第11話
シャルジュレスの日本大使館の準備要員は、借り受けている屋敷を臨時大使館としている。
臨時大使館は元々豪商の持ち物だった為、強盗対策で頑丈で、また丘の上で森と崖に囲まれているので、屋敷に至る一本だけの道が建物からよく見えるのが幸いだった。
港に停泊中の日本の民間輸送船の護衛の為に来ていた巡視船に人をのせ脱出させるまでの間の時間稼ぎとして、臨時大使館に有るだけの旗を掲げ、サーチライトを無意味に照らし注目を集めていた。
結果陽動は上手く良き、正面の道路の入り口にはクーデター派と思われる部隊が道をふさいでいた。
広い臨時大使館に残ったのは大使の城山と、駐在武官の金崎三等陸佐と森川一等陸曹の三人と民間人の脱出を手伝ってくれたシャルジュレス軍人5人の計8人だけだった。
他にも港まで脱出する日本人を誘導してくれた民間のシャルジュレス人もいたが、これ以上は危険なので、彼らとは現地で別れていた。
「大使、今脱出した船が、安全圏に到達したと連絡が有りました。」
その報告に残った全員が歓声をあげた。
「ありがとうございます皆さん。取りあえず、無事送り出すことが出来ました」
金崎は笑みを浮かべながらも釘を刺した。
「本来なら大使も一緒に行ってもらは無くては困ります。」
「その話はもう何度もしたじゃないですか、責任を取る人間が必要ですと。」
「いえ、この文句はあなたが無事本国に帰還するまで言わせていただきます。」
そこへ周囲を警戒していた森川1等陸曹が駆け込んできた。
「大使、三佐、裏の森林からシャルジュレスの軍人らしき人間が侵入してきました。」
「わかった直ぐ行く。
大使、すいませんがここにいてください。」
「いえ、私も行きます。
弾を当てる事は出来なくとも、撃って相手をひるませる位の役には立てるでしょう。」
「ありがとうございます。
でも余り無駄弾を使わないで下さいよ。」
2階に上がる唯一の階段に作成したバリケードに籠り小銃を構えたところで、階下に軍人が見えた。
その軍人は地球風に両手を挙げて近づいてきた。
「私は反クーデター派のレギュス准将の幕僚でシャデリ第三海英です。
残られた方がいると聞き、脱出を手伝いに来ました。我らの部隊までご案内します。」
金崎は、月明かりと声で対象の人物を確認すると、肩の力を抜いた。
「大使、レギュス准将とも彼とも、私は交流があります。彼等なら信頼できます。」
「解りました。
シャデリ殿、来援ありがとうございます。大使の城山です。この身を貴官にお預けします。」
「あと20分ほどで突入が開始される見込みです。お急ぎください。」
それを聞いた森川1曹はにやりと笑い。
「三佐、それなら、20式無反動砲をつかいませんか?
弾は3発しかありませんが、敵を混乱させることは出来るかもしれません。」
「確かに。
大使5分で身の回りの準備と、持ち出せない物は破棄をしてください。
森川1曹、5分で全弾撃って来い。」
突入準備をしていたクーデター派は事前の連絡では大砲などの大型砲は無いと聞いていたが、突然無反動砲の榴弾が撃ち込まれ混乱していた。
クーデター派が万全を期する為、大砲の手配をしている間に無事逃げる事が出来、持ち出した衛星電話で日本に無事を伝えた。
立てられていた救出作戦は、三人の脱出に伴い変更となり、港湾都市でシャルジュレス海軍の母港でもあるシャルギアへ向かった。
第二調査護衛隊改め、第一臨時救出隊がシャルギアに入港した時には反クーデター派の部隊がどんどん集結してきていた。
案内に従い接舷し上陸すると反クーデター部隊の指揮官レギュス准将が出迎えてくれた。
「初めまして第一臨時救出隊 司令の本郷2等海佐です。
この度は、大使と武官を保護していただき誠にありがとうございます。
お蔭で全員が無事危機を脱することが出来ました。」
「いえ、両国の今後を考えれば当然の対応です。
しかし、敵の勢力が想像を大きく超えていますので、ご相談をしたいと思っておりました。」
「解りました。
首相も現在対策の為、官邸に詰めておりますので、すぐに会談の為の通信機器を設置します。会議を行っている場所にご案内ください。」
シャルギア海軍基地にある庁舎の会議室に、由良から持ち込んだ通信機器を設置し、早速会談が開かれた。
「初めまして、日本国首相の月詠です。
まずは、日本人保護にご尽力いただきました事、心よりお礼申し上げます。」
「いえ、これから未来の事を考えれば、お互いに協力することが最善で唯一の道だと思っていますので当然の行動です。
ただ、クーデター派の勢力は想像以上に大きく力をお借りしたいと思っており、援軍を派遣いただけないでしょうか。」
「申し訳ございませんが、現段階では援軍の派遣は出来ません。
私どもの平和安全保障は非常に限定的で、対象の国以外への防衛出動は出来ないのです。」
「では、今から条約締結は出来ないのですか。」
「非常に失礼な物言いになりますので、先に謝罪をさせて頂きます。
私どもは、レギュス准将が第二のジュライス将軍になることを恐れております。
貴国でも文民統治が原則とお聞きしており、軍民の独断での条約締結は軍事政権への第一歩になる恐れがあるからです。」
一瞬会議場が殺気立ったが、当のレギュス准将は落ち着いており、謝罪を口にした。
「確かに、仰る通りです。
危うく、危険な越権行為を犯すところでした。
今の私の提案は忘れてください。」
「いえ、わたくしも失礼な発言を重ねてお詫びします。
先ほどは防衛出動は出来ないと申しましたが、それ以外には援助をさせて頂きます。
先ずタイムラグが殆どない通信システムを提供します。
後、航空機のヒメウをその操縦者と一緒にお貸ししますので、ご利用ください。
由良に搭載の給電機をお貸しし、同時にジュライス将軍支配地に設置してある給電機への電気分配を停止します。」
「ありがとうございます。
しかしよろしいのですが、先ほどのご意見と反する気がするのですが。」
「人員は退去できましたが、設置した給電システムは正式な譲渡が完了していない為、まだ日本国の資産です。
その資産を護るための提供という建前です。
実力を行使しないので、法律には違反しません。
それと、先ほどの条約関連の話をしたいと思っておりますので、臨時政府の代表をご紹介いただきたいのですが。」
「それが、閣僚も議員も一網打尽だったため、まだ臨時政府を立ち上げられていないのです。」
「それでしたら、レギュス准将とも面識のある、本洲から適任者を推薦されました。」
「それは誰でしょうか。」
「シャンキアという都市で知事をしているジュリアス知事です。」
「ジュリアス知事…。
あ!ジュライス将軍の従兄弟の彼ですか!?」
「はい。
我々は、日本排斥派はごく少数にも関わらず、クーデター派がこれだけ多いのは、ジュライス将軍が英雄の血筋で有る為と予測を立てました。
血筋にあたる方は他にも2名いましたが、彼らは評判がすこぶる悪い。
しかしジュリアス知事は思慮深く評判がいいと聞きました。
同じ英雄の血筋のジュリアス知事が臨時政府代表になれば、敵勢力の削減か戦意の喪失につながると考えております。
そして、彼自身は現段階でクーデターに参加していないので、可能性はあります。」
「ありがとうございます。すぐに面会を申し込みます。早速ですが、航空機を使わせていただきます。」
「では、大使の城山と、この機器を一緒にお持ちください。」
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