第8話

ミーミル海を進んでいくと進行方向に2隻の船が見えてきた。

護衛艦隊の朝日と不知火である。


レギュスは自国の最新鋭の戦艦以上の船体と、その大きさに比べ不釣り合いに小さい主砲と逆に大きい艦橋に興味を持った。


「水瀬殿、あれが貴国の軍艦ですか。」


「はい。朝日と不知火です。どちらも30年以上前に建造された古い艦ですが、良い艦です。」


「見たところ主砲が一門しかないようですが、それでは戦力不足ではないですか。」


「確かに主砲は一門だけですが、あの主砲は射程が約9ディバイス強(1ディバイス=4km)あります。

また主砲の代わりになるミサイルを多数積載しています。」


レギュスは最新鋭艦であるシャルジュレスの約3倍もの射程に驚いたが、シャルジュレスの射程は機密事項の為、平静を保って更に質問をした。


「ミサイルとはどんな兵器ですが?」


「解りやすく言うと砲弾自身に推進力を持たせ、目標を追尾して命中させる兵器です。対艦用のミサイルの射程は50ディバイス強といったところです。」


「50ディバイスですか…。

貴国の戦艦の主砲の口径と射程はどの程度ですか?」


「およそ100年ほど前に、46cm、え~貴国の単位だと11.5リバイスの主砲を持つ戦艦を保有しておりましたが、それを最後に、戦艦を保有しておりません。

ちなみにその戦艦の射程は11ディバイス強だったと伝えられています。」


想像以上の大きさの戦艦が出たが、100年前に廃止という事に驚き、疑問をぶつけた


「なぜ、戦艦を持たないのですか?

貴国の技術でしたら、相当な物が出来るのではないですか。」


「最大の理由は戦闘が変わったからです。

航空機という空を飛ぶ兵器が登場してから、遅くて巨大な戦艦はただの的になってしまいました。

現在は航空機に対抗する手段も増えましたが、それでも費用対効果の面から、建造されていません。」


「あなたが乗ってきたようなもので戦艦に勝てるというのですか?」


「私が載ってきたのは短~中距離の輸送を目的としたもので、戦闘用ではありません。

戦艦を時代遅れにした航空機は戦闘機や攻撃機、爆撃機と言い、最新のものは音よりも早く飛ぶことが出来ます。

今回威嚇射撃を行ったのも戦闘機です。

宜しければ、基地につきましたら、ご案内します。」


色々想定外の事柄が噴出したが、後日案内してくれるとの事なので、疑問質問はその時に回すことにし、目下全く分からない塔の機能について質問することにした。


「水瀬殿、あの塔の様な物は一体なんでしょうか。兵器でしょうか?」


「あぁ、すいません。肝心の説明がまだでした。この施設は宇宙というこの世界の外まで続くエレベーターです。」


シャルジュレスの艦橋要員は今まで平静を保って聞いていたが水瀬の軌道エレベーターに対する発言でついに驚きを隠すことが出来なくなっていた。


いち早く平静を取り戻したレギュスは

「え、宇宙まで行くエレベーターですか…。そんなことが本当に可能なんですか?そんなものを作っていったい何をするんですか。」


「一番大きい目的は発電施設で、その他は宇宙での生存権確立の為の実験や宇宙空間でしかできない研究の為の施設で、ちょっと料金が高いですが観光地として公開もしていました。」


「発電など地球でやればいいのではないですか。わざわざ宇宙という場所で行う理由はなんですか?」


「発電方法は、私どもの世界でも何種類もありましたが、自然環境への影響が大きく、風力発電や太陽の光による発電が注目され、特に太陽光発電は宇宙で行うのが一番効率がいいので、この施設で行われます。」


レシャレは太陽の光で発電ということに驚いたが、それよりも観光地として公開されている事に興味を覚えた。


「観光地という事は我々も観る事が出来るのですか。」


「我々は違う世界からこの世界に急に転移させられた為、現在観光を行う余裕がなく、閉鎖されています。

しかし研究員の行き来は続いているので、皆さんがいけるかの確認を取ってみましょう。少々お待ちください」


水瀬は携帯電話でエレベーターの管理局に問い合わせをした後、申し訳なさそうな表情で伝えた。


「申し訳ありません。人種が我々と大きく違うのであなた方の体組織が不明な事と、上は重力が無い為、無重力があなた方に与える影響もまた不明な為、安全が保障できないそうです。」


「それは絶対危険というわけでは無いですよね、私は見てみたいのです。あなた方世界の技術を、そして我々の住むこの世界を。」


水瀬はレギュスの熱意と思いに心を打たれ、数秒の思考の後、なんとしても彼らに世界を見せようと思った。


「…我々も多くの事を知りたいと常日頃から思っていますのでお気持ちはよくわかります。

先ほどは軌道エレベーターの管理組合に確認したので今度は政府に確認を取ってみます。」


「お待たせいたしました。

我々の受けている健康診断を簡易にした物を受けて頂き、診断結果が出る2日後に最終的な判断を出しますが、許可を出した場合も、安全は保障できない事を了承して欲しいとの事です。それでも希望しますか?」


「勿論です。」


「では、希望される方の人数を港に着くまでにお教えください。」


「え、誰でもいいのですか?」


「ミーミル海の外で待っている艦隊の乗員を除き、この艦と護衛の2艦からであれば問題ございません。ただ希望者が多数の場合、何回かに分けさせていただきます。」


「ありがとうございます。危険があることを説明したうえで希望者を募りましょう。」


結局すべてのライシャル人が希望し、更に外洋に停泊している艦の乗組員からの不満も上がった為、護衛の2艦を毎日変更し、10日間かけて全員が軌道エレベーターに乗る事となった。


予想外の長期滞在となったが、長期滞在の間に日本人とライシャル人の間に交流が生まれ、また軌道エレベーターに乗った人間は、一様に世界の広さを知り、今後の国際化の立役者となるライシャル人を多く生み出す事となる。


レシャレと本洲の会談は非常にスムーズに進んだ。

日本は友好と交易を望み、食料の代わりに技術移転を含む技術協力を行い、今後の交流を考え大使館の設置を提案した。

レシャレは全面的に賛同し、国に持ち替えり議会の承認を得る為に全力を尽くす約束をし、本洲は自身が1ヶ月後にシャルジュレスを訪れる約束をし別れた。



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