第5話
順調な新小笠原列島(仮)の調査に反して困難を極めたのが沖縄沖2000キロの距離にある北海道程の大きさの西沖大島(仮)の調査である。この島からは、夜を照らす文明の明かりが確認されたので、電気技術を実現した文明があることが推測された。
まずは静止軌道ステーション併設の研究施設兼、発電施設の高天ヶ原に偵察衛星に使用する超望遠カメラが持ち込まれ、都市の撮影に成功。
街並みは電燈や電柱らしきものや、微弱ながらラジオ放送の様な物が受信でき、19世紀末~20世紀初頭の明治、大正レベルの文明と推測された。
特に驚いたのが現地人類である。
彼らの平均身長は地球人と大差ないが筋骨たくましい肉体を持っており、こめかみのあたり黒真珠の様な美しい光沢をもつ器官が一対あり、目の様な物ではないかという予測から2種類の目を持っていると推測された。
当初は何らかの放送が有ればそれを元に言語解析を行う予定だったが、ラジオだけの解読は困難を極め、代わりに望遠で撮影した人物のジェスチャーや、看板の絵と文字を分析することにした。
そして内閣発足から約2か月後の5月31日に、最低限の調査を終え、交渉に向かう事となった。
その逞しい肉体から拳銃程度では相手が素手であっても人類は圧倒されてしまうと予測した為、なるべく刺激しない様に町がある海岸線の反対側の更に水平線の向こう側に軍艦を配置し非武装の中型船で島の海岸線を回り込み近づく事とした。
護衛は初代と同様に極東戦争時に数々の幸運と武勲に恵まれた駆逐艦 雪風が選抜され、念のために乙型空母 翔鶴も加わり護衛隊が編成された。
今回の交渉は、これからの事もあり、失敗できないので外務大臣の坂白 良本人が直接交渉にあたり、官僚の他に言語解析をした学者が同行する事となった。
島に近づくと軍艦らしき物が現れたので、マストに降参の意味合いがあると思われる赤い布をかざして停船した。
「さて、これからが本番です。
高橋先生お願いします。」
言語学者の高橋は看板などから解析した単語を書いたパネルを手にした。
看板では思うように文法の解析が進まなかった為、単語を抜き出した物だけを使用する事となったのである。
先ずは乗船してきた兵に「武器」、「ない」と「偉い」「人」「政治」「交渉」「望む」のパネルを見せ、現れた仕官らしき人物に「私たち」「違う」「世界」「来た」「違う」「国」と見せた後に「交渉」「望む」と見せると相手が慌ただしく動きだし、2時間後に「案内」という文字を見せられ、港へ誘導してもらった。
坂白は平和裏に済んだことに安堵し高橋に微笑みかけた
「先生、ありがとうございます。取りあえずはスタートラインに立てたようです。」
「はい、でも次からが本番です。それまでに乗組員と会話を試みてAIに発音と文法の解析をさせましょう。」
港に着くまでに自己紹介や、単語の発音を聞き、マナー違反の言語とジェスチャーを教わる過程でAIによる文法の解析が進み、簡単な日常会話程度なら自動翻訳が出来るようになった。
6月1日の未明に港に到着すると武装した兵士が十重二十重に包囲する非常に物々しい雰囲気で迎えられ、その中から歩み出た高官はパネルでの会話しかできないと聞いていたようで、自動音声翻訳での挨拶と自己紹介を聞いたときには驚いていた。
「初めまして、日本国で外交の責任者を務める坂白 良と申します。日本より友好と貿易を求めに参りました。」
「初めまして、シャルヌティアで外務官僚を務めるシャリドアと申します。
聞いていた話では私どもの言語が解らないとの事でしたが、いつの間に覚えたのですが」
「ここに来る過程で船員の方と会話して機械で解析しました。
しかしまだ理解が不十分ですので、出来れば会談まで会話をしていく過程で更に精度を上げたいと思います。
何か奇妙な話し方をしたらご指摘をお願いします。」
「解りました。それでは会談は明日として、案内のスタッフを用意させます。
尚、外出されるときは必ずスタッフの同伴をお願いします。
あと上陸される人数をお教えください、部屋を用意させます。」
人数を聞いた後、シャリドアは坂白を港の管理事務所の応接室で待たせて急いで外務総監に電話を掛けた。
「総監、シャリドアです。
彼らは本当に非武装で、友好と貿易を求めるとの事でした。
80年前に来たという侵略者とは違うようです。
更に驚くべきことに、わずかな時間でこちらの言葉を理解していました。
機械の力でとは言っていましたが、彼らが使う機械は我々では理解が出来ない物でした。
侮ってはいけないと思いますので、こちらも予定していた官舎ではなく、ホテルを用意すべきかと思います。」
「そうか、ではシャルヌティアホテルの最上階と会場を押さえよう。4時間待ってくれ、あと具体的な要求を事前に調べてほしい。」
「わかりました。」
シャリドアが応接室に戻りとホテルの受け入れ準備ができるまでの間、坂白との情報交換に勤めた
「日本は友好と貿易を求めているとの事ですが、具体的に何をお求めで、何を提供できますか。」
「我々が第一に求めるものは食糧と燃料、そしてお互いの大使館の設立です。
後は可能であれば金属の類を求めます。
提供できるものは、通信技術と、その他電気に関する技術が提供できます。」
「食料は量を用意できる保証は有りませんが何とかなると思います。金属や燃料は今後の交渉次第です。
後、大使館と通信と電気に関する技術とはどのような物でしょうか。」
「大使館は私どもがいた世界で行われた外交の一環で、国交のある国同士の首都に置かれ、派遣元の国を代表して、派遣先の国での外交、経済活動の拠点とするほか、その国を訪れる自国人の援助を目的とした施設でその施設内の土地はその国の領土と認定され保護されます。
もちろん大使館設置の際は貴国も我が国の首都に大使を派遣していただきたい。
技術関連は見て頂いた方が早いですが、この板状のものが我々の電話です。
電話以外に色々な物が付随しておりますが、最初にお渡しするのは電話機能のみの方が利用しやすいと思います。
電気技術では効率のいい発電施設と、電気で動く機関車、自動車、家庭用品などとなります。
最新のものを輸出しても良いですし、必要であれば、貴国が自力生産できるように順次、技術移転をしてもかまいません。」
シャリドアを初めシャルヌティア人は、電話の小ささと液晶画面に驚き、また資料を提示したパソコンとそこに映し出される電気製品に驚き、技術移転も可能という点で相手の正気を疑った。
「これは…本当に技術移転をしていただけるのですか?」
「はい、相手が高い技術を持つことでより有益な交易が出来ると我々は考えます。
しかし、いきなり最新技術を提示しても製造が出来ないと思いますので、段階的になると思います。」
それから、互いに交易に関する話をし、会話が途切れた際に坂白は気になっていたことを聞いてみた。
「あと、話が変わりますが我々が港に到着した際に非常に物々しい雰囲気でしたが、過去何かあったのでしょうか。」
「ご不快に思われたのなら申し訳ございません。
実は80年程前にわれらと同じ種族が住む島に外国から船が来て奴隷として国民を多く連れ出そうとしたり、占領しようとしたことが有りました。
武器は圧倒的に劣っていましたが、彼らは肉体が貧弱だった為に何とか追い返す事が出来ました。
我々は彼らが占領するために用意した機材と捕虜にした技術者から技術を習得し、それを独自に発展させてきました。」
「そういう事ですか、もし宜しければ、当時の侵略者が使用していた物品を見せて頂けますか。」
「それは一存では許可できませが、何のためにですか?」
「防衛の為です。もし当時は諦めたとしても技術を発展させ再度進出してくる可能性があります。
その為に80年前の技術から現在の技術を推測しようと思います。」
「なるほど、遺品の情報は上に掛け合いましょう。
また、先ほどの輸出可能品目に兵器は入っていませんでしたが、兵器の輸出や技術移転は可能ですか?」
「兵器の輸出入に関しては緩和されたとは言え、わが国では慣例として非常に難しくなっておりますので即答はできません。
しかし、移転する民間技術の中で、軍事に転用が出来る物があると思います。それらをどう利用するかは、あなた方の自由です。」
そこでシャリドアは相互理解をする上で、聞いておかなければならないことを聞いていなかったことに気が付いた。
「本来最初にお尋ねすべきでしたが、すっかり忘れていました。
先ほど我が国と言われましたが、あなた方の国について教えてください。」
坂白は交渉ばかり考えていた事に気付き、互いの理解の上、重要な事柄を忘れていたことに気付いた。
「そういえば私も忘れていました。
我々日本国について説明させていただきますので、出来ればその後にあなた方シャルヌティアについて教えてください。
日本は伝承では2700年ほど前に初代天皇によって建国されたとなっております。
とは言っても実在しない可能性がある天皇も多いため、実在がほぼ確実視されているのは1500年ほど前の当時の天皇の後継問題後に即位した天皇からとなります。」
「テンノーという物は皇帝や王と同じですか?なら現在も専制政治なのでしょうか。」
「その二つでしたら皇帝がほぼ同じ意味になります。政治体制は100年ほど前に世界規模の戦争に敗北し、その際政治的権限を放棄しました。現在は天皇制は残っていますが、権力は一切なく、権威のみとなっており、実際の政治は国民から選挙で政治家を選び国家運営を行っております。
天皇陛下は決まった事に承認を下したり、友好のための外交活動のみで、法案の立案及び拒否権は無く、国民と国家の象徴という位置づけなっております。」
「象徴とはいささか曖昧な表現ですね。なぜそうまでして天皇制を維持しているのですか。」
「それは、日本人だからとしか言いようがありません。
しかし、あえて私の個人的な見解で回答すると、日本の歴史は常に天皇制と共にあったからだと思います。
天皇制は実は1000年ほど前に実権を失いそれ以降は建前の様な物になっておりました。
それでも歴代権力者は天皇陛下から承認を得て国を統治するという形式をとってきました。
また、陛下は権力を失った後も国の安寧を祈る儀式は変わらず続けられていらっしゃります。
その為、多くの人が敬意を払っており、しかも時の権力者が失策を取ったとしても、その責任は当時の権力者に帰結し、時の天皇は批判されなかったので、天皇制に対するマイナス感情が殆どありません。
また、100年程前の世界的な戦争で負けた際、降伏の決断が下せなかった政府に代わり、降伏を決断されて以降、歴代陛下は国民の気持ちに寄り添われてきたので、多くの国民が慕っております。
なので、今後国交が成立した暁には、陛下をけなす様な発言だけはお避け下さい。」
「なるほど、それは注意する様に伝えましょう。
では、我々シャルヌティアにつきましては、記録が残っているのは1200年ほど前からとなっております。
我々は元々海洋民族でライシャルの民と名乗っており、周囲の島にどんどん入植し、文明圏を広げましたが、約700年前、突如発生した疫病で、総人口の7割が死亡してしまいました。
その結果、外洋航海技術と造船技術が失われ、それぞれの島で独自に歴史を歩んできました。
そして、80年前の侵略者の遺物から外洋船を建造し70年前に再び各島との交流が復活しましたが、その時にはここシャルヌティアを含め、6つの国しか残っていませんでした。
わがシャルヌティアは、900年前にヌティアとなずけたこの島に入植し、都市名シャルヌティアとしました。
断絶した時代の総督を王とし、大半を王政で過ごしましたが、150年前に王の圧政に反発し革命が起き、革命直後は直接民主制を取っておりましたが、100年ほど前から間接民主制に移行しております。」
「ここに入植して総督がいたという事は、母国というか首都の様な都市が有るのですか」
「はい、民族の名前の元となるライシャルという都市が有りましたが、疫病で国民の大半が死亡したようで、70年前真っ先に立ち寄ったそうですが、都市は廃墟となっていたそうです。」
それからしばらく雑談しているとシャリドアがふと思い出したように訪ねた。
「そういえば 貴国はわがシャルヌティア東方にあるそうですが、60日程前に現れた南東に見える天にまで届く光の柱をご存知ですか」
「あぁ、それはわが国が、移転前の他国と協力して建造した軌道エレベーターですね。」
「軌道エレベーターとはなんですか」
「宇宙まで続くエレベーターです。」
彼シャリドアは老後にこの日、生涯で最大の驚きを体験したと語ったという。
そして、ライシャル人国家との会合はシャルヌティアだけにとどまらず、同時に進行する事となる
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