第3話
月詠はあえて会見場所を衆議院の本会議場を選んだ。
政治家が不在であることを知ってもらう為である。
大きく深呼吸し、いやいや政治家をやっていた気持ちを捨て、これからは真摯に、そして全力で乗り越える事を空の本会議場に誓い口を開いた。
「この放送をご覧のみなさん。現在残った唯一の閣僚、政治家として、この会見で現状の説明をさせて頂きます。
今、日本は本日午前6時の核攻撃に端を発したAIの誤動作により、AI搭載物がすべてコピーされ、この世界に転移していると予測されます。
私は、2024年にテストされた5人の一人だった為、この世界に来ることとなりましたが、殆どが24歳が最高齢となっています。
現在の日本の総人口は3500万人、平均年齢は12歳。
この状態で有史以来最大の国難を乗り越えなければなりません。
しかし、この世界は謎だらけです。
強力な電波を観測しましたので、この世界には我々以外の文明が有るのは、間違いありません。
しかし、彼らが友好的とも限りませんし、未知の病原菌や生物の脅威も有ります。
そして、現在の日本には政治家は私一人で、被選挙権を持つ者は、生きているならば、私を含め5人しかいません。
これは、国家の重大な危機です。
そこで、私はここに6つの法案を提出し、審議し、決議しました。
一つは準国会議員制度です。
準国会議員を制定、被選挙権は23歳、定員は従来の1/3とし、任期は衆議院を2年、参議院を5年とし、6ヶ月後に準国会議員選挙を行い、準国会議員の任期が切れるまでの臨時制度とし、制度終了後に準国会議員を廃止、総選挙を行う。
一つはこの世界にいない旧世界人の財産接収。
この世界に転移しなかった人で3親等以内の親族も転移しなかった人物の財産。
または転移した構成員がいなかったり、いても維持できない企業、団体の財産は政府が接収します。
一つは結婚年齢の引き下げと多産の奨励です。
結婚年齢をこれから20年の間、15歳まで引き下げます。
更に、この期間に新たに3人の子をもうけた夫婦は接収した家屋の中から好きな物を無償で提供します。その他この期間中に生まれた子には、出産費用、学費の全額負担し希望者は学力による振り分けは行いますが、全員が大学まで入れるようにし、各学校に託児所、保育園、幼稚園を併設。
それらは学生以外の地域の住民も預けられるようにし、働きながら、勉強しながらの子育てを支援します。
これらの費用は接収財産を当てます。
一つはサポートAIの独立。
現在は法的に禁止されている各人のサポートAIを体外へ転送したり、体内に戻したりすることを合法化します。
これにより、人間と対話して育った高度なAIを社会の一員とすることで、人出不足の解消を図ります。
一つは世界調査です。
この世界はどのような脅威が有るか解りませんが、探索をしないわけには行けません。
既に小笠原諸島の近海に列島、その他にも数多くの群島が確認されています。
それらはまず、防染対策部隊と調査員を派遣し、安全の確認が取れるまでは、一般人の渡航を禁止します。
一つは石油資源を使用する民間の動力の新規製造禁止と、使用制限、2年以内の撤廃です。
備蓄は限りがあり、この世界で採取できる保証が無い為、人命にかかわるもの、電気で代替できないものに優先して使用します。
現状では軌道エレベーター併設の発電所での太陽光発電だけで得られる電力で旧世界の日本三つ分の電力が得られるので、電気の動力に順次切り替えを行います。
これら6つの法案はまだ名前さえ決まっていません。
しかし、一刻も早く決めなければ成らない事柄です。
我々は恐らく戻れないし、戻れたとしてもどちらがコピーともしれない同一人物がいる世界に帰ることは、予測できない事態を引き起こす可能性があります。
なので、我々はここに新たな日本を建国すべきだと思います。
私は改めて皆様と共にこの国難を転移災害を乗り越える事を誓います。」
会見の翌日。
13歳の親王が天皇に即位、18歳の姉である内親王を摂政とし皇室も新たな体制が動き出した。
即位の儀は国家の状況を鑑みて延期されたが、最初の仕事が月詠叢士の総理大臣への任命である。
こうして、新たな日本がスタートした。
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