第2話
ロシア南下から、真中華軍は自棄になった。
当初国際社会からの反発を恐れ使用していなかった核ミサイルを発射したのである。
日米安保破棄以降も独自に研究を続けていたミサイル防衛網が真価を発揮して、すべての迎撃に成功したが高高度核爆発が引き起こされ巨力な電磁パルスが日本全土に降り注いだ。
その結果日本全土に埋め込まれた地域AIと人埋め込みサポートAIが謎の誤動作を発症しサポートAIを埋め込まれた人間は一斉に気を失い目を覚ました時、名実ともに世界が一変していた。
月詠が気が付き状況を確認しようと那覇基地の幕僚を呼び出したが応答がなく東京の副大臣に通信をつなぐと見慣れたすだれ頭の副大臣ではなく取り乱した風の彼の秘書が通信に出た。
まともにしゃべれない彼をどうにかなだめ、落ち着かせてから聞いた報告は絶望的だった。
「先ほどまで閣僚で対ロシアの会議が開かれていましたが、気が付いたら閣僚が消えていました。他の大臣の秘書にも連絡を取ったが、連絡の取れた秘書は僅かで、話を聞いてもやはり先生方の行方が分からない。恐らく連絡が取れた閣僚、政治家は月詠大臣のみです。」
「わかった、君は私の名前を使って連絡の取れた秘書と手分けして各省庁宛に打診し、付き合いのある研究機関に現状の確認と予測を立てるよう要請をしてくれ」
彼はそれから自身の秘書の藤堂 綾乃を呼びだした。
彼女は新卒で大手企業の役員秘書になった才媛だが、愛想が無く毒舌なところを疎まれた上、セクハラに拳で応えた結果、一年もたたない内に退職しその後、後援会の会長の依頼で秘書に採用したのである。
このような状況にも関わらず、いつもの全く考えが読めない無表情な顔を見てささやかな安堵を覚えつつ指示をだした。
「すぐに東京へ戻ります。大至急自衛軍に航空機を要請してください」
「既に手配済みです。しかし状況が状況ですので、乗り心地は我慢していただきます。」
「・・・それにしても、君はこの状況でも一切動じていないのは頼もしいを通り越して如何かと思うが?」
「とんでもございません。わたくしは現在腰もぬかさんほど狼狽しておりますが、相変わらずの大臣の無神経な物言いのお蔭でどうにか気を取り直すことができたところです。」
と、無表情のまま感情を込めず棒読み状態で言われたので、嘘くさいと思ったが、彼女の毒舌の強さは身に染みているので、スルーすることにした。
それから5分後に機が手配出来、45分後に離陸するという相変わらずの処理能力の高さに感心しつつ、取るものも取り敢えず機上の人となった。
輸送機のすわり心地の悪い椅子の上で、各自治体のAIの報告に目を通していたところ、
「大臣。通信が入っています。至急操縦室に来てください。」
と操縦室からの呼び出しがかかった。
操縦室で通信機を受け取ると副大臣の秘書からだった。
「大臣、船橋副大臣の秘書 榊原です。静止軌道ステーション併設の高天ヶ原研究所から第一次報告が届きました。上手く口で伝えられる自信がないのでデーターを転送します。」
ネガティブな思考に囚われながら座席にもどり、仕事用の端末でデータを受信すると、現在高天ヶ原から眼下に見える地球にユーラシア大陸が見えず、島の配置なども、どう見ても我々の知る地球ではない。という報告と画像データーが添付されていた。
取りあえず落ち着こうと隣に座っていた秘書に端末を渡した。
「取りあえずこんな報告が来たんだけれど、どう思う。」
彼女は2回資料に目を通した後に
「この資料だけでは何とも言えませんが、もう一生分の驚きを味わった気分です。」
とこれまた無表情に言ってのけた。
少しは取り乱した表情を見れるかと期待したが無駄に終わった。
東京の首相官邸に到着するころには各研究機関から一次報告が届いていたがどれも正気を疑いたくなる内容で要約すると電磁パルスが原因でAIが誤動作しAIの個体識別信号が一瞬二重に発信されていることがわかった。
現在この世界にいる人や物はAIの誤動作でそれが搭載されているオリジナルから、この世界にコピーされたようなものではないかという仮説が書かれていた。
月詠が思わず
「誰がこんな出来の悪いSF小説を書いたんだ」
と思わずもらしてしまうと書類を差し出した秘書の藤堂が
「現実逃避は程々にして対策を打ちましょう。そもそも今この日本で閣僚はもちろん政治家もあなた一人しかいません。」
と腹立たしくなるほどの正論を口にしたので苦し紛れに転移後の人口を求めたら、完璧な書類を提出されたので嫌みの一つも言いたくなる心情を抑え対策の立案に専念することにした。
転移後の人口 3500万人
平均年齢 12歳
自衛軍 総員 3.5万
陸上自衛軍 2万
海上自衛軍 1万
航空自衛軍 5千
高天ヶ原からの観測で直接視認できない場所からかなり強力な電波が発信されているのでそれなりの文明が有ることは間違いない。
ただ、それが友好的か解らない中で戦時中だったおかげで思いのほか多くの兵員が手元に残ったのは、運が良かった。
その中で頭を悩ませたのが人口の回復と親がサポートAIを入れていない為、子供のみが転移したパターンだ。
AIから挙げられたアラートで大半の新生児や子供は保護できたが、それでも50人ほどの新生児が間に合わず命を落としていた。
それから10時間程資料を突き合わせながら、各省庁での現在の最高位と対策を検討し2057年 3月26日全放送局に対し臨時会見を開くことを通達した。
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