第4話

次に着手したのが、自分以外にサポートAIの治験体となった4人の呼び出しである。


防衛大学卒で海上自衛軍二等海佐の東山 元悟、外務省の官僚の坂白 良、ITベンチャー起業者の松田幸重、国境なき医師団の一員で、たまたま日本に帰国していた医師の山根智美

サポートAIの力なのか、彼らは俗にいうエリートコースを歩んでいた


「初めまして、消去法で総理になった月詠です。」

個人的に緊張をほぐすつもりの軽口だったが、何故か凄くいたたまれない空気になった。

「皆様、この寒いギャグは彼なりに緊張を解そうとした結果ですので、せせら笑っていただいて結構ですよ」

と藤堂 綾乃のどぎつい一言で多少空気が柔らかくなった。


月詠はワザとらしく咳をした後に本題に入った。

「日本は自動農場の導入で多少改善されたとはいえ、食料を殆ど輸入に頼っていました。人口が激減したおかげで備蓄の食糧と新規生産で5年は持ちますが、それ以降は不足し始めます。

それと、同時に日本周辺の島々には僅かですが、文明の明かりが見られ、軌道エレベーターの静止軌道ステーションから視認できない地点から非常に強い電波を観測しています。

可能なら貿易か、土地を確保しての自動農場の建設が急務の為、早急にこの世界を探索する必要があります。

皆様には今までの経験を元に閣僚としてその力をふるっていただけないでしょうか。」


3人が同意する中、東山は、

「私は残った仕官の中で最高位であり実戦を経験しています。世界情勢が解らない今、閣僚と成るよりも現場にいる方が良いと思います。」


「確かに。

…では、こうしましょう、あなたには数多くの勲功で既に一等海佐が内定していましたから、今日中に一等海佐へ昇進としましょう。」


「え、すいません…その話初耳ですが…。」


「早すぎるのではないかと人事から相談が有りましたが、そこの元防衛大臣がいいじゃん、やっちゃいなよと判をおしてました。」


月詠は周囲の人間に若干引かれている気もしたが、ここでかねてよりの腹案を実行することに。

「確か東山二等海佐は、統合軍の設立研究会のメンバーでしたよね、なのでこの機会に陸海空から人員を集めた統合軍を編成し、その編成を持って、あなたを統合将補とします。そして昇級は一人だけでは不公平ですので、この世界に来た人員を一階級昇進、昇進の内定が出ていたものは更に一階級昇進としましょう。」


その場に居合わせた皆がそれでいいのかという目で見ていたので、月詠は笑顔で

「まぁ、国が危機に陥った時には人事の大盤振る舞いをするもんですから。」

と軽く応えた。


ここで決められた方針は、坂白 良を外務大臣として、人類以外の文明人の調査、言語解析と外交を、松田幸重を文部科学大臣と経済産業大臣の兼任とし、経済力と技術力の維持とこの世界に則した技術開発、この世界での資源調査を、山根智美を厚生労働大臣、環境大臣を兼任させ、未知の環境と未知の疫病への対策を、それぞれの最重要課題とすることを国民に発表した。

尚、それ以外の人事は総理大臣 月詠が兼任し、実務の中から有望な人物が出次第、任命する事となる。


新世界での最初の上陸調査目標は、文明の明かりが確認できなかった小笠原諸島の東島沖 20キロ先に現れた択捉並みの広さの島を含む列島の調査となり、沖縄沖2000キロ先の北海道位の大きさの島で確認された、文明の明かりと思われる光が観測できた地点を静止軌道ステーションに偵察衛星用のカメラを持ち込み撮影すると決定された。


また、新たな調査計画として過去外国の通信会社が計画していた超高高度を飛ぶ無人機に電波中継器と翼に太陽光パネルを取りつけ無補給で自立飛行を続ける電波中継システム構想を模倣し、電波を収集し転送する偵察ドローン作成、遠方にある強力な電波を発生させている地域へ飛ばす計画と軌道エレベーターを利用し、偵察衛星とGPS用の衛星を配置し、惑星全体をカバーする計画を半年以内実施する事も決定された。


そして新たに編成された統合軍は陸海空の戦力を統合運用する第4の軍となり、陸自からは水陸機動団、空挺部隊の一部が参加、空自からは、輸送機と空母所属の航空部隊が参加、海自からは空母を中心に揚陸艦や給油艦等の特務艦とそれらの護衛用の護衛艦数艦が参加した。

複数の軍が共同して作戦にあたる場合は、統合軍が指揮権を握る事となる為、整備や事務に従事する人員以外での新入隊員の配属は無く、各軍で准尉就任時に異動するという事ととなり、艦船の士官以外の乗組員は海自からの出向と決められた。


また、艦種なども護衛艦とされていたものを駆逐艦や空母、軽空母とし、ひらがな命名を軍艦は漢字、巡視船はひらがなと変更された


内閣発足から1週間後、ありとあらゆる学者を集めた調査団が小笠原の東島沖に停泊した統合軍の旗艦に内定した航空母艦 赤城を拠点に新小笠原列島(仮)の上陸調査が行われた。


当初は揚陸艦の能登か由良で計画されたが、万が一未知の生物や、現地住民に襲われる可能性を考慮し、陸戦隊と航空部隊を乗せた一大調査拠点とし、編成間もない統合軍の錬成をかねて、空母赤城と揚陸艦能登、護衛に駆逐艦の天津風と時津風の使用を決定した。


そして、月詠が直前まで同行を希望し、赤城艦上まででいいから見たいといったが、閣僚全員が危ないからダメと言われて、秘書からは仕事の山を残していくことは言語道断と叱られて泣く泣く諦めていた。


上陸した研究者は植物のサンプルや、地質調査、野生動物を捕獲し、ウィルスを保菌しているかの調査し、同時に島の周辺では海底の地形調査も行われ、空母を初めとした大型艦が安全に航行できるルートの開拓を行った。


1ヶ月ほどの調査で危険な動植物は無く、植物は地球と違う種類ながらも、地球由来のものと大差がなく、幾つかの食用可能な品種も見つかった。

夜を照らす明かりが使えない文明レベルの原住民もいなかった為、入植を前提とした調査基地と居住施設、試験的に現地の土と水を使用した小型の自動農場を建築し外界への一歩を踏み出した。


尚、この調査の様子は日本全体を覆う鬱屈とした空気を換える事を考慮して、民間の放送局も同行し、生中継された。

余談ではあるが、某テレビ局もアニメの放送を取りやめて連日ゴールデンタイムに生中継をした為、この調査が原因で日本が滅びるという冗談が飛び交い、久しぶりのいいニュースになった。


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