第10話
月詠は近頃わかってきた藤堂の表情の見分け方から感じた嫌な予感が的中した。
「失礼します。
シャルジュレスでクーデターが発生し、軍事政権が首都を制圧したようです。」
対応が後手に回ったことに対し、月詠は心の中で舌打ちをしつつ、外見上は平静を保ち質問をした。
「外交官や民間の技術者の所在はどうなっていますか。」
「大使館設立を準備していた大使が囮になった上で反クーデター派のシャルジュレス人の協力もあり技術者と官僚の撤退には成功しております。
しかし大使と駐在武官2名の計3人はまだ現地に残っているそうです。」
「撤退した方々は今どこにいますか?」
「現在、調査を行っているシャルジュレスの西約800kmの地点にある仮15島へ向かっているそうです。」
月詠は自身のAIに仮15島の情報を呼び出すように命じると、手元のタブレットでにアルファベットの「C」のような形状の島の画像と調査内容が表示された。
「東山将補、仮15島は調査隊の護衛のために自衛艦が同行していますね」
「はい、仮15島には、調査機材運び込みの為、調査護衛艦隊群から調査護衛艦隊の第4護衛隊が派遣されています。
民間船2隻の護衛が主任務で編制は調査サポートの揚陸艦の由良と護衛の雪風と浜風です。
由良には調査機材搬入の為、余剰スペースがなく、艦載機のヒメウが1機と45式歩兵戦闘車1両、揚陸艇のみですが、駆逐艦 雪風と浜風は完全武装しており戦闘に問題ありません。
しかし、陸戦要員は12名しか居ない為、上陸作戦は困難です。」
「わかりました。
では、民間人と調査機材を民間船に移し、護衛隊を45分以内にシャルジュレスへ向けて出航させてください。
45分以内に移動が出来ない機材が有る場合は積んだままで出航してください。
東山将補、現着までに救出プランを立ててください。」
「すぐに検討にはいります。」
「ひとまず救出は自衛軍に任せてっと…。
藤堂さん。クーデターの首謀者や、声明は解っていますか。」
「ジュライス将軍という者が首謀者です。
声明は文才が無くて無駄に長いですが、要約すると侵略者に対し弱腰な政府をブッ飛ばした。ライシャル人国家は総て俺の配下になって侵略者を追い出せ…以上です。
独創性に欠ける上に、知性のかけらも感じられない文章です。」
「独創性うんぬんは置いておいて、ジュライスって誰だっけ…聞いた記憶は有るんですが、安易にクーデターに走る様な単細胞と友達になった覚えはないんですよね。」
「ジュライス将軍は、軌道エレベーターを調査しに来た艦隊の指揮官で途中で更迭された無能です。無能な単細胞の癖にクーデターを起こせたという事は人望は有るようですね。」
月詠と藤堂二人の言葉にだんだん毒が込められつつあるのを感じた坂白が補足説明をした。
「彼自身の人望というよりは出自に対する期待ではないでしょうか。
彼の曽祖父は80年前の侵略者を追い返した際の立役者で英雄と称えられ、シャルジュレスで一番人気のある人物です。
更に彼には英雄願望が強いとの話も聞きます。」
「自己顕示欲が強い無能は度し難いですね。死ねばいいのに。」
「えぇその通りです。ほんと何で呼吸しているんでしょうか、死ねばいいとおもいます。」
と月詠と藤堂は一通り呪いの言葉を吐いた後に、気を取り直して藤堂に対して指示をだした。
「それでは、まずはマスコミに発表を。
大使と武官2人の3人の邦人が現地に残り脱出を指揮し、それ以外は無事脱出と第一報を入れてください。」
「かしこまりました。すぐに手配をします。」
急ぎ退出する藤堂の背中を見送ったのち、坂白の方を向き、
「坂白大臣、このクーデターに関するすべての情報を閲覧できるようにするので、旧政府側で有望な人材をピックアップしてください。政治家または文民限定で。
クーデター終了後を見据えて、速めにパイプを作りましょう。」
「解りました。すぐに選出します。」
それから3時間ほど高天ヶ原から撮影された写真で軍の配置状況を確認していると藤堂が戻って来た。
その彼女の表情はどこかしら安堵の感情が感じられた。
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