第19話

雪風と浜風は、武装解除をしたシャルジュレスクーデター艦隊とともに仮15島の内海に集結する事となった。


まず損傷を受けた浜風は多用途支援艦の斎とその護衛の駆逐艦 時津風、天津風を待ち、到着後、天津風に護衛されつつ斎に牽引されて横須賀に帰投することとなり、浜風の代わりに時津風が艦隊に加わることとなった。


扱いが困ったのはシャルジュレスの艦隊だった。

シャルジュレスクーデター艦隊は、仮15島に到着するまでのあいだ戦意を喪失したヒューギル乗組員と戦闘艦隊の生き残りに反して通報艦隊のクルーたちの中には降伏に納得がいかない者たちも多くいたが、彼らも合流した赤城と加賀の巨大さに度肝を抜かれ、艦艇の内部を彼らに公開すると戦闘機や、戦車、強化外骨格などを目の当たりにして抵抗する意思を完全に失った。


今後のシャルジュレスとの関係を考え、捕虜としてではなく新しく加わった反クーデター部隊として扱う事になったが、此処でシャンキアへ帰らせると日本との密約が露見する可能性があるので連れて行けず、カンス環礁へ同道する案も考えられたが、待機期間がどれだけ掛かるか不明な中、物資やシャルジュレスクルーの人心への影響を考えると躊躇する事となった。


そんな中、ソギュアスとリギュレイをはじめとした幾人かは、捕虜としてでもいいので、日本へ連れて行ってほしいという希望が出た。


要望はすぐに月詠に伝えられたが、決断が速い彼にしては珍しく決断しかねていた。


「東山さん、先ほど伝えられたライシャル人からの要望をどう思いますか?」


「日本を見てみたいという要望の事ですよね…。

私どもとしては、300人近い人たちが暴徒と化した場合、我々と同じ人間なら問題ありませんが、身体能力が高い彼らとなると大きな損害を受ける可能性があります。

さらに日本軍の兵員が少ない事を知られたくありません。」


「坂白さんはどう思いますか」


「私としては、東山さんの不安も理解できますが、今後の交渉を行う上で、起動エレベーターだけではなく、日本本国を見せることに意義があると思っています。」


「私としても見せることの意義は理解できるのですが、3割の船と4割の航空機が人員不足で動かせない状態なのを知られるとするとちょっと怖いですね。」


「総理、東山さんのご不安は確かにもっともです。

しかし、クーデターがこれほど大事になった原因の一つは相互理解の不足も大きな要因だと思います。

暴動のリスクはなるべく細かな班に分けて別行動をとってもらったり、兵員不足を隠す為に一時的に他の基地から要員を集める等で凌げませんか?」


「…確か、明治時代に海外を歴訪した人たちが帰国して征韓論を一度撤回させたという話がありましたね…。

では、東山さんは、暴動防止策の班分けと兵員不足のカムフラージュ案を、坂白さんは、日本の技術力、経済力をより効果的に知ってもらうための研修案の立案をお願いします。」


「「わかりました。」」


こうして50人ずつ6班に分かれて広島の呉で最新の艦艇と大和博物館で過去の艦艇、静岡で航空機と陸上兵器、東京で経済、技術を知ってもらい、移動は旅客機やリニアモーターカーを体験してもらう方法が立案された。


日本行きを希望した筆頭であるソギュアスとリギュレイは、この日本研修で世界観が大きく変わり、以前考えていた対抗策ではない、新たな考えにたどり着くことになった。

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