第7話
ライシャル人の艦隊はシャルジュレスという国に所属する艦隊で、シャルジュレスは80年前侵略者の侵入を受け、大ダメージを負って勝利したという経験からことさら軍事を重要視し、さらに侵略者の技術者を捕虜に取っていたこともあり、ライシャル人の中でも頭一つ抜けた兵器を保有していた。
母国と同じ名前を持つ旗艦シャルジュレスを中心にした調査艦隊の中には、不幸なことに二つの指揮系統があった。
一つは艦隊司令官のジュライス将軍を中心とする軍人と、もう一つは外交の全権大使 レシャレを中心とする官僚たちである。
ジュライス将軍は80年前に大活躍した戦士のひ孫で、それを誇りにしていたが彼の場合は行き過ぎており、今回の件も侵略者の巨大兵器だと決めつけ、端から交渉などせずに力で占領、破壊し、自身も曽祖父の様な英雄になる気でいた。
それに対して外交の全権大使 レシャレはまずは話し合いだという姿勢を示したが、艦隊指揮に関する権限は彼に無い為、道すがら何度もジュライスを説得していたが、聞き入れてもらえずにいた。
一方軌道エレベーターでは、本洲が到着すると同時に本国との通信を開き皆守一尉たちと具体的な詰めに入った。
先ず向かっている所属不明艦隊をミーミル列島の内側、ミーミル海に入れない事として、ミーミル列島沖24海里から警告を開始、18海里から威嚇射撃を開始、12海里切ったら1海里毎に1隻ずつ沈めるという方針を決定した。
皆守一尉は防衛線として相手が侵入してくるであろう海路の両脇にある島の山並みの陰になる地点にMLRS、地対艦ミサイルを大隅で揚陸させて配備。
更に万が一ミーミル海に侵入された時への備えとしてエレベーター基部とミーミル列島の中間地点に朝日、不知火を配置。
RF-35EJは艦隊の直掩にあたり、基地内部の空港ではF-4 烈風の離陸準備が既に整っていた。
ちなみに警告メッセージを送るに当たり、なるべく威圧感を与えない為に中央音楽隊に所属する女性隊員の声を録音してライシャル語に変換し利用するという謎の配慮も行われた。
旗艦シャルジュレスの艦橋ではジュライス将軍は隣でまずは会談と訴え続けるレシャレを疎ましく思いな黙らせる方法を考えていた時、艦隊の通信網に音声が割り込んできた。
「こちらは日本国自衛軍、エレベーター護衛部隊です。貴艦隊は、我が国の海域を侵犯しようとしています。
その意思がない場合、即座に引き返してください。
尚、我が国は、シャルヌティアと外交交渉中です。貴艦隊も外交交渉を希望される場合は、停船したうえで返信を送ってください。」
ジュライス将軍は自身が英雄として母都市へ帰還する姿を想像し歓喜に打ち震えながら艦隊を鼓舞した。
「みろ、相手は弱腰でわれらの撤退を望んでいる弱者だ。全力で攻めるんだ!」
レシャレはあわてて彼の行動を止めようと発言をした。
「待ってください将軍。相手のあの勧告は弱者のそれではなく、われらをいつでも叩く自身が有る余裕の勧告です。
そもそも、あれだけの塔を建てる技術が有る民族自体が未知の存在です。
交渉によってまずは状況を確認することが先決です。」
「だまれ!敗北主義者が!未知の技術なら占領して奪えばいい!」
戦闘準備をととのえながら、ミーミル諸島へ接近していくと、警告の口調と内容が変わった。
「威嚇射撃を開始しします。
先ずは先頭の艦の進行方向右 25バイス(1バイス=4m)に着弾、次に進行方向左 25バイスに着弾させます。
念のため、直進させることをお勧めします。」
余りに風変りの警告に口論をしていたジュライスとレシャレはあっけにとられ口論をやめて、スピーカーの方を見入った。
一瞬早く気を取り直したのはジュライスの方だった。
「なんだ侵略者どもはふざけているのか!」
というと同時に長く尾を引くような轟音と共に先頭を行く2等軍艦の進行方向右 25バイスに予告通り巨大な水柱が上がり、続けて進行方向左 25バイスにも巨大な水柱が上がった。
余りに正確な攻撃に動揺したが、それを隠す為、ジュライスは必要以上に声を張り上げた。
「うろたえるな!
まぐれに決まっている。あんな精度で攻撃を命中させることが出来るはずない。
悪逆非道の侵略者に鉄槌を下すんだ!!」
それに反する言葉は正面のレシャレからではなく、背後から上がった。
「閣下、この場合の侵略者は我々です。彼らはわれらから身を守る行動をとっているにすぎません。」
艦隊の参謀長を務めるレギュスだった。
レギュスは興奮し正気を失ったかのような眼をし、口から涎を飛ばして叫ぶジュライスを軽蔑するかのように見つめながら口を開いた。
「閣下、軍の規定により司令部仕官 4名全員の総意を持って指揮権をはく奪できるという規定が有るのはご存知ですか?」
「貴様反逆するのか!」
「反逆ではありません。軍規にのっとた更迭です。ただいまわれら4名の総意を持ってあなたの指揮権をはく奪します。」
ジュライスはわめき暴れたが、待機させていた戦闘要員に取り押さえられ、随伴していた輸送艦内の独房に移された。
指揮権を引き継いだレギュスは全艦に停船を伝え、レシャレが通信を開き応答をした。
「私はシャルジュレスの全権大使のレシャレと申します。我々は貴国との外交交渉を望みます。」
それに応じたのは、勧告とは違う若い男性の声だった。
「私は日本国の全権大使 本洲と申します。今から案内人一人がそちらに向かいます。
大使が乗船されている船は目印を掲げてください。あとその護衛として2隻選んで頂き、合計三隻以外は指定海域に停泊してください。
尚、停泊中に食糧、水等の物資が不足する場合は提供しますし、進行方向右側の島への上陸も許可しますので、希望される場合は申し出てください。」
「解りました。私が載る船にシャルジュレスの国旗である青い花の旗を掲げ、護衛の船には赤い旗を掲げさせます。」
「ありがとうございます。45分後に該当の艦上空にいきますので、後方の甲板を開けて待ってください。」
レシャレは上空という意味が理解できなかったが、色々予想外な事が続いていた為、気にしないことにした。
45分後
ティルトローター機のヒメウが上空で停止し、そこから一人の男が縄橋子を伝い降りてきた。
始めてみる空を飛ぶ機械に驚き甲板にいた兵士たちに緊張が走ったが、降りてきた男の一言で毒気を抜かれた。
「初めまして、護衛隊群の司令代理をつとめる水瀬 一尉と申します。乗艦の許可を頂きたいと思います。」
甲板上にいたライシャル人は既に乗艦してるじゃないかと思ったが、それを飲み込みこんだ
「初めまして 司令官代行のレギュス第一海英と申します。水瀬殿の乗艦を歓迎します。」
「初めまして 全権大使のレシャレと申します。この度は返答が遅れてしまい申し訳ありません。案内をお願いいたします。」
「案内はお任せくださいと言いたいところですが、実はこの先は波も非常に穏やかな安全な海域で、案内は特に必要ありません。私はあなた方に信じてもらう為の人質の様な物です。」
余りにあっけらかんと人質になりに来たという豪胆さにいささか驚くと同時にレシャレとレギュスは彼とこの日本という国に強い興味を抱いた。
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