第22話

ジュリアスは臨時政府の首班に就任する決意をしてから、秘密裏に計画を進める関係上、知事公邸を離れ、山間部にある個人の別荘にこもって執務を行っており、おかげで安心してヒメウを運用できるようになっていた。


そんな中、レギュスとジュリアス、東山の間で行われている定期会議は微妙な空気の中で開かれた。


レギュスの側近が現状の報告から始めた。

「…最新の報告です。

日本の防衛省外局の指導の下、噂を流しましたところ、浸透までに10日、効果が出るまで20日程度と予測していましたが、12日目で効果が出ました…。」


「…こうもあっさり引っかかるとは思っていませんでした。

ですが、これですぐに行動が起こせそうです。

レギュス准将、東山将補、私はいつ行動に移しましょうか。」


「その件ですが、本日未明に密使が来ました。

密使はシャンティアを牽制している部隊所属の二英で彼らの上官であるシュゼナス准将は反クーデーター派への参加を希望していますが、現在兵権を奪われたうえ、政治犯収容所の司令官として実質軟禁されているとのことです。」


東山が資料を見ながらレギュスに尋ねた。

「この人質となっているシュゼナス准将とはどのような方ですが?」


「3人いる陸軍准将の一人で、最年少ながら優秀で人望も厚く次期将軍と目される方です。」


「クーデター側の内情を知りたいので、話を聞くことはできますか。」


「解りましたお連れしましょう」


会議室のドアが開かれ、密使であるシュレド第二陸英は、通信機越しに参加しているジュリアスと東山の姿を確認し笑顔を浮かべ、敬礼をした。


「初めまして、シュレド第二陸陸英です。

ここで、レギュス准将以外にジュリアス知事と、日本の方お会いできると信じておりました。」


「初めまして日本統合軍将補 東元です。

シュレド第二陸英はわれらの協力関係が予測できていたのですか。」


「いえ、私ではなくシュゼナス准将が知事が隠れクーデター派とのうわさが立ち始めた時期と、日本の艦艇ががシャルギアに入港した時期が近かったため、欺瞞情報ではないかと予測していました。」


「なるほど、それだけで予測を立てるとはシュゼナス准将は噂以上に優れた方なのですね。」


「はい、だからこそ是非救出する作戦をお立ていただきたく参上しました。」


「解りました。

全力を尽くしましょう。

その為にも現在の首都と可能なら収容所の情報をお教えいただけないでしょうか。」


シュレド第二陸英は、シュゼナス准将から渡されたメモを元に作成したクーデター派の情報を開示し、東元が高天原から撮影した情報と照らし合わせていった。


レギュス准将は完成した最新のクーデーター派の情報に軽く目を通しつつ質問した。、


「ありがとうございます。

有益な情報で非常に助かりました。

シュレド第二陸英は部隊に戻られるのですか?」


「いえ、戻るとなるとクーデター派に捉えられる可能性が高くなるので、脱走兵として処理される事になっております。

可能なら、この部隊でわたくしに新しい仕事をいただければと思っております。」


「そうですね、せっかく見つからずたどり着けたので、ここに居てもらった方が安全でしょう。

所属につきましては、明日明後日までには用意させていただきますので、それまで体を休ませてください。

この度は、貴重な情報を持ち込んでいただきありがとうございました。」


「はっ!

それでは失礼いたします。」


彼を見送ってしばらくしてからジュリアス知事が口を開いた。


「さて、彼がいた部隊はシャンキアのある盆地の外側に部隊を展開しているようですが、開戦と同時に盆地へ入れたほうがいいでしょうか。」


レギュス准将は短い思案のあと口を開いた。

「受け入れることで、兵力が不足しているシャンキアを守る貴重な兵力になると思います。

しかし、この申し出が敵の罠だったら非常にまずいことになります。」


東元もジュリアス准将の懸念に同意した。

「えぇ、私も同感です。

しかし、この申し出は、真実なら兵力差をある程度埋めることができ、勝利は確実になります。

知事に臨時政府首班就任宣言をしてもら際、赤城の艦上で行うことにしましょう。

通信ジャックをする関係上、その方が便利です。」


「そうですね、その方法で行きましょう」


「待ってください。

それは私だけ安全圏にいろという事ですか?」


「ご不満は解りますが、あなたを失うわけにはいかないのです。

ご理解ください。」


「…解りましたとは言えませんが、ひとまず保留としましょう。

では、私はいつ頃、反クーデター派の臨時政権首相として名乗りを上げるべきでしょうか。」


「それでしたら、私に案があります」

東元が地図を出し、説明を始めた。


「ジュリアス知事の臨時政権首相就任から時間がたちすぎると、人質として収容所が大軍に囲われたり、首都に連行されたりする可能性があり、救出難度が上がります。

しかし速すぎると騙し討ちといわれる可能性があるため、ほぼ同時に行うのが良いと思います。

具体的な救出作戦としては准将が捉えられている臨時収容所は、首都から約15ディバイスの距離にあります。

航空写真を見てみると周囲がクーデター派の勢力圏の為、護衛の部隊は少数のようです。

しかし、ここから5ディバイス離れたシュルム陸軍基地には数千規模の兵士がいると予想され、救出作戦中に敵が来る可能性があります。

その為、事前にこの基地をミサイルで攻撃し動きを封じたうえで会場に停泊させた空母から空挺部隊を投入し救出します。」


レギュス准将は救出作戦を聞き同意をしめした。

「救出作戦はそれで問題ないでしょう。

シュレド第二陸英が所属していた部隊の受け入れは就任宣言と同時に行います。

受け入れのための空砲を用いた符丁を提示されているので、それを使用します。

問題は日本軍の受け入れ迄の時間です。

シャルギアの陸路を封鎖している敵軍10万が、シャンキアへ向かった場合、約2日で到着してしまいます。

シャルギアの港で部隊を上陸させてからシャンキアへ向かう場合、山を二つ超える必要があり道幅もせまく、同じく2日かかってしまい間に合いませんし、シャンキアには港が無いので、船を接舷できません。」


「それでしたら方法はあります。

わが軍には揚陸艦という海からの上陸作戦を行う艦船があり、陸戦部隊を乗せて砂浜に直接展開が出来ます。

シャンキアからは水平線に隠れる位置に揚陸艦を配備し、宣言と同時に揚陸を開始すれば数時間で全部隊の展開が終了します。

なお、現在私たちの軍が集結している海域から収容所方面、シャンキア方面への展開準備は最短で7日、遅くとも8日で完了します。」


「ちなみに兵力はいかほどですか?」


「展開できる陸上戦力は

戦車が6両、47式機動戦闘車が18両と軽装甲機動車21両、対地ミサイル車両を9両、自走砲を6両といったところで人員は総計で200名程度です。

その他に航空機の支援が入ります。

あと、今回持ってくる兵器の数と性能は翻訳したのを後程まとめてお渡しする予定です。」


「ちょっと待ってください。

シャルギアの陸路を封鎖している軍は10万ですよ。

勝ち目はあるのですか!?」


「都市内部での戦闘は難しいですが、平地で距離が充分取れる状況ですので問題ありません」


「…そうなんですか。

私は軍事は専門外ですが、相手が都市に立てこもった場合はどうなりますか。」


「物陰からの敵の襲撃などは非常に対応が難しいのでこの数では都市戦はできません。

援軍を待つことになると思います。

もし援軍を呼べる状況でなければ、都市ごと破壊することになりますが、出来ることならやりたくはありません。」


「なるほど、確かにそれは最悪の事態ですね。

そうならないように共に全力を尽くしましょう。

それでは作戦の開始は8日後の正午に日本の通信設備を借りて、全国内の放送をジャックして私が臨時政府首班に立つことを表明し、それと同時にして作戦スタートということでよろしいでしょうか。」


「問題ありません。」


「ではよろしくお願いします。」


そして、カンス環礁に待機していた艦は空母加賀と秋月、磯風、十和田は収容所方面へ、赤城と由良と雪風、時津風はシャンキア方面へ向け出港した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

大洋連邦建国記 参十陸 @rusif_el

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ