第12話
翌8/16に出立前に電話で、ジュリアス知事に面談の申し込みをしておきシャンティア到着時、ジュリアス知事が隠れクーデター派の可能性を考え、まずはレギュス准将の副官が会いに行き、詳細の会談の予定を立てた。
会談の場が設定されレギュス准将がまず口を開いた。
「ジュリアス知事。単刀直入に申し上げます。ぜひ臨時政府の代表になって我らを率いてもらえないでしょうか。」
「申し訳ありませんが、このクーデターでは中立を貫くつもりです。」
そう答えたジュリアス知事の仮面のように無表情だった。
月詠は藤堂との業務で鍛えられた表情を読み取る力から何か引っかかりを感じたので、色々ゆさぶりをかける事にした。
「知事、それは我々日本との友好関係に否定的という事でしょうか。」
「いや、そういうわけではありません。
私の近しいものの中に貴国の軌道エレベーターに乗った人間がおります。そのものは、世界は広さを語り、世界への夢を語っていました。貴国と手を組むことで、恐らく我らの世界も広がる事でしょう。」
「それを聞いて安心しました。
では何故中立を取られるのです。この様な事態での中立はどちらが実権を握ったにしても、立場を危うくするものです。」
ジュリアス知事は、その問いには答えず困ったような笑顔を浮かべただけだったが、月詠はその表情にある種の覚悟を感じた。
ジュライス准将は、そんなジュリアス知事に詰め寄るように懇願した。
「知事、お願いいたします。
知事が上に立つ立たないかかわらず、我らは戦端を開かなくてはならなりません。
しかしこのままでは軍部の独断で行動を起こすことになり、恐らく軍法会議に掛けられるでしょう。
私はまだ良いのです。
その覚悟が有りますから…。
しかし命を懸けて戦う兵士たちに、申し訳が立ちません!」
知事の側近もジュライス准将の訴えに感化されたようで助け舟をだした。
「知事もクーデターに憤っていたではないですか。協力しましょう。」
月詠には、二人の言葉を受けたジュリアス知事の無表情に一瞬ひびが入ったように見えたので、カマをかけてみる事にした。
「ジュリアス知事、ひょっとしてあなたはご自身の血筋に忌避感を抱いておりませんか?」
この言葉を聞いたジュリアス知事は表情を取り繕う事が出来なかった。
「…なぜ、そう思われたのですか。」
月詠は彼も自身と同じ思いを抱いていたことを理解した。
「城山大使、そしてみなさん。これから話すことはオフレコ…、ここだけの話でこの部屋から出たら忘れてください。
私の父は代々政治家を排出し続けた政治家一家の二男として生まれました。
政治家は長男が継ぎ、父は秘書官として兄、私から見て伯父を支えていました。
しかし、伯父は政治家としての政策も展望もなく、えばり散らすだけが仕事の様な人でしたので、父がその分政策を考え、演説台本を書き、名政治家としての虚像を作り上げていました。
大学時代に元々病弱だった父が過労で死に、伯父の名政治家のメッキがはがれボロが出始め、程なく伯父は政治家声明を失う程の致命的な失言で引退することになりました。
政治家を辞任する際に自身の息子に政治家を継がせるつもりでしたが、彼は立候補できる年齢に達していなかったため、中継ぎとして私が立候補する様に言われ、妨害で仕事を続けることが出来なくなり、やむなく政治家になりました。
しかし、日本がこの世界に転移した際、この世界に来た政治家は私だけでした。
この時初めて、父が過労で死ぬまで働き伯父を支えていたか理解できました。
理由はどうであろうと、政治家となったからには多くの人の人生を左右する可能性があるのです。
だから、私は空の議会に誓ったのです、次の首相が誕生するまでは、私の持てる能力すべてを使い、たとえ後で独裁者と非難、断罪されるようなことになってでも、日本をこの世界でやっていける土台を作ろうと。
いまのこのクーデターという現状は、あなたの声一つで大きく動かせます。
血筋はあなたにとっては疎ましい物かもしれませんが、それは大多数の人を不幸にすることも幸福へと導くこともできるはずです。
…すいません、私は自分の事を感情のままに伝えるという事をしたことが無かったので、何を言いたいか上手く伝える事が出来ません。
それでも、よりよい未来の為にお力をお貸しいただけませんか?」
ジュリアスは自身よりも10歳近く若い指導者を眩しそうに見た。
「月詠総理、あなたの言うとおりです。
私は自身の血筋を呪っています。
私は、かつて将来を誓い合った女性が居ましたが、育ちが悪い家柄が釣り合わないという下らない理由で反対した上、親族と取り巻き共がありとあらゆる手で彼女を追い詰め、お腹にいた私の子供は死に、彼女は自ら命を絶ちました。
ですからこの機会に乗じて血筋を穢すことにしたのです。
従弟のジュライスのクーデターはどうせ失敗する。そして私が優柔不断で決断できず、右往左往したあげく、戦後に処罰されれば国民は、血筋に対し絶望してくれるのではと…。」
ジュリアス知事は短い逡巡の後、続けた。
「総理、解りました。
私は臨時政権の代表となりましょう。
ただ一つ条件が有ります。
先に言った通り、私はこの血筋が許せません。
私は今後も独り身でいる予定ですので、この機に血筋を地に堕としてしまいたい。
その為にお力をお貸しいただくことが条件です。」
「…わかりました。
しかし、無罪の者を有罪とするのはクーデター終了後の統治に遺恨を残します。
なので、日和見をしている連中をクーデター側に走らせる必要があります。
念のために、あなたと将軍と同じ血筋は私どもが把握しているのだと、あと2名ですが間違いないでしょうか。
それと婚約者を追い詰めた取り巻きというのは何名ですか。」
条件に取り巻き連中を入れていなかったにも関わらず、しれっと追加してきた月詠の顔をまじまじと見たあと説明をした。
「私の血族は3家で4名です。
私の家とジュライスの家とジュキアスの家でジュキアスには弟がいますので、総理の仰る者で全員です。
私とジュライスが40代でジュキアスの二人は20代。
ジュライスに乳飲み子が一人いるだけで他に子供はまだいません。
取り巻きはその外戚が中心です。
有力なのは私の母の実家、ジュライスとジュキアス兄弟の母と妻の実家の6家です。
取り巻きはこの6家をつぶせば力を失います。
現在ジュライスの妻と母の実家はクーデター派に付き、ジュキアス兄弟とその妻と母の実家は旗色を決めかねております。」
「ジュライスの妻と母の実家はこのまま連座できるので良いとして、
ジュキアス兄弟の家や外戚には、まず噂を流しましょう。
あなたがクーデターに内通しており、秘密裏に反クーデター派を集めた後に粛清する役目をしていると。
そしてクーデター成功後はどこかのライシャル人国家を割譲される予定であると。
恐らくジュキアス兄弟はその気が無くとも、おこぼれを狙う取り巻きの外戚はより大きな利益を得る可能性があるので飛びつく可能性があります。
本人が飛びつかなくとも、その妻の実家や母の実家がクーデター側と繋がれば、連座させることが出来るでしょう。
ただその場合は、兄弟はせめて終身刑で済ませてください。
…しかし、これは我々基準で即興で立てた案です。
文化や価値観の違う場合は上手くいかない可能性があります。」
「いえ、恐らく上手くいくでしょう。
取り巻きの連中は私ら一族を使い自己が利益を得る事を目的としています。
私の結婚が反対されたのは彼女が孤児で、結婚の利益が無い為です。
その路線で行きましょう。」
「ただこうなると、噂が浸透し、彼らが動く時間と噂に乗ったかどうかを調べる必要があります。
レギュス准将、あなた方はその間戦線を維持する必要があるので負担は大きくなりますが宜しいでしょうか。」
「えぇ私もジュライスの無能っぷりには散々悩まされていました。
更に彼らの外戚には軍需産業関係者もいましたので、それらが一掃されれば軍内部の風通しも良くなります。
私はその間は防御に徹しつつ、陸軍で味方にできそうな将校を探します。」
「よかったです。
ジュライス准将が持ち堪えてくれる間に私どもは部隊を派遣します。
表向きはこの交渉は失敗したことにして、知事の親戚と取り巻きが敵側に通じたことを確認次第、知事は臨時政府を樹立を宣言し、日本との共闘を公表してください。
レギュス准将、今地図を出しますので、あなた方の勢力範囲で派遣した艦隊を隠せる無人の島はありませんか?」
「海軍の艦隊で軍艦は全49隻中39隻が我ら反クーデター派なので制海権は我々が有しています。しかし内部に内通者がいる可能性が否定できないので、我ら海軍もあまり近寄らない島がいいと思います。
そうなると此処のカンス環礁あたりが航路から大きく離れており環礁内は比較的波も穏やかで停泊には向いていると思います。」
「ありがとうございます。
ではそこに艦隊を向かわせましょう。そして以降は私の隣にいる統合軍将補の東山と作戦を詰めてください。」
「東山です。
よろしくお願いします。
同じ通信システムを艦隊に持ち込むので、道すがら作戦を詰めさせていただければと思います。」
「レギュスです。解りましたよろしくお願いします。
総理、あと可能でしたら貴国は数年実戦を経験されているとの事ですが、後学の為に私どもの若手を貴艦隊で研修をさせて頂けないでしょうか」
「なるほど、良い話しだと思いますが東山将補どうですか。」
「まだ軍関係の交流が浅くお互いの軍の文化が明確にわかっていない為、実務での研修は軋轢を生む可能性がございます。
ただ、私も今後の交流のきっかけになる良いお話だと思いますので、研修は相互理解が進んでからとして、見学でしたら雪風と浜風にそれぞれ5名受け入れ可能かと思われますがいかがでしょう。」
「ありがとうございます。では10名を選抜します。」
そして、新世界で初の戦闘の為の編成が行われた。
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