにリギュレイとソギュアスは顔を見合わせた。


「取りあえず、この時間を生かそう。

ギュイス、ギュスア共にダメージ状況を報告。」


「ギュスアは直撃なし。しかし爆風で重症2名、

航行に支障有りません。」


「ギュイスはマストに被弾。

4名重症、軽傷者多数。

艤装が損傷するも航行に支障なし。」


「上々だ、全艦撤退する。」


「司令。

敵艦より入電です。」


「…繋げ」


「こちら日本自衛軍 駆逐艦 雪風。

現在貴艦隊はわが軍の射程範囲である。

機関を停止し降伏せよ。」


「ソギュアス、逃げ切れるか?」


「相手が艦船のみなら戦闘艦隊との戦闘でミサイルを消耗していだろうから、煙幕弾で逃げ切れたかもしれない。

しかし、戦闘機が出てきているのならば、逃げる事もできない。

…リギュレイ、私は降伏勧告に従う事をお勧めする。」


「…そうだな。

降伏勧告に従うと伝え機関停止。」


ここに15島沖海戦と名付けられることとなった一連の戦闘が終了した。

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